秘密の実験
落ち込む。いや、別に合格したと言う情報が誤報だったとかそう言う訳では無い。
ではこの時期になぜ落ち込んでいるのかと言うと、やらかしました! と言う訳だ。何を? うん、それは渡が魔法実験でミスってしまったと言う事。
「まぁ、僕達に相談して、魔法を実験する専用の場所でやった事だから良い。でも、結果がこれは流石に……」
「俺もコレはどうかと思う」
そんな実験の結果。それは……魔法陣の中央に腐食したリンゴが有ると言うモノ。
そんなリンゴ。実験を行う前は実に瑞々しく美味しそうな見た目であった。
しかし、そんなリンゴを使い実験を行う。食べ物で遊んではいけません! と怒られそうな話だが、実験でいきなり生き物を使う訳にも行かないだろう。そして、石などではその変化を確認出来るかと言えば……難しい。
なので、選ばれたのはリンゴ。とっても美味しそうな齧り付きたくなるリンゴ。そんな誘惑を払いのけ、渡はリンゴを実験体とした。
で、リンゴは腐り果てた。
「しかしだ。コレで解った事がある。魔法陣は確りと機能して居る事が解った」
「そうだね、数分間だっけ? その間はリンゴが消えてたし」
そう、やったのは〝界渡り〟の方法と言える魔法のチェック。
とは言え、実際には完璧に魔法陣を仕上げたとは言えない。コレは魔法陣を仕上げる為の実験だったりする。
何せ渡は、受験が終わったと言う事で研究に対して一気にその精力を注ぎこんだ。そして、ある程度魔法陣を起動させれるのでは? と言う状況まで持ってきた。
まぁ、穴は有る。それは魔法陣を描いた渡にとっては織り込み済み。なので、厳重と言える警戒や準備の元にテストを開始したと言う訳だ。
「しかし、腐ったと言う事は時間に関して実に問題が有ると言う事だな」
「だよね。数分で腐るとか……考えられるのって、飛んだ先の時間がこっちと同じじゃないって事だよね」
「うむ。それかもしくは、この腐ったリンゴは全く違うリンゴと言う可能性もある」
何かの作用により、取り換えが起きてしまった可能性。実際、転移させたリンゴがどうなったかなど消えている最中に起きた事なので、渡達に確認出来る術など無い。
解っていることは、この魔法陣を使う事でリンゴが消え、腐ったリンゴが戻って来たと言う事だけだ。
そうである以上……このリンゴが世界を渡ったかどうかも、実際は定かでは無い。
もしかしたら、渡の言う事がこの世界で起きている可能性だってある。ただ、その場合は何処かの食卓だか、果樹園で落ち腐ってしまったリンゴが、綺麗で美味しそうなリンゴになっている可能性がある訳だが……。
「うーむ……しかしこれはかなり厳しい」
「それはどういう?」
「まず、何を改良したら良いのか解らない事だな。取り換えなのか時間が違うのか……過程が解らなさすぎる」
「んー……生き物でやったらわかるの?」
「最低、ソレが飛ばした本体かどうかは解るだろうな」
生体サンプルを取っていればの話だが、リンゴなどよりも腐っていたとて判別は尽きやすいだろう。
しかし渡と紬は完全に忘れている。この世界、この時代の文明の利器を。
そう、撮影装置だ。それを使えば渡の悩んでいることは全て解決するはずで、しかし渡と紬も目の前が魔法だらけと言った視覚情報の為か、魔法的思考に偏りそういった物の事をすっかりと忘れていた。
そんな二人が、科学の力を思い出して「「あぁぁぁぁぁぁ!」」と叫びながら膝をつくまで……二人は頭を抱えウーンと唸り続ける事となった。
簡単に実験が成功する訳が無いと言う事ですな。
ま、師匠の遺産や、世界を渡った時のお手本を見たとはいえ……難しいモノは難しいのです。




