井の中の
大海を知らず。
別に渡は海を知らない訳では無い。この大海と言うのは、言ってしまえば異世界の事。
元の世界へと戻って来て、紬や家族達と話をしていくにつれ、自分がどれだけ狭い世界に居たのかを実感しているという事だ。
そう考えるのも、異世界に居た時の渡は戦いの日々しか知らなかった。モンスターと遭遇してはモンスターを切り、賊と会えば叩き伏せ、戦争だ! と言う時は……参加こそしなかったが、その分モンスター狩りの仕事が増えた。
そんな渡が、此方の世界で出会った美味しい食べ物、戦いでも何でもないただの遊び。これらを体験し、もしかしたら彼方の世界にも美味いモノや娯楽があったのでは? と、ふと思ったというダケ。
「それだけなのだが、何というか随分と損をした気になってな」
「ふぅん……でも、異世界でそう言ったモノに出会わなかったからこそ、今こうして帰って来れているって事もあるんじゃないのかな?」
「ふむ……確かに、あちらの世界で楽しんで居たら、其れだけダンジョン攻略など遅れていたかもしれないな」
ならば、そう言ったモノが見つけられなくても良かったのだろう。とは思うものの……二人は心を一つにしていた。
「「異世界の美味しいモノや娯楽って何だろう」」
思わずハモる。そして、顔を見合わせクスリと笑ってしまう。
「気にはなるよな」
「だよね! 僕なんて君が言ってたお肉の調理法とか、実際手の込んだものもあってすっごく美味しいんじゃないか? って考えちゃうもん」
紬に肉の事を言われ、確かにソレは有るかもしれない。そして、それはきっと想像を絶する美味さなのだろうと渡も考えてしまった。
一度その様な思考に嵌ってしまえば抜け出せるなんて事は無い。気になって仕方が無くなる二人。
そこで渡はふととある事実を思い出してしまう。いや、思い出してしまったと言った方が良いだろうか。
「そう言えば、魔法の中にだな、物を収容する魔法が有るのだが」
「あぁ! 最初に見せて貰った綺麗な石とかを出した奴だね。でもそれが……ってまさか!」
「うむ……入っているのだよ。オーク肉などが」
ゴクリと唾が喉を通る。そして、二人は徐に近づいて行き……。
ガシッ! と手と手を握り合った。それはもう軍隊の人達が、良くやった! と言う時に掴む感じで。
「「食べよう!!」」
この後、二人は一直線に台所へと駆け込むのであった。
二人が台所へと駆け込んでから数時間後。渡の家族が家へと帰宅して来た。
そして、そんな家族がリビングでとある光景を目にしてしまう。
「「天国の食べ物はここに在った……」」
そんな事を呟きながら、心ここに在らずといった渡と紬の姿。
彼等が二人に事情を聴くまで、更に数時間の時間を必要とするのだが……今は彼等にそんな事を知る術など無い。
異世界の娯楽ってなんだろうねぇ……酒と女! みたいなイメージがが……。まぁ、きっと賭博ぐらいはありそうですが。




