野兎
季節は秋に入った頃。
渡と紬は受験生なのだが、二人の学力的に問題は無いという事で今は息抜きに来ている。
まぁ、渡の場合ちょっとチート染みた能力で問題がと言う訳だが。一応、それらを身につける為に努力はしているのだから、初期ブースト程度なのだが。
打って変わって、紬に関しては至ってまとも。……いや、まともと言っても良いのだろうか? 彼女の場合は、渡を探す活動をしている時間以外は、思考を少しでも追いやる為に様々な事に対して鬼のように集中していた。
そして、それは授業に関しても言える話。
鬼気迫ると言っても良い勢いで教科書とノートに齧りつき、余計な想像を追いやる為だけに授業に集中した。
チーターと鬼……なんとも言えない話である。
と、そんななんとも言えない二人ではあるが、紬に至っては随分と心の余裕も出て来た訳で。
勉強に関しても余裕があるのだから! と言う事で、なんとも豪快な休み方とでも言えば良いのか、山に紅葉を見に来ていた。
「近所でも見れたと思うのだが」
「こういうのは、山に来るからこそだと思うよ。四方八方全てが! と言うのは実に壮大じゃないか」
実に楽しそうな雰囲気の紬。
それに対して渡はと言えば……周囲を常に警戒して居た。ぶっちゃけ職業病である。
こうした山の中となると、此処がたとえハイキングコースだとしても……いや、だからこそ、渡にとっては恰好の的と言える襲撃ポイント。とは言え、この世界にその様な襲撃者など居ないのだが。
ゆえに職業病と言う訳である。警戒しないと心が落ち着かないという訳だ。
「……息抜きの予定が緊張してしまってるじゃないか」
「いや、すまん。こう、何というか狩られない様にしつつ狩りをしたいという衝動がな」
そう、更に言うと防衛的な面だけでなく、ハンターとしての面からも渡はうずうずしている。
如何に食料となるモンスターを探し、見つけてからはどう狩るか……そんな思考が脳内を占めているのだ。
そして、タイミングが良いのか悪いのか……最近では見る事が珍しくなった野兎が、渡達の目の前を横切って行った。
「ウサギじゃないか!」
思わず声を上げる紬だが……そんな声と同時に動き出そうとする渡が居て。
「ちょっとまった!!」
ガシッ! と、渡の動きを神速の反応で止める。そんな紬に渡は少し感心し、この反応ならば異世界でも通じるのでは? と場違いな事を考えていた。
「ちょっと渡、君は何をしようとしたんだい?」
「いや、つい体が勝手に狩りをしようと……」
「ダメだからね!!」
何がダメなのだろうか。かわいいから? 恐らくそう言う事だろう。
確かに日本において、狩猟を行う際免許が必要なパターンがある。
網猟免許・わな猟免許・第一種銃猟免許・第二種銃猟免許とある……が、実は自由猟法と言う免許なしでも問題無いというものも有り、その中には素手・鷹狩・スリングショットなどが該当していて、渡は素手で突撃しようとしてたのだから、ぶっちゃけ法的には問題は無い。
である以上、やはり可愛いからと言うのが一番の理由では無いか? と言うのが考えらえる最大の要因だ。
「いや、確かに可愛いってのも有るけど……ほら、捕まえたら捌くんでしょ? それを見たら……こう……当分お肉が食べれなくなる気がして」
これは渡の配慮の無さが悪い。
今時、一般人は肉が解体され更にブロックなどにされてから目にするモノ。生きたままの姿から解体されて行くのを直接見るなど、一体どれだけの人が居るだろうか。
世の中にはそういうシーンを見た! と言うだけで、今まで好きだった食べ物が食べられなくなる人もいると言うぐらいだ。そりゃ、可能な限り見なくて良いのなら見たくないだろう。
と、そんな訳で渡が悪い! となる訳だが、ある意味仕方の無い話でもある。
だって渡からしてみれば、狩った生き物を捌くシーンなど毎日の様に見ていた訳だし、異世界の村の子であれば寧ろお駄賃(肉の欠片)の為にと喜々として手伝っていた実情もある。
そりゃ、配慮など出来るはずも無い。
「うむ、これが世界間ショックと言うやつか」
「あはは……ごめんね。でも、こっちの子は殆ど見た事が無いし、見たくないと思うよ」
そう言う物か……と、渡は脳内にインプット。
今知る事が出来て良かった。何せ、今後皆で何処かへと言った際、渡が猪などを素手で狩り(その時点で色々可笑しいと思う話だが)、その場に居る人達の前で解体なんぞ始めようものなら阿鼻叫喚の世界にこんにちはだっただろう。
「うん、これは色々と出かける前に情報のすり合わせが必要だね」
「よろしく頼む……で、魚は捌いても良いのか?」
「あぁ、魚なら大丈夫かな。ただ、毒持ちとかも居るから……」
「ふむふむ、ならば此方の魚について知っておく必要があるか」
楽しい楽しい息抜きと言う名の紅葉狩り。
それは、とある野兎により随分と血生臭いモノになってしまった様だ。
うさぎ美味しいかの……げふんげふん。
と、野兎って余り見なくなって居るそうで。まぁでも、確認されていない訳では無く、偶に写真など上がっていますよね。カワイイ。
ただ、ウサギ肉は美味しいそうで……きっと渡も美味しいのだろうと取りに行こうとしたのでしょう。まぁ、ソレを捌くシーンなんぞ現代っ子(物好き以外)には見たくないでしょうが。
作者も、どうしても! と言う時以外は、ウサギはもふもふしたい存在以外何物でも有りませんw まぁ、彼等は構い過ぎると死ぬので注意ががが……。




