第91話:のこのこ
どもどもべべでございます!
クリスマス会……こいつさえ終われば……!
お、お楽しみあれ……! がくっ
美味しい紅茶で開幕したお茶会。こういう時、人族の皆さんはお菓子もつまんで舌つづみを打つのが定番でしょう。
「これがケーキ……はふぅ、なんという濃厚な……」
ねーちゃんなんかは、ピットの料理人さんが作ったケーキをもひもひしながら恍惚の表情を浮かべています。あれはもう、木の実などの自然な甘みじゃ満足できなくなっているでしょうね……。
かく言う私も、普通に食事は摂取できるのですが、固形となるとお茶よりも吸収しづらいので、あんまり量は食べれません。養分だけ吸い取るならすぐなんですが、今それをやると引かれそうな気がします。
「おかわりお願いします~!」
「は、かしこまりました」
なので、私がすべきはひたすらなお茶の消費!
美味しい紅茶なら、どれだけでも飲めちゃいますのでね。ここは皆さんが引くくらいに遠慮なくおかわりしちゃいますよ!
『おい、こちらにもだ』
「はっ」
ゴンさんもまた、お茶をお代わりしまくっています。食い気より飲み気とは、つくづく私達ってラブラブになれる予感。
しかし、この状況で真に凄いと呼べるのは、やはりノーデさんですねぇ。
「どうぞ」
『ふん、いつもならばこうして要求する前には淹れておろうに、流石に手が足りんか?』
「心苦しく思っております」
「いえいえ~、ほぼノンタイムで淹れたて出せてる時点で流石ですよ~」
そう、ノーデさんはこの面子の飲むタイミングや、おかわり要りそうかという表情を読んで、それぞれのタイミングに合わせて給仕さんにお茶を淹れる指示を出しているのです。
「本当に、凄い特技を身に着けたわねぇノーデちゃん?」
「恐縮です、精霊様」
「いや、正直その辺の執事よりも有能なタイミングだと思うぞ……また美味いしなぁ」
「えぇ、彼を個人的に雇いたいくらいですね」
うぇへへへ、そうでしょうそうでしょう。
我が家の掃除洗濯炊事会計全てをこなすパーフェクトなノーデさんを前にしては、流石のグラハムさん達も舌を巻くしかないのですよ。
絶対あげませんからね! ノーデさんは私のですからねっ!
「さて、俺らフィルボは、さっきのヤテン茶とこの紅茶を出したぜ? お前らは何を振る舞ってくれるのか、楽しみだな」
『ほう、貴様から挑発的な言葉を聞くとは珍しいな』
「こういうのはですね、先出しちまったら安心するんですよ守護者様」
あはは、なるほどですね。
デノンさんたら、美味しいものと美味しいお茶で皆さんがご満悦なもんだから、すっかり肩の荷降ろしちゃって。
……でも、私もそこそこ付き合い長いですからね、わかりますよ。あれは「結局もう一波乱くらいあるんだろうなぁ」って色々覚悟してる顔です。
確かに、皆さん濃いですからね……ゴンさんとかねーちゃんとかが、何かをやらかさないか、ちゃんと気を付けてないといけませんね~。
「そうですね……では、サイシャリィで現在流行している、木の実を干したお茶を出しましょうか」
「おぉ! フルーツティーって奴ですかぁ!?」
うっほほぉ! ここに来て新たなお茶が!
エルフも日々進化してるんやでっていうねーちゃんの気持ちが伝わってくるかのような切り札ですね!
給仕係が、フィルボのカワイイメイドさん達から、なんかエロいエルフのメイドさん達に交代してるのが見て取れます。フィルボの皆さんは、これ幸いと笑顔で部屋から出て行きました。
多分、お祭りに行きたかったんだろうなぁ。楽しんできてくださいねっ。
「ん? でもキノコ茶じゃないんですね?」
「……その件ですが……」
「ん?」
ねーちゃんは深くため息をついた後、ジトっと私に視線を向けます。
なんというか、悪くない視線ですよね。ちょっとドキドキしちゃいます。
「どこぞの誰かさんが、キノコを不用意に増やしてくれたおかげで……現在サイシャリィでは、新種のキノコがお茶にできるのかを選別しないといけなくなってるんです。なので、キノコ茶関連は製造が凍結しているのです……」
おぅ……それはその……。
「あ~、それはコイツが作った原木のせいだ。空気中の弱い菌糸まで巻き込んで、あるだけキノコ生やしちまうようになってんだよ。うちもそうだった」
「キ、キースさぁん!? 裏切りましたね~!?」
「最初から味方じゃねぇよ! しいて言うなら横切ったわ!」
あぁぁぁ! みんなの視線が痛い!
