ぷろろーぐ
ぶっちゃけジャンルは何ぞやかいな? と思う作者です。
「君は朝から何をやっとるかぁぁぁぁぁぁ!!」
ピコーン! と小気味好い音が鳴り響いた。なんて事は無い、ただピコピコハンマーが炸裂した音である。
「むぅ、痛いじゃないか」
「その! きょとんとした顔をしながら言う事か! 全く……朝から突っ込みを入れさせないでくれ。僕としてはそろそろ幼馴染である君に落ち着いてほしいところなんだ……」
全く……と言った感じで額に手を当てながら首を横に振る。
僕などと自称しているが……その姿は女性用の制服を纏ったかわいらしい女子高生だ。
「しかし、今のは何が悪かったんだ?」
「だからいつも言ってるでしょ! えっと、収納魔法だっけ? そんなものこっちの世界で使える人は居ない! だから、お弁当を何もない空間に仕舞わない!」
「あ……そうだったな。魔法何て無い世界だった……無意識の内に仕舞ってたから全く何が悪いか解らなかったぞ」
息を吸うように魔法を使う。それが彼の育ってきた世界の常識だった。
しかし、この世界では魔法などと言うものは存在しない。もし、使って居るところを見られてしまえば……実験と称して色々弄られる運命が待っているだろう。……まぁ、魔法を使いこなしている彼を捕まえる事が出来るかどうかは別の話だが。
「そもそも、君が帰って来てから随分と時間は経ったでしょ……なんで常識のじの字すら覚えてないのさ」
「寝起きと言う事と、そもそも毎日の様に無意識の内で使って居た事までは上書き出来るだけの時間じゃない」
「はぁ……確かにそうかもしれないけど。おばさんにお願いされている身としては憂鬱だよ」
「すまん……迷惑をかける」
確かに、朝や気を抜いた瞬間に突っ込みを入れられる毎日で、彼としても多少ばつが悪いという思いはある。
それゆえに素直に謝罪をするのだが……。
「うん、謝ってくれるのは良いから、もう少しだけ慣れてほしいなぁ……」
「努力する……それにしても、魔法は便利なんだがなぁ」
「他の人が使えないから仕方ないかな。まぁ、使うにしても絶対にバレない様にね?」
「ばれたら実験施設とやらに送られたり、何処かの国が拉致しようとするんだったか」
「そそ、もう君が居なくなって皆が悲しい思いをするのは嫌だからさ」
空気がしんみりとしたものに変わっていった。
そもそも、なぜ彼だけが魔法を使えるのかと言えば、それは彼が幼いころに神隠しに遭遇し異世界へと飛ばされていたからだ。
そして、約十年の月日が経ち、ようやく此方の世界へと戻って来る事が出来た。出来たのだが……まぁ、魑魅魍魎と言えるモンスターや、何時寝首を掻いて来るか解らない輩が居る世界で生き延びた彼だ、当然だが常識なんて全く違う。
そんな彼こと鏡宮 渡と、その幼馴染である宮入 紬がわちゃわちゃと二つの常識と闘いながら日々を過ごしているのだが……まぁ、そのような状況で目立たぬようにしろと言うのは無理な話。
今では、クラスメイト達にもただの夫婦漫才として見られていたりするのだが……それを知らぬのは本人たちのみ。
「兎に角! 今までの常識はきれいさっぱりと忘れて! はい復唱! 魔法は使いません!」
「魔法は使いません!」
「問題があったらすぐ相談! 自分の力で解決はしない事!」
「自分の力で解決はしない事!」
「いちいち食べ物の材料で騒がない!」
「食べ物の材料で騒がない!」
「……他にもあるけど、まぁとりあえずこれぐらいで良いかな? まずは僕に相談するように! と言うか、絶対外に出る時は離れないでね!」
「了解した」
口うるさく言っている様に見えるかもしれないが、これも仕方のない事。なぜなら、これまでそれだけ騒いで来たのだから。
はたして……紬の努力は実り、渡は常識を手にすることが出来るのだろうか? なかなかに茨の道だと思うのだが、折角再会した幼馴染の為に! と、両手に力を入れて気合を入れる紬。
きっと、この先には幸せな日々が待っていると確信しながら。
実はぷろろーぐにたどり着くまでは少しかかります。