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野生のプロ

 ガチャガチャ! ターン! と、操作する音。そして、そんな音と共に軽快なリズムで流れるBGM。


 そう、今渡る達は、先日約束したゲームセンターへと足を運んでいた。

 しかし、此処で思わぬ事が渡以外の者に直面してしまう。


「つえぇぇぇぇぇぇ! ちょ! 鏡宮、お前本当に始めてか!?」

「なんか後ろに観客いるし……」

「こ、このゲーム得意だったんだけど……少し自信が……」


 叫ぶのは男子三人組。そして、あらら……と様子を見守る女子二名。ただ、紬からしてみれば仕方ないよなぁ……と思う処ではある。

 何せ、渡の動体視力は異常だ。更に言えばコマンド入力するゲームであれば、そのコマンドはリードの魔法で全て脳内……と、そんな事はせず、まぁ、魔法を使わなくてもこの程度なら覚えられる。

 後はゲーム内における戦闘のリズムなのだが……リアルで巨大なモンスターに、群れを成して襲って来る小型モンスターを対処して来た身としては、一対一のリズムなら直ぐに覚える事が出来ると言うもの。


 結果、プレイしているゲームを見て、少しゲーム機を動かせばあら不思議。プロゲーマーにも近い技術の持ち主が誕生と言う訳だ。


 そして今……そんな渡に対してクラスメイトの男子以外も我こそは! と、挑戦してくる人がいて、それを返り討ちにしている間に一気にギャラリーが出来たと言うのが現状。


「注目を浴びてるよ……僕こういうの慣れてないんだけど」

「だ、だよね。そう言えば彼って此処って時、いっつも女神が良い方に微笑むダイスの目だしてたけど……もしかして、こういう勝負事にすっごく強い?」

「みたいだね」


 苦笑しながら渡を見守る少女達。しかし、そろそろギャラリーは解散してくれないかなぁ……なんて思っていたり。

 だが、そんな少女達の思いとは裏腹に、現場はヒートアップして行く。


「誰か、あいつの連勝を止める事が出来ないのか!!」

「わ、私が行くわ!」

「まて、次は俺だ!」


 と、ゲーム自慢が次々と集まり、この熱は一向に冷める気配は無い。


「それにしても、鏡宮の集中力ってか体力どれだけ無尽蔵なんだ? あれだけ繰り返してたらダウンするよな」

「うーん……鏡宮君って体力ありそうだもん。少し羨ましいなぁ」

「あー……北上は女子にわんちゃんとか言われているぐらいだからなぁ」

「むぅ、せめて柴犬ぐらいにはなりたい。今はどう考えても、扱いがチワワとか豆柴とかダックスだよ」


 彼等は幻視してしまった。北上の頭と腰辺りに、しょぼんと垂れている耳と尻尾を。

 そして、いかんいかん! と頭を振り、現実へと戻って来る。


「むむ……限が無いぞ。誰か代わってはくれないだろうか」


 と、そんな時に渡からチェンジの声が掛かる。しかし、周りがソレを聞き……絶望したような表情を浮かべた。

 そんな状況を見て、紬達はどう声を掛けて良いのか……と悩んでしまう。


 よく考えてみよう。今、無敗の王者である渡。そんな彼を倒すべく、勇者の如く意気込んでいる彼等相手に、此処でやめまーす! などと言えるだろうか。

 ギラついている目、それが全て自分達の方へ向くと思うと……そう考えてしまった少年少女。そして、彼等の判断はと言うと……。


「がんばれ渡!」

「応援してるよ!!」

「ちょっと再戦しようかなぁ……」


 などと言った、裏切りにも等しい言葉を渡に飛ばして行った。


「くっ……そろそろ飲み物が欲しいし、トイレにも行きたいのだが!?」


 そんな渡の声に……かといって、此処でチェンジをするなどと言えるはずも無いし、わざと負けろなどこの状況で言えるか! と。


「どっちもがんばれ!」

「飲み物なら僕が狩って来るよ。かすみん行こう!」

「そ、そうだね! みんなの分も買って来るね」


 と、女子は女子で良いチャンスだ! とこの場から離脱した。若干一名、渡に毒されている上に慌てた為なのか、〝かってくる〟のニュアンスが可笑しい発言をしたのだが、ソレは誰にも気が付かれる事は無かった。




 そんなこんなで、渡はその尊厳を守る事が出来た様だが。変わりに想像以上に疲労したことは確かである。


「ゲームセンターと言うのは特訓の場だったのか……」

「いや、そんな事は無いんだけどね」


 苦笑する一同。ただこの日、渡がゲームセンターにて伝説を作り上げてしまった事だけは確かだったりする。









 因みに、渡と紬はクレーンゲームにも手を出していたりする。

 そしてその際……後少しで人形が落ちるからと、渡がこっそり風魔法を使ってしまい、店員から「あれ? 今の落ちる状況だったか? でも、揺らしたようにも見えなかったし、振動計は反応が無いからなぁ」と、訝しんでいて。


 そんな渡に、紬は耳を引っ張りながらその耳元でぼそりと……。


「魔法使ったでしょ! 何してるのさ!」


 と、渡を咎めた。……が、その光景を目の当たりにした友人達には違う行為に見えた訳で。


「あ、照れて耳元でお礼を言ってるな」

「きゃー! 紬ちゃん大胆!」


 などと、何やら盛大な勘違いが発生したのだが……真実がバレるよりはマシだろう。

 そして、店員のお兄さんもまた……そんな二人のやり取りと、友人である彼等の言葉を耳にした為か、人形が不自然に落ちた事を脳内からぽいっちょし、青春やなぁ……と羨ましそうに見ていたとかなんだとか。

渡に格ゲーなんてやらせたら、結果はこんなものでしょう。

リアルで銃弾を避けられる様な目と反射神経を持ってますからね。


そして、さり気なく魔法を使ってしまう。

まぁ、隣で人形を物欲しそうに見ていた紬に触発されてしまったようです。えぇ、ですが、こんな魔法の使い方は絶対してはいけません。と言う事で、渡も帰宅ごこってりと絞られます。

な・の・で! 魔法が使える子は絶対真似しない様に!(そもそも使えるか!

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― 新着の感想 ―
[一言] 更にそこから15行程下の 「どっちもがんばれ!」 「飲み物なら僕が狩って来るよ。かすみん行こう!」 買ってくるです。
[一言] 40行目付近の  彼等は幻視してしまった。北上の頭と腰辺りに、しょぼんと垂れている耳と尻尾を。  そして、いかんいかん! と頭を振り、現実へと戻って来る。 「むむ……限が無いぞ。誰か変わっ…
[気になる点] おいおい、ダックスフントってあれ猟犬の類いだぞ? ウサギとかに噛みついたら穴のなかで壁とかにぶつけて殺したり気絶させて飼い主に献上する結構暴れん坊さんだぞ? 豆柴とかと一緒にできんぞw…
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