草食動物とお肉
家族そろってテレビを見る。そのような普通と言える状況に、渡も漸く慣れて……慣れて来たのだろうか?
兎に角、夕食を楽しんだ後の食休みにて、テレビを見ながら家族の団欒。
そして、今見ているのは動物系のテレビだったりする。
「ウサギ!? 此方の世界では角など生えていないのか! しかも、首を狙って蹴りを入れてくるような真似をしないとは……。まて、ヤギだと! 奴等は邪教のシンボルで闇の魔法を使い、人を操ろうとするやつらだというのに、なぜこんなにも大人しいんだ!」
「……渡の話を聞くと、動物に対する認識の違いが良く解るなぁ」
「動物じゃなくてモンスターの話なんだろうけどね」
出てくる動物に対して、一つ一つ反応する渡を見て、修一と武が遠い目をした。
渡の言う異世界の生き物たちは、どれだけ悪鬼羅刹と言える存在なのだろうかと……。とは言え、武が言う様に動物は動物、モンスターはモンスターと別々の生態系をしているのだが、渡が遭遇するのは基本的にモンスターであり、普通の動物などはまず見なかった。
ただソレも仕方の無い話で、通常の動物は基本穴倉に隠れているか、家畜化出来る動物達は人と共に居るとは言え……まぁ、基本田舎の農村部に居るので渡が彼等を見る事は終始無かった。
そして、渡の見た事がある人以外の生き物はモンスターで、その事しか渡は口にしない。
結果……渡の家族は、異世界に居る生き物は全てモンスターと言う、誤った知識を手に入れてしまう。
「父さん……俺、色々なゲームや漫画とかを見て、異世界が在るなら行ってみたいとか思ってたけど、今はすっごく怖いんだ……」
「安心しろ。父さんも絶対異世界など行きたくないと思っていた処だ」
剣と魔法の世界というロマン。
しかしそんなロマンよりも、モンスターに対する恐怖が彼等の中で打ち勝ってしまった様だ。危機管理能力が確りとしていて素晴らしい。
ただ……その意識が、まさか動物番組で出て来た草食動物を見て芽生えるとは、誰も思いつかなかっただろう。
「それにしても渡。異世界の動物がそんな凶悪なモンスターなら、お肉とかどうしているのかしら?」
奈々は主婦の観点からなのか、異世界の食生活に興味がある様だ。
そして、地球では畜産業が発達していて、日本においては何時でも何処でもお金さえ出せばお肉が手に入る。だからだろう、余計異世界の食糧供給は一体……と思ってしまう。
「あー……基本的に俺達みたいな戦闘をこなせる者が狩ったモンスターの肉だな。それをギルドに提出するんだ。その際俺達は報酬を貰えるし、その提出した肉はギルドから肉屋に卸される……らしい」
らしいとつけたのは、渡が其処まで詳しく組織や物流の流れについて知らないから。
「ふぅん……で、そのモンスター肉って美味しいの?」
「様々だな。とは言っても、どれも獣臭いのは間違いない。美味いけど臭い……っと、まぁ、こっちの肉を食べたから解った事なんだが」
臭みを取る技術。香辛料や肉の処理方法など、此方の世界では当たり前の事。
だが、渡の知る異世界の方法はと言えば、切る、焼く、食べると早さが命と言わんばかりの方法。
ただ、それが全てでは無いだろう。大きな街や都では、そう獣臭さの事を考えて処理している店も有るはず。しかし、渡はどちらかと言えば狩りをする側で、それこそ、食は三分で終わらせな! と言われるような生活をしていた身。
ダンジョンなどに潜っている最中など、保存食が切れたとなれば……狩って直ぐ肉を捌き、その場で焼いて食う。それこそ、塩の味付けすら無しで。そんな生活をして来ていた訳で。
「時と場合によっては、血の味が香辛料みたいな時も有ったなぁ……」
「そ、それは……」
「寄生虫とか大丈夫だったのか?」
その様な心配をするが、今渡が此処に居るという事は大丈夫であったという証拠。
とは言え、想像を絶する食生活を送って来た渡の話を聞き、両親も武も異世界に対するハードルはかなり上がった様だ。
「む、ライオンは百獣の王だと? あいつ等は俺が見た時、リスに齧られて泣いていたぞ」
……どうやら異世界の動物事情と言うのは、全く予想外と言える物の様だ。
その証拠に、今の言葉を聞いてリスの特集になった際、思わずライオンを齧るリスの構図を想像してしまったのだろう。
両親や武は笑って良いのか、ライオンに対して憐れんだら良いのか、兎に角何とも言えない表情を作るしかなかった。
モンスターはある程度強くなるとどんどん大型化して行き、さらに強くなると小型になるタイプも居るとかなんだとか。
そして、ライオンっぽいモンスターを齧っていた小型のリスっぽいモンスターはと言うと……もう御察しである。




