第84話:雲の下の結界
どもどもべべでございます!
ニャッポリート! レビューをいただいてしまったぜ!
嬉しや嬉しや! 携帯でも頑張りますともー!
青い空、白い雲。
どこまでも続く晴天です!
秋晴れって言うんですかね。空気が程よく涼しくて、お日様の光が体に染み渡って行きます。
「このままの天気が続くなら、3日後のお茶会は大成功でしょうねぇ〜」
そう、お茶会まで残り3日という所まで来ました。
ピットでは、もういつでもウェルカムな空気でお祭り騒ぎなんだとか。
エルフの皆さんも出発してるでしょうし、私もスペシャルゲストを呼びましたし、後はこの後、ゴンさんとノーデさん、そしてキースさんを連れてピットに向かうのみです。
「じゃあ、やりますかぁ」
ここに戻って来るのは、しばらく後になります。
なので、私はいつものように、自分の魔力操作を試す場所にいました。
ゴンさんの大結界が張ってある場所ですね。元は燃え盛る炎が永劫燃え続けていたような驚き桃ノ木空間でしたが、今はその炎も消えて、真っ黒の木炭だらけとなっております。
この結界を破れるようになれば、一人前だとゴンさんは言っていました。病気を閉じ込めておくための結界だっただけあり、かなり気合入ってるんですよねここ。
(今回も、中から入り込むイメージでやってみるかな……いや、せっかくサイシャリィで覚えたんだし、同調するイメージで行きますか)
今まで私は、結界の隙間を見つけて体をねじ込む感じでこれを解こうとしてました。しかし、それではまったく通用しません。
ならばとサイシャリィで世界樹と同調した時のような感覚を試すことにしてみました。
あの時は呑まれてしまったので、今回は気を強く持って……ゴンさんの魔力と同調? これ実質結婚なのでは?
「アウチ!?」
ビリっときた! ビリっときた!
オートで結界の魔力がツッコミを!?
素敵ですゴンさん。できればもう少し強めでお願いします!
……とまぁ、本気ですが冗談はさておいて、続きといきますか。
じっくりと、馴染ませるように魔力を通して……何度も何度もこの結界に挑戦してますから、魔力の波長を合わせるのは難しくありません。
問題は、この結界の奥にある、ドス黒い何かなんですよねぇ。
(ゴンさんは、病原菌を燃やして感染を防いだって言ってましたけど……病原菌って、こんなにも根強く真っ黒でしたっけ?)
例えるならば、美味しいお茶を飲んでいる人には付き物の悲しい勲章。陶磁器に染み付いてしまった茶渋のような感じ。
中には味のある出来栄えの茶渋染みもあるんですが、ほとんどは「ありゃ〜、ついちゃったかぁ」って感じになってしまうのですよね。その為に、食器をよく洗うのは徹底するのです。
この奥の気配も、そんな感じだと判断できます。
ふむん、ですが、厳密にどう厄介そうかと言われると首を傾げてしまうところ。
……まぁ、結界解いてみればわかるんでしょうね〜。ゴンさんも止めない辺り、別に致命的な何かじゃないでしょうし。
とりあえず、今は集中して、魔力操作の訓練ですとも。
魔力の防壁に、自分の存在を溶かし込むイメージ……よりは、お湯にティーパック入れて成分を染み出させた方がわかりやすいですね。
ほぉら、私はお茶、私はお茶……。
『……て……』
お?
『……して……』
私の気配が染み込んだ場所から、何やら思念が届きました。
これは……どなたでしょう?
『出して……お願い……』
出して、出してですか。
となると、自分からは出られない系?
という事は……
(……茶渋さんですか〜?)
『ち、ちゃしぶ?』
(はい〜。結界の奥にいる人ですよね?)
『っ! ボ、ボクに言ってるのかい? だったら、そうだよ!』
おぉ、どうやら正解みたいです。
『あぁ、あぁ、こんなにも光が……! 結界が綻んでいる。凄い……!』
(今、結界を解く事で魔力の操作を練習してるんですよ〜)
『前から気配は感じてたけど、それは君だったんだね』
(はい〜。光中心和と言います〜)
『ボクは……名前は、忘れてしまった……もう、随分前に……』
ほうほう、それは難儀ですねぇ。
この中にいるのが誰かはわかりませんが、こうしてお話ができる以上、悪い人ではなさそうです。
でしたらば、アナタやユーでは失礼でしょう。
(でしたら、茶渋さんとお呼びしますね〜)
『う、うん、わかった!』
というわけで、命名茶渋さんと私はすっかり意気投合。色んなお話をしました。
なんでも、茶渋さんはここに凄く長い時間閉じ込められているそうです。
とても悲しい事があって、その辺りの記憶がないそうですが……その声色から、しゅんとしているのがわかります。
うぅん、こんな時にはお茶の一杯でもご馳走するところですが、相手が目の前にいないのではそれもできません。
なにか、茶渋さんを励ます事が出来ればいいんですが……。
(……そうだ、茶渋さん)
『なんだい?』
(魔力届けたら、嬉しいですか?)
『! い、いいのかい?』
ここから私があげれそうなのなんて、魔力くらいですからね〜。
これで元気になってくれるなら、いくらでも差し上げますとも〜。
(とはいえ、魔力を茶渋さんにお渡ししたら、ゴンさんの結界に溶け込む分が無くなって、会話が切れてしまいますが〜)
『……だったら、いらない。君とお話がしていたいな』
(そうしたいのは山々なのですが、あまり長いこと結界に干渉してると、ゴンさん結界がご褒美をバチッと送り込んでくるんですよねぇ)
『どちらにせよ、長くは無理なのか……』
そうなのです。
なので、少しでも魔力で茶渋さんに元気になってもらって、茶渋さんの方からも干渉すれば、もっと長くお話しできると思います。
その事を説明すると、茶渋さんは喜んで魔力を受け取ると言ってくれました。
(では、行きますよ〜)
『うんっ』
私は、世界樹に魔力を流し込んだ時のように、自分の中で調節したものを送り込みます。
その瞬間、ゴンさん結界が違和感を感知して、私を追い出しにかかってきました。
(むむむ、限界っぽいです……!)
『いや……充分だよ。ありがとう』
(次は、えっと……一週間後! 7回寝たら、来ます!)
『7回、だね楽しみ……』
そこまでで、声は聞こえなくなってしまいました。
私も弾かれ、頭をくらくらと左右に振ります。
「うぅん、何とも不思議な体験でした」
結界の中で誰とお話しするなんて、想像もしてませんでしたからね。
その相手が、奥にいた茶渋さんだと言うのだから更に予想外ですとも。
「……あれ? でも、何で茶渋さんは閉じ込められて……というか、これゴンさんの結界ですよね? つまり……」
あぁ、何かが首元まで出てきそうなんですが、何でしたっけかね?
う〜ん……
「……ま、思い出せないってことは、大したことじゃないんでしょうね」
うん、わからないことよりも、分かることです。
厳密には、そろそろノーデさんが美味しいお茶菓子を作った頃だということですね!
「んふふ〜、今日は、コカトリス卵のカステラ〜♪」
ふわふわのカステラ生地に美味しいお茶のラプソディを思い返しながら、私は意気揚々とご近樹ルートでお家に帰宅します。
茶渋さんが外に出られたら、絶対お茶にご招待いたしましょう。そう、決心したのでありました。