第87話:一触即発
どもどもべべでございます!
10日も穴を開けてしまい申し訳ありません。
どうぞ、お楽しみあれー!
ピットのお城は、とても親近感溢れる素敵な一軒家です。
外観は木造の御屋敷で、お城とは名ばかりといった雰囲気。外観だけでなく、内装も子供たちからもらったお手製タペストリーや、摘んで来たお花を飾ったアットホームな雰囲気。
ここに住んでる人、絶対良い人ですやん? って確信を持って言えるような、温かみに溢れた場所でございます。
「デノンさんのお家に来るのは、ノーデさんを貰いに来た時以来ですね~。相変わらず素敵なセンスですよ~」
「…………」
おや、デノンさんがすんごい目で私を睨んでます。
私、お家褒めたのに。ホワイ?
「……お前がノーデを引き抜いた事に、納得してないんだろ」
「え~、だって欲しかったんですもの」
「そういう問題じゃねぇんだよなぁ」
なるほど。キースさんのおかげで疑問は拭えました。
でも、それをいつまでも引きずるのはデノンさんが狭量だと思うんですよね~?
ノーデさんが選んだんですもん。大手を振って送り出して欲しいものです。
「ノーデ。一応言っとくが、待遇に不満を持ったらすぐに帰ってくるんだぞ?」
「我が王の広きお心に最大の感謝を。ですがこのノーデ、管理者様との生活に不満を覚えた事はございませんので、ご安心くださいませ」
「あぁ、お前ならそう言うんだろうな……」
え、何今のやり取り。尊い。
たまに帰省した娘に父親が語り掛けてくるみたいなシチュエーションのやりとりを、カワイイショタがしてるんですもん。これもう通常のホームドラマを超えてますってうぇへへへ……!
「ってにぎゃあああ!? ゴンさん何故私の頭を丸かじりぃぃぃ!?」
『邪念に染まった蜜を摘出しておるだけだ。「にちゃぁ……」って笑っておったぞ気持ち悪い』
「あひぃぃぃ! 蜜吸っちゃらめぇぇぇ!」
このお城に来るたびにゴンさんに噛まれてますよね私ありがとうございます! なんかノーデさん以外ドン引きしてる気がしますが、これは不可抗力ってもんですからね!?
ゴンさんに頭かじられて蜜吸われるとか、ご褒美以外の何物でもないんですから!
「お前、本当にその性癖改めた方がいいぞ……ただでさえ茶狂いっていう濃さを持ってるんだからさ」
「ノーデ、本当にすぐに帰ってきていいんだからなっ!?」
「ふふふ、皆様大変仲がよろしいですねぇ」
とまぁ、そんな大惨事を巻き起こしながらも私達は、お客さんの待つお部屋へと足を運んだのでありました。
ゴンさん、意外と美味しかったみたいですね……結構蜜吸われちゃいましたよ。
◆ ◆ ◆
「あぁっ、アースエレメンタル様! こうして座っているだけでもなんと神々しい……!」
「あらあら、それ今日だけでも30回以上言ってるわよぉ?」
「まだまだ言い足りませんっ」
「あらまぁ、ココナちゃんの影響かしらねぇ、すっかりアグレッシブになっちゃって」
久しぶりにお会いしたねーちゃんが、えっちゃんの信者みたいになっちゃってました。
いや、間違いではないですね。えっちゃんは元々エルフの守り神的立ち位置だったらしいですし。
でも、最期に見たねーちゃんはキースさん島流し案件の凛々しいお姿だったので、ギャップがなんかもうスンゴイです。
「……あ~、ネグノッテ女王。森の管理者様を連れてきたぞ」
「んえっふ! あ、あら、そうですか」
あぁ、デノンさんがなんか遠い目をしています。せっかくの味方がまた一人ダメになった、みたいな顔です。
まぁ、わかりますよ。人目も憚らずにあんなにデレデレしていたら、そりゃあ見てて恥ずかしいですもんねぇ。
「お久しぶりですね、森の管理者さん」
「はいはい~お久しぶりですねーちゃん。なんでそんなに固くなってるんですか?」
「……貴女がいつも通り過ぎるのです。自国ならばともかく、他国で仮面を外す王はおりませんよ」
「そんなもんですかねぇ」
ピットやサイシャリィを素のまま渡った私からしてみたら、その感覚はあまり理解できない感覚ですねぇ。
……ですが、ねーちゃんのこの態度は、それだけの社交的な理由じゃないですよね~? なんというか、こう……怖いですもんね。
『ふん、あの時の小娘か……デカくなったではないか』
「お久しぶりですね、邪獣の僕。いえ、今は森の守護者様でしたか?」
私の後ろから、のっそりと部屋に入ってくるクールなお姿。
銀色の毛皮、どこか可愛らしいお顔。そして絶対的な存在感。
それすなわち、ゴンさんその人……いえ、その熊でした。
『ほう、小さくか弱いただの娘であったというに、わずか百年でよくぞここまで練り上げた。しかし解せんな……我は友好的に茶を飲みに来ただけというのに、随分と険悪な雰囲気ではないか』
「ふふふ、貴方こそ。100年前よりも大きくなりましたね。脂肪でも蓄えましたか?」
おほぉ……なにこの雰囲気ぃ。
いきなり部屋の温度が4.5度くらい下がった気がするんですけど? ゴンさんが血沸き肉躍る感じで楽しそうに笑うなんて、そうそうお目にかかれませんよ。
脳内スクショ、脳内スクショ。
「おい、ネグノッテ女王。この場でその態度はご法度だぞ」
「そうよぉ。アタシ達、ケンカをしにきた訳じゃないでしょぉ?」
「……そう、ですね」
デノンさんとえっちゃんが窘めると、ねーちゃんは小さくため息をつきました。同時に部屋の圧力が消え失せ、いつものデノンさんのお部屋になります。
お二人は仲が悪いと聞いていましたが、本当に大変な感じなんですね~。
「……もう、入っても平気か?」
「キースさん、部屋に入ってなかったんですね~」
「あんな場所にいてたまるかってんだよ……ただでさえ女王と同室なんてお断りだってのに」
『ふん、つまらんな』
ゴンさんは小さく鼻を鳴らし、部屋の奥で寝そべりました。体を丸めて小さく欠伸をし、『茶が来るまで寝る』と言い残して瞳を閉じてしまいます。
うぅん、皆さん流石のマイペース。少しは私を見習って、ちゃんと外交して欲しいものです。
「……ではまぁ、これで一旦揃ったとして……茶会までの間、各々好きにしててくれ。争いはご法度でな」
デノンさん。キースさん。
えっちゃん、ねーちゃん。
ゴンさん、ノーデさん。
そして、私。
ゲストは後から来るとして……いよいよ、あと少しでお茶会が始まる事になりますね。
さてさて、どんなお茶が出てくるんでしょう? 楽しみですね~。
「皆さま、ひとまずヤテン茶の準備をして参りました。どうぞごゆっくりお待ちくださいませ」
「ノーデさんナイスです~!」
『うむ、いただこう』
「えぇ、いただきます」
「あれ、もう茶会始まってないか?」
まずは、ヤテン茶を飲んでお話しと参りましょうか~!