第90話:開催
どもどもべべでございます!
お茶会が始まり、いよいよ終わりに近づいて参りました。
これからどうなるやら。お楽しみに~!
季節によっては、満開の花畑が広がる景色を楽しめる一軒家。
小高い丘に立つ大樹に見守られ、その大樹と同一化した保育園から子供たちの笑い声を聞く事だってできるかもしれません。
しかし、今は祭の真っ最中ですからね。今日はこの周辺も静かなものです。賑やかなお祭りの空気を遠くに聞きながら、落ち着いてお茶を嗜むというのは、かなり上流階級っぽいですね。
そんな素敵な空間に、今私達は集まっています。
お部屋のセンスはかなり私好み。ゴンさんでも楽々に過ごせる広い空間に、落ち着いた雰囲気の調度品が散りばめられています。
真ん中には大きな長方形のテーブルが置かれてて、ここだけアットホームとは違う空気。でも、これならみんなで囲んでお茶を飲めますね~。
ちなみに、テーブルには既に美味しそうなお茶菓子もあります。スコーンにクッキーに、これはケーキ!? もうマスターしてる職人さんがいるんですねぇ。凄いです!
飾ってあるお皿とかの価値は全然まったくこれっぽっちもわかりませんが、明かに子供たちが粘土ペタペタしたのを焼いたであろう独特な花瓶とか、押し花のしおりとかが飾ってあるのがとってもナイス。見ててほのぼのしちゃいます。
絵本とかだと、こんな時に「なんだこの安物は~!」とかいう意地悪な王様とかもいるかもですが、ここにいる面子にはそんな悪い人いませんからね! 子どもたちのおもてなしの心を堪能しながらお茶会としゃれこもうじゃないですか~。
「うわぁ、この花瓶作り雑すぎんだろ。この会場には不釣り合いな安物置いて大丈夫k」
『ふんっ』
「うゎらばぁ!?」
「おやキースさん、ご気分が優れないようで。こちらの別室にどうぞ~」
「げふっ、や、やめ……」
しばらくお待ちください。
◆ ◆ ◆
「ステキナカビンダナァ。ステキナカビンダナァ」
「えぇえぇ、そうでしょうそうでしょう~」
『ふん、チビ共にしてはマシな物を作る』
「ステキナカビンダナァ。ステキナカビンダナァ」
……うん、この空間にはそんな悪い人いませんものね!
子どもたちの精一杯の気持ちに難癖付けるキースさんなんて、ここにはいなかった。いいね?
「……キースは立派に馴染んでいるようですね。では早速始めていきましょうか」
「え」
「デノン王。あれは全面的にキースが悪いです」
「……だな。触らぬ神に祟りなしだわ」
私は直立不動のキースさんをゆっくり座らせ、ゆっくりと頭を撫でてあげました。
まぁ、少ししたら元に戻るでしょ。あんまり深く弄ってませんし。
「あらあら、ココナちゃんたらやんちゃなんだからぁ」
『貴様が手を下すよりマシであろうが。花瓶をけなされた瞬間魔力を纏いおって……』
「やぁねぇ、少し脅かそうとしただけよぉ?」
『ふん、どうだかな』
んもぅ、ゴンさんもえっちゃんもピリピリしちゃって。カレーならそのくらいがベストなんでしょうけど、今はご遠慮願いたいですよね。
グラハムさん達が怯えちゃってるじゃないですか。今は楽しいお茶会なんだから、楽しくいかないといけませんよ?
