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ドライアドさんのお茶ポーション  作者: べべ
第6章:「ドライアドさんと日常生活」
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番外編:おうさま(デノン視点)

どもどもべべでございます!

パソコンの調子がやばいかもしれない……そんな中でご投稿!

どうぞ、お楽しみあれー!

 

 口から、息が漏れる。

 涼しくなってきたとはいえ、別にそれは冬景色を楽しむための呼吸ではない。そこまでまだ寒くはないのだから。

 どちらかというと、失意や落胆。そういった感情から、自然と漏れた息だ。俗に言うため息である。


「あらぁ、やっぱり寂しい?」


 執務机を前に俯く、ため息の主に向かって、声がかけられる。

 見目麗しい姿をした女性のような見た目だが、その口から発せられるのは人々を魅了する低音ボイス。

 先ほどまで、森の管理者の所にいた上位精霊がそこいた。


「そりゃまぁ、ね」


「デノンちゃんの一番の騎士様だったものねぇ、ノーデちゃんは」


「……まぁ、ちとズルい立場だったわな」


 ため息の主――――デノンは、その言葉と共に椅子を傾ける。

 ノーデは、完全に森の管理者の手に堕ちた。その一報をアースエレメンタルから受け、デノンは改めて自分の中での喪失感に驚愕していた。


「まぁ、良いとは思うんだよ。ノーデが完全にその身を委ねられる存在が出来た。その点は最高の結末だと思うさ」


 そも、ノーデという騎士は、フィルボ内でも異色であった。

 通常のフィルボは、あまり細かい事を気にしない種族である。上下関係や主従関係など、そういった認識はあれど、距離としては垣根が無い種族なのだ。

 だが、ノーデという存在は、上位種に己の全てを費やす程の、破滅的奉仕精神を持っていた。それは何故か?


「俺があいつを拾って、アンタがあいつを育てた。その結果出来上がったのが、ノーデという人格だ」


「えぇ、そうねぇ。小さい頃からお手伝いが大好きで……むしろ、何かしていないと不安ってくらいの子だったわ。だからパンクしないように、騎士っていう目標を持たせたんだしね」


 そう、彼は親無しであった。

 先代の王が存在し、デノンがまだ幼い頃、拾われて来たのがノーデである。

 彼は、自分が誰かと離れる事を非常に恐れる子供であった。

 そして、捨てられない為に何をしようか。それを必死に考えていたのである。


 その危うさを危惧したデノンは、幼いながらにノーデを自分の手元に置き、またアースエレメンタルに子育てを依頼したのであった。

 結果できたのは……誰かに奉仕し、付き従う事に意義を見出す人格であった。


「なまじ鑑定能力なんて持ってたせいで、自分に対する評価まで見れちまうアイツにとって、騎士団の環境も辛かったとは思うがね」


「あら、私の子供たちは、トップを蹴落とそうとするなんて考える子はいなくてよ?」


「そうじゃなくても、アイツは騎士団長で、部下の評価は絶対についてくるんだ。……だからこそ、アイツはトップでいる限り、寄る辺が無かったんだと思うぜ」


 捨てられない為には、どうすればいいか。信仰すべき精霊からは、騎士となって王に仕えると良いと教えられた。

 そして、彼は騎士団の1つを任されるに至った。

 しかし、その立場は彼にとって、寄りかかる場所を奪う結果となってしまった。


「だから、あの子を森の偵察に行かせたの?」


「まさか。そんな理由では選ばんよ。……アイツにしかできないと思ったから、ノーデを選んだんだ」


 だが、結果としてそれが、ノーデを奪われる流れとなった。

 森の奥に発生していた、理不尽な存在。それがノーデの心を絡め取ってしまったのだ。

 あのドライアドは、異常である。大抵の事は1人いればどうにかなってしまう能力を秘めているのに、率先して人に頼りまくってくる。


 行動的で、向こう見ず。後先を考えず、結果として何かを必ずやらかし、しかしそれが自然と最良の結果を呼び込んでしまう。アースエレメンタルもまた、その本流に呑まれ、命を救われたのだ。

 そんな奇跡を何度も見せられ、同時にそんな高位存在に必要とされる快楽。ノーデには、それが麻薬のように浸透した事だろう。


「……管理者様が、ノーデの身柄を完全に受け渡すように言ってきた時、俺は完全に突っぱねるつもりだったんだ。たとえ管理者様でも、アイツを飲み込んでいい理由にはならない。そう思ってた」


「じゃあ、どうしてノーデちゃんに任せるって判断したの?」


「……俺じゃ、管理者様にはなれないって、思ったからだろうな」


 あのドライアドは、ノーデのような感性を持つ者には凄まじい求心力を持っている。

 つまるところ、目が離せないのだ。何をするか読めないため、終始見張っている必要がある。そのくせ大層人懐っこく、甘えるとなれば全力だ。

 いつ爆発してもおかしくないのに、何故か一緒にいたくなる爆弾……そんな存在を見ていれば、心が傾いてしまうのはやむなしと言えよう。


「俺は、ノーデの止まり木にはなれても、そこに巣を作る程の枝葉がなかった」


「んふふ、私も、他の子供たちにかかり切りだったものねぇ」


「そんな俺らより、あの2人がノーデの心を射止めちまうのは、必然だったんだな」


 言葉にしてみて、ようやくストンと得心がいった。

 ノーデを真に必要と、大手を振って言えるのは、あのドライアドと霊獣であるのは間違いないのだ。

 デノンがノーデを必要だと叫ぶ時には、必ず肩書きや、幼き日のノーデを思い出して言ってしまう。

 しかし、あのドライアドは、ノーデのまるまる全てを求めてきた。

 その為の手段すらも、現実を歪めてまで成し得てしまった。

 そんな彼女らが、ノーデを手に入れるのは当然の事だと言えた。


「……幸せ、なのかな。アイツは」


「そうねぇ、少なくとも、後悔はなさそうだったわ」


「……そっか」


 ならば、見送らねばなるまい。

 あの頃、泣いていた少年はもういない。

 今は、真に認められる主に仕え、己の全てを捧げる事に幸福を感じている。

 それを祝福しない訳には、いかないだろう。


「……精霊様」


「なぁに?」


「……ちょっと、付き合ってもらえませんかね」


 椅子から立ち上がり、戸棚を開ける。

 そこには、常温で保管していたハチミツ酒があった。

 デノンはそれを持ち上げ、アースエレメンタルに見せる。


「ノーデの小さい頃からの話、肴にして、ね?」


「ふふ、良いわねぇ」


 この晩、王と精霊は、行ってしまった騎士の話に花を咲かせる事となった。

 それは、彼との決別を自覚する為の時間。

 時に笑い、時に怒り、時に泣く。

 酒の力を借りて初めて、王は個人としての感情を、全て吐き出したのであった。





    ◆  ◆  ◆





 ちなみに、後日。

 休暇という名目で、なんの違和感も無しにピットへやってきて、いままでの通りに自分の世話を焼きまくる騎士ノーデがそこにいた。

 それを見て、先日散々泣いた自分を思い出し、大いに赤面する国王がそこに居た事を、ここに明記しておく。

 精霊は、爆笑していたらしい。

 

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