ずーっと以前に書いた創作怪談シリーズとショートショートシリーズ
目が覚めたら豚だった
ある日、目が覚めると、私はブタだった。白いシーツの中で不格好な姿で寝ているブタだった。
パジャマは着ていなかった。
独り暮しのアパートのベットのうえで、横になったピンクのブタだった。
いったい、これはどうしたことだ。昨日の夜着たパジャマは何処へ消えたのだ!
私は、わけが分からなくて錯乱していた。それ以前に私が何故ブタになったのか、考えてもよさそうなものだったが、それよりも消えたパジャマのほうが気になったのだ、その時は・・・。
もう一度眠ったら、「夢だった」と目覚めるのではないかと思ったが、そうしようとしても、あまりの驚きで目が冴えてしまって寝つかれない。だが、このまま起きてしまったら、このままブタのまま定着してしまうような気がする。
私は目を閉じて、眠りに落ちようと努力した。いつもなら二度寝など、文字通り朝飯前なのに、眠れない。眠ろうとすればするほど眠れない。
ならば起きようとすれば眠れるのかもなどと思ってしまう。
いったいどうしよう。
私はこのままブタになってしまうのだろうか。
私はとても寝ていられなくなって飛び起きた。鏡を探した。確か机のなかに手鏡があったはずだ。しかしブタの手ではどうしようもなく引き出しが開けにくい。しかし、その時目の前にブタがいるのを発見した。そこには姿見の鏡があった。すっかり自分のアパートのなかで一番大きい鏡を忘れていた。身長約1メートルピンク色の豚が、こちらを見返していた。それが自分だとはまるで信じられない・・・。私は病院に行くべきなのだろうか・・・。
しかし、この一匹のブタがもと人間だったことをどう説明したら分かってもらえるのだろう。いや、それ以前に、どうやって説明すればいいのだろう。いやいや、それ以前にどうやって電車に乗ればいいのだろう。改札で、「ブタ一枚」などというのか。第一、財布を入れるポケットすらないのだ。私はどうすることも出来ない。私はこのままブタなのだ。
私は恐怖から目を背けようとしていた。とにかくこのアパートから出られない以上このアパート内の食料を確認せねばならないだろう。
私は扱いにくい両手で苦労して冷蔵庫を開けた。
私はそこに豚肉を発見した。私はいい知れない寒気が背中を、まるまるとしたピンク色の背中を走るのを感じた。私は今では単なる食料でしかないのだ。いったい私はどうしたらいいのだ。私は後退りした。が、バランスをくずして無様に転がった。テレビのリモコンを押しつぶした。リモコンは最後の仕事をこなし、テレビのスイッチを入れた。テレビの中では、ブタが、ニュースを読んでいた。