「……会頭。座りましょう」
「あぁ……俺達は何も見なかった」
と、いうわけで。
私達はテーブルを囲み、座りました。立っているのは、お茶や料理の準備を担当するノーデさんだけです。
もはやノーデさん、騎士というより執事なんですよね……ホントカワイイ。
「ふぅ……よしっ。ではでは皆さん! ついにこの時間になりましたね~!」
「そうだな。こうして改めて見ると、実現したなって気分になるわ」
「ステキナカビンダナァ。ステキナカビンダナァ」
「エルフとフィルボ、そして私達森の三勢力が机を囲み、美味しいお茶を飲んじゃおうという素敵なお茶会! 皆さんのご協力のおかげで、こうして実現する事ができました!」
思えば長かったですねぇ。
全てはそう、美味しいコーヒーを安定して飲みたいという一心でこの企画を立ち上げたんですよね。
美味しいお茶に美味しいコーヒー。これが常々飲めるようになれば、私の管理者ライフは更に充実すること間違いなし。
グラハムさん達と仲良くなって、サイシャリィでねーちゃんと仲良くなって、ゴンさんと話し合いをしてもらえるようになって……うん、今年中に何とかしたいから沢山頑張りましたもんね!
『御託は良い。我は茶を飲みに来ただけだ。早う持ってこい』
「んもぅ、べアルゴンったら。せっかく集まったんだから、本番の時だけでも協調性を持たないとだめよぉ?」
『ふん』
「ま、守護者様がこうしてこの場にいてくれるだけでも機嫌がいいんだと思うぜ? ありがたいと思わないとな」
席順は、長方形のお誕生日席にゴンさん。その右隣に私。
私から時計回りに、デノンさん、えっちゃん。ゴンさんと対面にねーちゃんが座って、キースさんがその隣。
グラハムさんとサエナさんがキースさんの横になって、テーブルをぐるりと囲んだ形になりますね。
ゴンさんとねーちゃんが離れてるのは、互いに手が出しにくい距離だからだとかなんとか。ねーちゃんは静かに目を伏せていますが、無言なのがちょっと不安ですね。
「お待たせいたしました」
と、そんな私達の前に、ノーデさんがやってきました。
ノーデさんはカートを押しており、その上には良い香りを漂わせるティーポットとカップが。
この香りは……紅茶ですね? ピットの銘柄でしょうか。
「本日は様々なお茶を味わっていただきたく存じます。先ほどはヤテン茶を待機時間にお出しいたしましたので、紅茶をば」
「良いですねぇ良いですねぇ! はやく飲みましょのみましょ!」
ノーデさんとは別に、メイドさん達が入ってきて皆さんにお茶を配っていきます。
フィルボは小さくてカワイイですから、メイドさんたちも大変に愛らしい……一人くらい持って帰っても良いのでは?
後でデノンさんにご相談してみるとして、まぁまずはお茶を楽しみましょう!
「ありがとうございます。……まぁ、良い香りですね」
ねーちゃんが紅茶のカップを受け取り、ふわりと立ち上る湯気を堪能しています。本当に良い香り……体の隅々まで堪能できちゃいます。
紅茶サウナとか作ったら、売れるんじゃないですかね? そんなことないかな。少なくとも植物の私には向かないでしょうけど。
『うむ、更に研鑽を重ねたようだな。茶を出すにあたって一番重要な、時間を意識しておる』
「そうだな。色合いも良いし……うん、かなり美味いぞ」
「ステキナカビンダナァ。ステキナカビンダナァ」
私も一口。
……はふぅ、落ち着きますねぇ。
今回は酸味を少し意識してるんですね。舌触りが滑らかな中で、後味が長く残ります。幸せを持続するための技術……流石の一言です。
こういう給仕全般が、フィルボは得意なイメージありますねぇ。
「……本当に、美味しいですね」
「あぁ、俺たちが淹れてる紅茶がなんだったんだってレベルだ」
「ヒュリンの貴族ならこういうのはざらに飲んでるんじゃないのか?」
「少なくとも、前に商談で伺った御貴族様の所で飲んだものより美味しいですよ」
「はは、嬉しいねぇ」
ふふふ、ピットのヤテン茶、そして紅茶。一日でこれだけ美味しいお茶を堪能できて、更にまだまだお茶がやってくる。
お茶会って、毎日しても良いですよね~!