不幸の手紙
前話にあった悪戯の内容の一つ
時は少し戻り、渡に対しての嫌がらせが有った頃の話。
渡は今時の中学生であれば、誰しも持っているだろうスマートフォンを持っていない。ゆえに連絡は基本的に紬経由と言うのが、学校やクラスメイト達の連絡の取り方だ。
なぜ持っていないのか? と言う話だが、コレは渡が現状この世界の事について学ぶのに、スマートフォンは早すぎるだろうと言う話から。……あんなのを持っていたら、余計な知識を先行して手に入れ、辺に偏る可能性が有るなんて裏話も。
なので、渡に対して嫌がらせのチェーンメールと言うのは届くはずも無かった。
そんな訳で、渡に対しての嫌がらせの一つは、チェーンメールなどでは無く不幸の手紙として送られてきたのだが……。
「ふむ、呪術も何もかかってないこのような手紙に反応するものなど居るのか?」
と、凄く軽い感じで、渡はその手紙をおもしろそうに眺めていた。
そして、そんな渡に対して紬は苦笑しながら渡の疑問に答えていく。
「君の知って居る呪術は魔力がある世界だからだろう? この世界にはそんなものないからね。どちらかと言うと、ソレは面白半分に出す愉快犯か、相手を不安に陥れようとするやり口なのさ」
ふむふむなるほど……と、渡は何か思い当たるかの様に手紙を見ながら紬の言葉に頷いた。
「と言うと、この呪いと言うのは相手にストレスを与え自壊させる技術と言う事だな」
「あー……確かに、呪いってそう言う側面があったと話を聞いた事があるかも」
毎回不気味な手紙が届く、玄関先に動物の死骸が毎朝置かれている、決まった時間に無言電話が掛かってくる。
これらの行為は、やられる側にとってはストレス以外何物でもない。それこそ、肝が据わった人間でもない限り、どことなく不安を覚えるモノだ。
それに、たとえ肝が据わっていたとしても、その家族は別だろう。家族がソレに対してストレスを感じる様になれば、間接的ではあるが〝呪い〟は完成すると言っても過言では無い。
とは言え、その〝呪い〟を完成させるには、継続する事、誰がやって居るかバレない様にする事と、割とシビアな条件が必要だったりする。
「何とも手の込んだやり口だ」
「ま、魔法何て無いからね」
「そうだな。あちらの世界であれば、魔法で死霊でも操作すれば一発だからな」
死霊と聞き、紬がぞわりと身を震わせた。
「え、やっぱりネクロマンサーみたいなのってあるの?」
「ん? あぁ、有るぞ。よく貴族が抱えていて、敵対する貴族に対して呪いを飛ばしたり、その飛ばされた呪いを防ぐ為にと……まぁ、貴族必須の人材と言える者達だったな」
渡自身も、そんな呪いを飛ばされた事があるのだが、全てはカウンターマジックで返していたりする。
返された呪いが一体どうなったかは……言うまでも無いだろう。
「そう考えると、返す必要のない呪いモドキなど怖くも無いな」
「子供の遊びみたいな物だからね。偶に本気にしちゃう人も居るみたいだけど」
不幸の手紙にしろ、チェーンメールにしろ、それが怖い所である。
ほんの少数ではあるだろうが、本気にして慌てる人達が居る。そして、そんな人たちに限って、普段でも起こりえるちょっとした不幸。
足を躓いた、タンスの角にぶつかった、好物の食べ物を落とした、鳥に糞をかけられた……と言った、モノを不幸の手紙によるものだ! と結びつけてしまう。
結果、呪いは本物だ! と、実にあほらしい話だが、そう言う流れを作ってしまうと言う訳だ。お陰でこう言った事の愉快犯が減らない。
「ま、愉快犯に本物の呪いとして返すと言うのも有りだが」
「え? 出来るの?」
「出来なくはない。とは言え、大きな結果は得られないが」
魔力を使う本当の呪い。とは言え、その効果は低いと言う渡。
「え、なんで?」
「あぁ、この手の手紙で実際に不幸になった人が居ないからな。居たとしても不安を感じたとか被害妄想の類だからな」
媒体となるマイナスの感情が限りなく少ない。だから術としては実に小さいモノとなる。
「ソレに、この世界には魔力が無いと言うのも有る。人の感情は有れど魔力が無ければなぁ……」
呪いに出来るほどのモノは無い。
「ふぅん。なら、呪いで怯える様な必要は無いって事かぁ」
「だな。って事でこんなものは気にしないのが一番だ」
今回渡が魔法を絡めて話したのは、紬に対してこっちの世界でそんなものは無い。気にする必要など無いと強調する為だ。
何故そんな事をしたのか。それは、渡の顔を紬が不安そうに見ていたからだったりする。
渡自身、呪術など使う積りなど一切無かったと言う訳だ。ただ、安堵した紬はと言うと……渡に対して、本当に魔法で呪いは使わないのか? と、短くない時間問いただしたそうだが……。
何故渡達が問題にしなかったのかと言うお話。
まぁ、幼子を相手に対応しているといった感じでして。
本物を知ってますからねぇ……渡。えぇ、それに比べたらと言うやつです。




