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モノが無い

 実験の失敗。これに関しては色々と考える必要があるものの、現状問題は無いと言っても良い。

 ただ、その際に気が付いた事で足らないモノがある事に気が付いた渡。


「転移記録の為にカメラをと言うのは有りだと思う……が、魔法陣自体に無茶が有りすぎるのは間違いない」

「ソレは最初から織り込み済みなんだよね。でも、そう言うって事は何か気が付いたのかい?」


 因みに渡が紬や家族達を実験の見学につき合わせている理由。これは、新しい事に挑戦する為に素人目でどんな風に見えたかを聞くためだったりする。

 実際、理解出来ないからこそする質問と言うのは、面白い内容だったり新しい発想に繋がったりするからだ。


「あぁ、よく考えてみたが、俺が此方の世界に戻る際に門を通ったと言っただろう」

「言ってたね。なんだかすごく豪華な感じの門だったっけ」

「そう、その門だが……此方には無い物質で作られていてな」


 門にも様々な魔法文字が書かれていた。となれば、そちらも重要になるのは間違いない。

 そして、その門の材質はと言うと……地球には存在しない、ミスリルやらオリハルコンなどと言った鉱石が使われているだろう。渡は門を見て分析していたのを思い出した。


「でだ、ミスリルは作ろうと思えば錬金術で作れる……が、素材が無い。オリハルコンはそもそも所有して居ないし作り方すら解らない」


 なので現状お手上げだ……と、渡は実験が行き詰っている事を紬に伝えた。


「うーん……代用品とかそう言うのは無理なのかな」

「そうだな。ミスリルを作るにも聖水やらモンスターの素材が必要だ。一応収納魔法で多少所有はしているが、門の作成量を考えると足らないだろうな」


 オリハルコンはどうしようもないとしても、門にも重要性があるのであれば、素材を最低限は総ミスリル製にする必要は有るだろう。

 しかし足らない。

 それは、ミスリル・ミスリルで作られた物・ミスリルを作る為の素材全てを合わせても、門の大きさを考えると……渡は絶望的な物資不足に頭を悩ませる。


「賢者の石でも有れば良いんだがなぁ」

「賢者の石!? ま、まさか人を沢山生贄に……」

「いやいやしないから。それは某漫画の話だろう。あの世界の賢者の石というのは魔力濃度が異常と言える石でな。それ一つあれば神が使うような魔法の媒体になったり、オリハルコンを創れるだろうと言う話さえある代物だ」

「持っては無いんだよね」

「そんな物を持っていたらどれだけ楽か……」


 門の作成だけでは無い。これまでの冒険を考えれば楽なんて言葉では片づけられないだろう。

 渡がどれだけ九死に一生を得たのか……それを考えると実に遠くを見つめてしまう渡。


「ま、オリハルコンよりも伝説クラスのアイテムだからな。所有している人なんて居なかったし、居たとしてもそれを公言する馬鹿はあの世界に存在しないな」


 それに、師匠の遺産にも賢者の石は無かったしな……と、渡は貴重などと言う言葉では足りない物だと、賢者の石についての話を括る。


 ただ、そんな伝説級のモノに縋りたくなるほど渡は頭を抱えている。

 こんな事ならあちらの世界に居た時、師匠の遺産にあったミスリルの塊を売ったりせず、寧ろ大量生産しておけば良かったと後悔。

 自分としては最低限残したつもりだったんだけどなぁ……と苦笑しつつ、後悔ばかりしても仕方ないと気分を切り替え、今出来る物で何か代わりとなる物は無いかと洗いだしていくが……。


 そんな都合のいいモノは中々存在せず、一旦此処で実験と検証はストップする事となった。

物資不足は常に悩ましいモノです。

それが……この世界に無いモノであれば解決すら難しい訳で。

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