お隣の家族
紬の家族は父である治夫に母の鈴。そして、今は家に居らず一人暮らしの大学生で兄の隆治。そして紬の四人構成だ。
そして、現在宮入さんのお宅では母の鈴が楽しく通話中。
「そうそう! で、紬がね……」
最近良い笑顔で笑う様になったのよ! と満面の笑みで電話に向かって語る。ただ、電話に向かって肩を叩く仕草をしても意味が無いと思うが。
そして、そんな鈴の通話相手はと言えば兄の隆治だ。
何せ渡が帰って来てから、あれやこれやと忙しい日々を過ごしていた。……主に、渡と紬の観察などだが。
その為なのか、てっきり隆治に渡が戻って来た事を伝え忘れていた。
『なぁ母よ……楽しそうで何よりだが、聞けば夏休み辺りに戻って来たそうじゃないか。何でこんなに連絡が遅れたんだ?』
場に静寂が落ちた。それは数秒だろうか、それとも数分だろうか。
ともあれ、母はその静寂を利用し、沈黙は金! と言わんばかりに黙る。……が、そんな状況は長く続かない訳で。
『どうやら、完全に頭から抜け落ちてたかぁ……俺も渡と紬の事は気になってたんだがな』
「あ、あはは~ご、ごめんね~」
察した隆治により話が進められ、乾いた笑いと謝罪の言葉を出すしかない鈴。
「と、兎に角! 今の紬ちゃんはすっごく自然体だから! もう大丈夫だし、ソレを確認するためにも今度戻って来なさいよ」
『あー……そうだな。渡がどんな感じかも見たいしな』
渡には歴戦の戦士の様な気配がある! と言う母の言葉に、隆治はワクワクを隠せない。
何せ、渡が居なくなった当初の隆治はどういう発想でそうなった……渡が消えたのは周りが弱いから! 紬が渡を求めて泣くのも弱い為! なら自分が強くなるべきだ!! と、強くなる事に走ってしまった。
そして、更に何を考えたのか、当時見ていた何かに触発され……木刀を手に庭の木に向かいガンガン振り下ろす日々を過ごしてたと言う……なんとも極端な思考。
『強いんだろう?』
「そうねぇ……そういう場面を見た事は無いから解らないけど、体格だけを見れば相当じゃないかしら」
それはまた……と考える隆治の顔は笑みを浮かべ始めた。まるで、どこぞの戦闘民族が「ワクワクすっぞ」とでも言いそうなレベルで。
しかし、此処でふと気が付いてしまう。
『あ、駄目だ。俺は剣術を使うけど渡が同じように剣を持っている訳じゃ無いか……』
剣術と自分で言っている時点で色々察して欲しい。剣道のルール? 何それ美味しいの? ルールで人が守れるならそれでもいいけどな。と、隆治の思考はこんなもんである。
とは言え、可愛いかった弟分で、将来の義弟予定を相手に木刀でちょっと戦おうぜ! は、流石に無いかなぁ? と考え……。
『よし、渡に色々聞いてからにしよう。それから手合わせと言う流れで……』
「……隆治。あんたはどうしてそんな思考になっちゃったのかしら。折角良い大学に入っているってのに」
鈴の言葉には何とも残念な子を見る様な色が籠っており……。
『そりゃ、強くならないと! って思っちゃったからなぁ。まぁ、今はもう習慣になってるからやってるって感じだけど』
「健康な体を作ると言う意味では良いと思うの。でも、態々戦おうって思わなくても……」
『いやぁ! これも習慣だなぁ。あの後、紬の態度が悪い! とか、紬に付きまとう馬鹿を対処してたらなぁ……』
お兄ちゃんがんばっちゃいました。と、まるで〝てへっ〟とやって居る映像が鈴には電話越しに感じられた。
「はぁ……ソレで助かった事は何度も有ったけど、今は大丈夫なんだから程々にしなさいよ」
『わかってるよ。それじゃ、近いうちに一度戻るから』
「待ってるわよ。きっとお父さんも紬も喜ぶわ」
その言葉の後にプツリと切れる電話。そして、思わず溜息を吐く鈴。
「あの子、強くなるんだ! と頑張ってたのは知ってるけど、やってた事はただただ木刀を振り下ろしてただけなのよねぇ……どうしてそれだけで強くなれたのかしら」
型も技も覚えていないのに……と呟く鈴。
ともあれ、異世界で強くなった渡と強くなるんだ! と一心不乱に木刀を振り下ろして育った隆治。彼等が再会時に何が起こるのか……それは、もう少し後の事。
やっていた訓練……これって、どこぞの剣術の訓練方法なのですよねぇ。
たった一太刀。ソレを極めて達人クラスと化す。えぇ「チェストー!」で有名だけど、実際はチェストなどと言わず「キェェェェェェッェ!」などの猿声で叫ぶあれです。
きっと兄の隆一はソレ系の漫画に嵌っていたのでしょう。




