魔法を使ってみたい
渡の弟である武は、今、ものすごーーーーーく魔法が使って見たい衝動に駆られている。
と言うのも、朝皆が起きる際、帰宅時気が緩んだ時、夜寝る少し前、そういったタイミングで渡が無意識に魔法をぽんぽんと使っているのを見たからだ。
誰しも思った事が在るのではないだろうか。少年少女と言った年齢の時、かっこいいポーズを取りながら魔法を使う、もしくは気を溜めてドーンと撃ち込むポーズなどなど。
魔法が使えるのであれば、そう言ったモノがすべて再現できる! と、まぁ、武の気持ちはこんなところだろう。
しかし、武にはソレを告げる勇気が無い。
さもありなん。武は渡が帰還してきた際、渡に対して、そして周囲の目がある中で掌をぐるんぐるんと返すような見苦しい姿を見せている。
結果、彼はその事に対して「俺ってめっちゃ恥ずかしいやつじゃん!」と頭を抱え、それが元で渡に対してまともに声をかける事など到底無理! と言った心情。
そして、その掌ドリルの元となったものが魔法である以上……魔法を使いたい! などと恥知らずな事は言えねぇぇぇぇぇ! と、そういう訳だ。
「だけど、魔法は使いたい……」
ぼそりと呟く武。そんな声を母である鈴は聞き漏らす事など無かった。
「あら、なら直接渡に言えば良いじゃない」
「な!? 聞こえてた……いや、ソレは良いけど。何って言うかさ、こう……」
次第に声が小さくなっていく武。最終的にはぼそぼそと何を言っているのかすらわからないレベルに。
そんな武に対して、鈴は全くしょうがない子ねぇ……と言わんばかりに溜息を吐く。
「はぁ……武が何を考えているのは何となく解るけど、そういうのはさっさと解消した方が良いわよ」
「わ、わかってらい!」
「……解ってないわよねぇ」
売り言葉に買い言葉。そんな勢いで解っている! と叫ぶ武に対して鈴は、あぁ、全く解ってないわねこの子………と。
とは言えこればかりは、周りにとって如何しようも無い話だ。どれだけ言っても、本人が行動しない限りは。
「まぁ良いわ……それはそうとして、私も魔法は使って見たいわよねぇ」
実に軽い調子で渡に対して聞いちゃえ☆ と言わんばかりの鈴の行動に、武は戦慄すら覚えた。
何せ、あれだけ魔法に対して使うな! とか、危険だ! と注意していた母がだ。ことも有ろうか気軽に魔法を使えるようになりたいと言うのだから。
「か、母さん? 母さんは魔法が使える事に対して反対して無かった?」
「え? 別に反対はしてないわよ。使いどころを間違えるなって事。魔法なんて便利な道具と一緒でしょう? 刃物を料理に使うか人を害するのに使うのか……それは使う人次第というものよ」
ただ、使い方次第で飛んでもない災厄を招き入れる可能性が有るのが魔法と言う事ね。と、そんな風に戯ける鈴の態度に、何だか武は一気に力が抜けていく気がした。
「なんだ……母さんも使って見たいだけか」
「当たり前じゃない。だって面白そうだもの! きっと修一さんも同じように思ってるわよ」
とは言え、この世界には魔力が無い。そしてそんな世界の住人だ、体内に使える魔力など存在しない訳で……彼等がどれだけ頑張っても魔法は使えないと言う事になる。
では、渡は如何して使えるの? と言う話になるが、それは異世界に行き、その異世界で空気を水を食べ物をと、体内に異世界のモノを取り込んで行ったから。
なので、彼等の望みが叶うなどと言う事は無いのだが……夢をみるぐらいは自由というものだろう。
あれれー? 異世界のモン肉を食べた娘がいたはずだぞー?
と、一度口にした程度なら問題は有りません。てか、それだけで使えるなら、異世界の人達は魔法をじゃんじゃか撃ちまくってるでしょう。




