さぁ! しあおうか!!
渡の姿を見た隆治は、渡の気配に思わずと言った感じなのだろう。背負っている竹刀袋から木刀を取り出し戦闘態勢に入った。
高く掲げる木刀、グッと腰を落とし一気に飛び掛からんとする体勢。
そんな姿を見た渡もスッと皆の前へ出ようとし……。
「何をやっとるかぁ! この馬鹿兄!!」
と、横から叫ぶ紬の声で出鼻を挫かれてしまった。スーンと意識が戦闘のソレから、賢者モードと言っても良い程の冷静さになってしまう。
そして紬に叫ばれた兄もまた……。
「お、おぅ!? すまんすまん、つい……な」
まるでその目は、渡に対して解るだろう? と言わんばかり。
とは言え、こんなお天道様も高く、元旦と言うめでたい日に、事件とも思えるような状況をご近所さんに見せるのか! と言う訳で、家族の目は隆治に対してブリザードの如くだ。
そして、そんな家族の目が突き刺さる隆治はと言うと「おおぅ……」と、何だかしょんぼりと萎んで行ってしまっている。
ただ一つ言うならば……そんな隆治の行動よりも、紬の叫びでご近所さんは何事か!? と、野次馬根性丸出しになっていたりするのだが、それはご愛敬。
そもそもの話だが。紬はその見た目から絡まれる事が多かった過去がある……と言うのは以前説明したと思う。そして、ソレを対処して来たのが兄である隆治と言うのも。
言ってしまえば、隆治の行動はご近所さんにとって「あぁ、あのお兄さん帰って来たのか。なんか納得したわ」程度で終わる話。……一体隆治はどれだけの事をして来たのだろうか。
とは言え、ソレは悪い感情を持たれる様なものでは無く、妹を守るお兄ちゃんを生暖かく見守る的なモノ。隆治の頑張りが周囲に認められていると言っても良いだろう。
そして、そんな隆治だが。今は家族に囲まれちょっと居た堪れないと言った雰囲気。
「と言うより、隆治貴方近いうち戻ると言ってたのに、どうして正月まで伸びたのかしら?」
「あー……それはこう、色々と忙しくて」
前に紬の母である鈴が隆治へと連絡をいれた際、彼は近いうちに戻ると告げていた。
しかし蓋を開けてみれば、戻って来たのは今このタイミング。随分と時間が空いたものである。しかも、戻って来た瞬間に戦闘態勢とは……全くこの子は!! と言うのが鈴の感情だろう。
とは言え、この場で話していても仕方ないと、全員揃って鏡宮家へとぞろぞろ入って行く。
因みに言うと、実家からは今年は戻らなくていいぞと言うお達しが。自分達も帰って来た渡に会いたいだろう祖父母。
だが、彼等は渡が戻って来てまだ一年とたって居ないと言う事や、受験シーズンと言う事も考え、今年は自宅でゆっくり家族と過ごしなさいと言う訳だ。実に優しい方々である。
さて、そんな訳で自宅へと入って行った渡達だが、当然話の中心となるのは渡……では無く隆治だ。
「お前……どうしてあのような真似をした」
「いやなに、渡を見たら咄嗟にと言った感じだな」
「咄嗟って……隆治貴方、渡君の事を弟分の様に思ってたじゃない」
と、紬の父である治夫が質問し隆治が答える。すると鈴はあんなにも可愛がっていたのに! と治夫の答えになっていないと更に問いただす。
「だってなぁ、解るだろう? こいつ、異常な強さを身に着けて来ているんだぞ?」
強者は強者を知る。
隆治は渡の体つきや気配から、強者特融の匂いを感じ取っていた。そう、家族を守るために! と努力した自分よりも遥かな高みと言える何かを。
ゆえに試したかった。その強さを、妹を守る事が出来るのかを。力とは持っているだけでは意味がない、明確な意思の元振るえるのかを。
だからこそ、つい木刀を手にしてしまった。……まぁ後はほんの少しの八つ当たりだ。渡が居なくならなければ紬が悲しい顔をする事など無かったと言う。ただ、それを渡に言うのは理不尽極まりない。だからこそ何も言わずちょっとだけの八つ当たり。
そんな言葉と目を向けて来る隆治に、渡もまた何かを感じ取ったのだろう。
「ふむ、なら迷惑の掛からない庭でならどうだろうか?」
そう隆治に告げるのだった。
紬の兄登場。
あ、作者の都合で名前が隆一→隆治になりました。
えぇ、だって両家が揃うと……ちょっとややこしかったですもん。渡の父が修一でしたし。




