第85話:キノコ茶の魅力
どもどもべべでございます!
い、いかん、期限がかなりギリギリだ!
ペースあげなきゃ……あげ、あげ……
「お帰りなさいませ、管理者様」
「は〜いただいまですよ〜」
良いことをしてルンルン気分なまま帰宅すると、そこにはノーデさんが素敵な香りを漂わせて立っておりました。
その手には、出来立ての焼き菓子が……うぇへへ、時間ぴったりのお茶タイムですとも。
「素敵なタイミングで帰ってきてくださいましたね」
「おぉ? それはこちらの台詞ですけど。とても美味しそうなのです」
「ありがとう存じます。ですが、もう少し準備が御座いますので少々お待ちを。それまでに、キース殿がお話をしたいそうでございます」
「キースさんが?」
「えぇ、居間で守護者様と一緒にいましたよ」
居間だけに。
……口に出さなくて本当に良かったと、心底安堵している私がいます。居間だけに。
ですが、キースさんからのお話とはなんでしょう? ノーデさんから見送られつつ、私はふよふよとそちらに向かいます。
「キースさん〜、来ましたよ〜」
「……おう」
私がたどり着いた先には、げんなりした顔のキースさんがいました。
部屋の角にはゴンさんが寝転んでおり、ジロリと私の方を見てきます。
はて、なにやら空気が悪いですねぇ。
「どしました?」
「いや、な。……きのこの件だ」
ふむきのこ。
この前みたいな大繁殖は、ゴンさんの胃袋パワーで押さえ込んでくれておりますが、まだ何かあるんでしょうか?
「きのこを使ったレシピを御所望ですか? きのこご飯も良いですけど、どうせならシイタケの傘焼きなんてのも食べたいですね〜」
『しばらくきのこは食わんぞ! ここ最近きのこづくしではないか!』
おうふ。ダメですか?
たしかに、ずっときのこでしたけどね。煮物や串焼きに始まり、ゴンさんの大好きな天ぷらなどもたくさん食べていただきましたとも〜。
その分、ゴンさんも飽きてしまわれたご様子。しばらくはきのこ封印ですか。
「おいおい、まだまだきのこは増えてるんだぞ? 今食うのをやめたら洞窟から溢れるぜ」
『ふん、ならば早々に茶に加工してしまえ。我は茶ならばいくらでも飲んでやる』
うんうん、きのこ茶はお土産のものを飲んでから、ゴンさんもお気に入りになりましたからね。
キースさんが作ってくれるなら、私とゴンさんで飲み尽くしてさしあげますとも〜。
「そう、そのきのこ茶なんだけどよ。いかんせん、きのこの種類が多すぎるんだよな。いくつか加工してはいるが、どれが茶にして美味いなんてのが、俺の経験でもわかんねぇんだ」
「なんと! 種類のわからないきのこの素を使ったんです?」
「いや、洞窟内でも生えるようなきのこがあるように、胞子ってのは割とそこら辺飛んでるんだよ。そこにあんな環境作ったもんだから、そりゃあもうわんさかと増えたんだと思うぜ?」
『ふむ、しかしそれだけでは知らないきのこばかりと言うのも説明がつくまい。こやつのせいで新種が生まれておると考えるべきだな』
おぉぅ……新種のきのことか、私もまた専門外なんですけど。あの子ら菌類ですし。
「今までは食えるきのこを選んで材料にしてたけど、もし知らないきのこが毒だったら目も当てられんな……そんなもんを茶会に出す訳にもいかん」
なるほど、そういう事ですね。
なんか、心和の記憶で見た形の舞茸っぽい奴とか、えのきっぽい奴とかも適当に食べれそうだから今まで気にせず振る舞ってましたけど、もしかしたらダメだったかもしれませんね。
まぁ、毒キノコくらいでどうこうなるゴンさんでもないですしね! 私は信じておりますよ!
「というわけで、だ」
「はい?」
そんな私達をじっと見つめたまま、キースさんが口を開きます。
その姿は、どこかシリアスな感じ。マジと書いてデジマな様子がビンビンです。
一体、何をこんなに鬼気迫っているのでしょうか。
「適当に作ったきのこ茶があるから、実験台になってくれ」
『貴様、もはや我にも遠慮を無くしたな』
凄いです。キースさんの目からは、どうせ死に目を見るなら言いたい事言ってやる的な諦めしか感じられません。
この提案にゴンさんがキレたら、その場に寝転んで「殺せよぉ!」くらい言いそうな気配すら漂っています!
「まぁまぁ、考えても見てくれよ」
『なんだ? あまり無礼が続くと本当に噛み殺すぞ』
「いやいや、そっちに対しても旨味のある話さ。ようは、その新種のきのこできのこ茶を作ってるんだよ」
「ですね。それが加工して毒になってないか。美味しいのかを、私達を使って実験するというお話です」
「つまり……さ。今まで誰も飲んだ事ない茶を、アンタらが初めて飲めるってことなんだぜ?」
「「!!」」
そこに気づくとは……やはり天才か!
凄いですキースさん。私、そんなプレミアな謳い文句を聞いてしまったら我慢できません!
「ほら、これ見てくれよ。黒々としてるが香りは一級だ。害さえなけりゃあ、茶として各地に売り出せるぜ」
「『おぉぉ……』」
た、確かに、この香りは素敵ですね。
干した状態でこれなら、お茶にしたらどれだけの風味を感じられるのでしょう!
「ゴンさんゴンさん……」
『ふむ……』
この段階で、私達の心は一つになっていました。
頷き合い、キースさんに向き直ります。
その様子を見て、キースさんもまた頷きました。
「さぁ、飲んでみてくれ」
キースさんだってエルフです。きのこ茶を淹れるのは、とてもお上手。
既にポットの準備は出来ていたらしく、そこに乾燥きのこを突っ込んで成分を抜き出してくれました。
黒いお茶……うん、香りは素敵。浅い抽出なので、どこか見た目は烏龍茶に近いものがあります。
ですが、香りはいい感じにきのこのそれですね。
「うぇへへへ、で、ではいただきます〜」
『仕方ない。飲んでやるから有り難く思え』
うん、こんなに良い匂いなんです。きっと美味しいはず。
えぇ、きっと美味しい……
数分後。
「失礼いたします。きのこ茶の準備が整いまし……か、管理者様ぁぁぁあ!?」
私とゴンさんは、余りの不味さにひっくり返っている所をノーデさんに発見され救出。
口直ししたゴンさんに、キースさんが拳骨を喰らうという落ちを見せたのでありました。
◆ ◆ ◆
「いやぁ、酷い目にあいましたよ〜」
『うむ、なぜあの香りであんな雑巾みたいな味がしたのだ……舌が不味さで痺れたぞ』
「香りがいい分、グイッと言っちゃいましたよね〜」
「なるほど、確かにこの黒いきのこは『毒は無いが不味い』と出ておりますね」
「ほらぁ、鑑定持ちのノーデさんがこう言ってるんですから〜」
「ま、こういう失敗があるから実験てのは必要なんだよ。茶会にこれ出さないで良かっただろ? つまりはそういう事さ」
『だからと言って、そう何度も試す気にはなれんぞ』
「そうですよね〜。飲まずに味がわかるならまだしも、そんな……」
「『…………』」
「鑑定ぃぃぃい!!」
「は、はい?」
追伸。
お茶会には、安心安全な物を持っていけそうです。