たまや~!
ひゅ~~~と言う音と共に光が天へと昇る。
そして、大きな爆発音と共に暗い夜空に大きな花が咲いた。
「な、なんだ!? 敵……は居ないんだよな」
「花火だよ。夜に大きな祭りの終わりの合図として上げられる様なモノかな」
音だけで言うなら爆発系の魔法でも使ったかのような、まさに戦闘中とでも思ってしまうもの。
確かに花火は爆発を利用している。とは言え、血生臭いなんて事は無く。渡の耳には周囲の人達による歓声が聞こえて来ていて……。
「楽し気な声が聞こえるから、危険は無いと言うのは解るが……うむ、つい戦闘態勢をとってしまうな」
「あはは……まぁ、しょうがないよね。でも綺麗でしょ」
「綺麗……ふむ、綺麗か」
と、こんな感じで、今二人は夏祭りを堪能している。
渡からしてみて、楽しいかどうかと言えば……正直解らない様だ。なので「綺麗でしょ」と言われた処で綺麗の定義すら同じと言えないので、「うんまぁそう言う物か」程度の対応になってしまう。
ただ、コレは育った環境の違いと言うのが大きいので、紬としても「仕方ないかな、これからこれから」と考えている。
「ただまぁ、凄いと言う事はわかる」
技術の違いと言うのは明確で、昼の祭り中でも渡は周囲に気が付かれないようにしつつ、紬相手に色々な反応を見せていた。
射的を見ては、異世界の素材と魔法を使えば凄い武器が作れるのでは? とか、わたあめを食べている子供を見て「雲を食べるだと……」と実に楽しい反応を見せていた。
「冷凍庫が有るのは知ってるが、夏場の外で氷を食べる事が出来るとは……」
「美味しいよ?」
「美味しいのは、家でアイスを食べた事が有るから知っているが……やはり驚きではある」
猛暑の外で食べる氷。たっぷりのシロップを掛けたソレの美味しさは夏の醍醐味と言える。
確かに味も驚愕の内容だっただろう。しかし、渡が驚いているのは技術的なモノ。と、そんな昼の間にも渡の表情は紬にだけ解るようにコロコロと変えていた。
もし周囲の人がソレを見ていれば……こいつ頭大丈夫か? と思ったに違いない。
さて、シーンは花火大会中に戻る。
花火を見て驚く渡と、そんな渡を見て気分が良い紬。
そんな二人だが、渡はふと周りの人が叫んでいる言葉に注目した。
「なぁ、コレは花火なのだろう? なぜ〝たまや〟なんだ?」
「ん? えっと、たしか……昔の花火を上げた人達だったかな」
「ふむ……職人の名前か」
屋号〝玉屋〟元は〝鍵屋〟の暖簾分けで店を構えたのが始まり。
ただ、そんな〝玉屋〟から失火するという、当時重罪とも言える事件を起こしてしまい、〝玉屋〟は財産没収と江戸の街を追放……と、お家断絶する結果となってしまった。
が、沢山の人に愛されていたのだろう。なので今でも花火大会の時に〝たまや~〟と声があげられる。
ただ、そんな事を渡や紬は知っている訳では無い。そして渡にとって解るのは、技術者がその名前を残すと言う事。
異世界において、名前を残す鍛冶屋や皮職人等は総じて素晴らしいモノであった。それこそ、一国の王家が召使えようとする程に。
「名の残る職人か……俺はどちらかと言うと戦闘職なタイプだからな。そういった人達が作る物の価値は理解できる」
自分の命を預ける武器や防具だ。
そして名が伝わる程の武器を理解出来るのは、常に戦闘を行っている者達。そう渡達である。
そのことを紬に伝え、恐らく〝玉屋〟も相当の職人だったのだろうと告げる渡は、空を彩る花火に対して敬意の目を向けていた。
(うーん……なんか感動するポイントが違うなぁ)
そんな、ズレた感覚を持つ渡に、どう普通と言える感覚を伝えて行こうか悩む紬だが……。
(ま、戦闘から離れて日々を過ごせばその内感覚も変わるかな)
と、長い目で見るしか無いなぁ……なんて、この先の事を、一瞬だけ空に咲き誇る花火を見ながら考えるのだった。
詳しく書くと、玉屋さんや鍵屋さんに関してはもっと掘り下げる事が出来ますが……まぁ、お話の中の事なのでと言う事で。
あ、一応この世界の日本にも玉屋さんに鍵屋さんは有りますよ。
そして、微妙にずれている渡である。仕方の無い話だけど。