止めて! そんな目で私を見ないで! あぁもっと!
「やはり……というか、あぁなった時点で原因は間違いなく貴方だと思っていましたが……キノコ茶が出せなくて残念ではあります」
「あぅ……」
「頼みの綱であったモスマッシュまで、軒並み新種に置き換わってたんですよね……原木から生えたキノコの菌糸が強化されて、新たな種類を生んだとしか考えられません」
「こいつの原木、一度キノコを強化して辺り一面に広がらせるからな。開けた空間だと無限に広がりかねないぞ」
「えぇ、危うく生活区域までキノコに浸食されそうだったので、慌てて対キノコ用術式と結界で進行を抑え込んだのです。今は結界内以外では生えませんが……結界にまで根を張って、正方形のキノコの塊みたいになってて……かなり怖いですね」
え、なにそれまじもんのパンデミックじゃないですか。
ゴンさん! なに声も無く爆笑してるんですか! やめなさい、見つかったらねーちゃんが怒りますよ!?
「原木が生命力を増幅させて、キノコを爆発的に増やしたって感じか……災難だったな、ネグノッテ女王」
「あうあう……す、すみません……」
「あぁいえ、我々エルフはキノコを盛大に消費する種族なので、増えてくれたこと自体は怒ってはいないのです」
そ、そうなんですか!?
よかった……
「ただ、森の管理者さんに一言、言っておきたい事があるんですよね」
おぅ? 怒る訳ではなく、言いたい事?
はて、一体全体どんな感じなのでしょう。
「木の実茶が出来るまでの間、お聞きいただけますか?」
「あ、どうぞどうぞ~」
「では……今後我々が協力するにあたって、貴女に守って欲しい条件があるのです。先に提示しておきますので、同盟が実現する運びになる際に、この条件も一考して判断してくださいね」
なるほど、同盟の条件の提案ですか。
なんだか、サミットっぽくなってきましたね~。
「なんでしょう?」
「……今後、他国にキノコの原木を作らないで欲しいのです」
「……それだけ?」
「えぇ、貴女に対しては、それだけです」
なぁんだ、そんな事ですか。
当然そのつもりですよ~。区画をまるまる食いつぶすキノコの爆弾なんて、他の人に渡す訳ありません。
それだけ守ればいいだなんて、ねーちゃんたらされは同盟に乗り気ですね~?
「……同盟した際の、特産品の確保、ですか」
「あら、無粋ですね。商人さん」
「失礼」
おぉ、グラハムさんが何かに気付いたご様子。
特産品の確保、とは?
「あ~、管理者様がわかってねぇ顔してるから、教えとくな? つまり、俺らとエルフ、そして管理者様が同盟組んだ場合、それぞれの名産品やらなんやらも、今後やりとりしやすいわけだ」
「ふむふむ」
「んで、エルフの名産はキノコだよな? でも、キノコを各国が保持してたら、その価値は大きく下がる。ネグノッテ女王はそれを避けたいんだよ」
おぉぉ~、なるほど~。
確かに、私が色んな国に原木プレゼントしちゃったら、キノコなんていらんわ~! ってなりますよね。
それは気付きませんでしたよ。
『まぁ、現に我々は、既にキノコいらんしな』
「だよなぁ」
「凄く納得です~」
「話が早くて助かります。そちらでも判別作業は続いているのでしょう? まだまだ色々新種が見つかりそうですものね」
「まぁな。結構楽しいぜ」
そんなお話しをしていますと……どうやら、準備は整ったご様子。
とってもフルーティな香りが、してきましたよ~?