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後悔

 『なりたい自分』とはなんだったのか。何の為に生きていたのか。

 これから、()()()()に、()()()()に、自分は生きていくのか--。



 今年で三十歳を迎える、斎藤佑太は、今日も今日とて、倦怠感とともに目を覚ました。

 彼の住む六畳半の部屋は、独り暮らしとしては広すぎていて、逆に彼の鬱屈なる思いを増幅していた。




 今日は休日であった。全く予定がないので、起きても何もすることがない。

 趣味もない。やりたいこともない。何のために生きているのか、自分自身でも分からなかった。




 呼吸をするだけの生き物になりたい。何も考えず、ただ日々を過ごす。生産性の欠片も見えない人物(もの)になりたかった。

 前職を辞めて以来、彼が本来持っていた天性の明るさは微塵も見えなくなってしまっていた。



 コーヒーを飲んでシャワーを浴びる。ただそれだけだ。それで彼の休日は終わる。

 希望も何も見えない。何をやったら良いのか分からない。彼は誰かに救って欲しい、といつも他力本願な思いを抱えて自分は行動を起こすことはなく、ただ無為に時間だけをつぶしていた。



 彼はおもむろに、シャツと上着をはおって、外へ出た。彼の住むマンションはすぐ目の前に二級河川が流れており、そこを意味なく散歩するだけだった。



 斎藤くん、あなたはきっと将来立派な人になるよ。

 斎藤さんは教えるのが上手ね。きっと天職なのね。

 斎藤先生、何で辞めてしまうんだ。あなたしかいない。俺はこれまでそれなりに人を見てきたけど、あなたほど良い奴はいなかった。斎藤先生--



 記憶がフラッシュバックする。彼はかぶりを振った。とにかく何も思い出したくなかった。



 川沿いに木がたくさん生えている。この辺りは桜の名所で、もうすぐ経つと川へ向かって桜が一斉に咲き出すのだ。散った桜は河面に浮かび流れていく。その様は流麗で、近くの沿線の見どころスポットにも指定されている。




 しかし彼には鬱陶しいこと以外の何物でもなかった。桜が咲いたから何だっていうのか。春が来たから何か変わるというのか。

 歩いていると、二つ先の駅までたどり着いてしまった。しまった、歩きすぎだ。これでは帰るのが億劫だ。自分で気まぐれに歩いておきながら、彼は思った。




 明日からまた、()()が始まる。彼は家に帰ると、おもむろにインターネットを開いた。

特に何をする訳でもない。ニュースを一通り読んだり、話題の動画を観たりしていたら、もう夜になっていた。




 彼はすぐに床に就いた。寝る前にいつも願う。早く、この停滞から抜け出さなくてはならない。しかし、どうしたら良いのか、どう行動したら良いのか自分ではわからない。

誰か救ってくれ。どうしたら良いのか。この矮小で卑屈な人間から戻れるのか、誰か導いてくれ--

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