第82話:小さな贈り物(下)
どもどもべべでございます!
少し、章の名前を変更いたしました。
お茶会までは、まだ日常パート続きそうですしね~。
そんなこんなでご投稿! どうぞ、お楽しみあれ~!
翌日。
私は様々な準備を終え、居間にて皆さんが揃うのを待っていました。つまり、朝食の時間を待っていました。
プロレスラー3人くらいなら並んでも大丈夫かなってサイズの机の前で、正座をしつつ集中です。脚は敏感なので、少し浮いてますが。
細工は流々仕上げを御覧じろ、といった気分ですね。今なら、心頭滅却の精神でどんな誘惑にも耐えられる自信がありますとも。
ノーデさんの作るご飯の匂いがふわふわと漂います。それと同時に、ゴンさんがのっそりと居間に登場。
私が既にいることに訝し気になりつつも、いつもの場所に腰かけます。
そこから五分くらいして、キースさんが入ってきました。既に完全なくつろぎモード。お腹をぽりぽりかきながら欠伸交じりに座ります。
一度開き直ったキースさんは凄いですね。五寸釘でも貫けないような面の皮です。
さて、これでいつもの3人が机を囲んだ事になります。しかし、今日はもう一人お客さんがいます。
縁側から立ち上がるのは、見た目も性格も美しすぎるパーフェクツイケボ姐さん。
そう、えっちゃんです。ゴンさんが「あ?」って顔して私を見ますが、私はこれを華麗にスルー。
えっちゃんはニコニコしながら私の隣に腰を降ろしました。
「…………」
「…………」
なんで皆、さっきから喋らないのかって?
ノリですよ、ノリ。どうせ最初に喋ったら負けとかいう変な男心でも発動してるんじゃないですか?
まったく、いつまで経っても男というのはよくわからなんほぉぉぉぉ!?
ご、誤御五後ゴンさん!? 私を掴んで引き寄せるなんて大胆な!?
えっちゃんがめっちゃ面白がって見てるじゃないですかっ。あぁ、てことはこれ焼き餅? ヤキモチでいいの!?
幸せで、死ぬ……!
「フンっ」
あぁぁぁぁ!?
ゴンさんは、引き寄せた私を遠心力のまま放りました。
少し浮いている私は、そのままエアホッケーのように床を滑り、壁に乱反射。当る度に「500」「500」とポイントが付いてきてるような気がしますが気のせいです。
「へぶっ!?」
あ、キースさん轢いた。
ある程度ピンポンしてたらそこで勢いがなくなったのか、私の体はゴンさんの隣でストップしました。
あぁぁ、目が回ります~。
「ふふふ……」
「グルル……」
何故か誰も語らないまま、一触即発の空気となっていた、その時。
「お待たせいたしましたっ、今日は精霊様も来ていただけるとの事で、より豪勢にしてみました!」
朝ごはんを作ったノーデさんが、居間に入ってきてくれました。
これなら、えっちゃんとゴンさんが怪獣大決戦を勃発させることもないでしょう。
「悪いわねぇノーデちゃん、急にお邪魔しちゃって♪」
「いえいえ! 精霊様に来ていただけてこのノーデ、感涙にむせび泣く思いでございますっ」
そう言いながら料理を並べるノーデさん。それを見てゴンさんも否定する気が失せたのか、鼻を鳴らして床に寝そべります。
キースさんも、起き上って座り直し……あれ? キースさん?
「し、死んでる……」
「勝手に殺すな!?」
「あはは、すみません」
ともあれ、これで全員ですね。
配膳を終えたノーデさんが座った所で、本題です。
「ノーデさん」
「なんでしょう?」
「これを」
私は、懐からゴンさんぐるみを取り出します。
洞窟内に封印されていましたが、ふふん、必要だったから拝借いたしましたとも。
『貴様、我の結界を……』
「後で戻しておきますよ~」
言いつつ、ゴンさんぐるみの背中をぐにりと開き、中から小瓶を取り出します。
うん、一夜漬けでも流石はゴンさんぐるみ。しっかり完成していますね~。
「管理者様? それは……」
「み、見るからにヤバい雰囲気を感じるんだが?」
ノーデさんとキースさんは、この小瓶を見て目を丸くしているご様子。
確かに、これから漏れ出ている魔力は、今までのお茶とは比較にならない程の何かを秘めています。我ながら自信作です。
「これは……いつもお世話になってる、ノーデさんへのプレゼントです」
「私への?」
「はい♪」
ちょっと待て、とキースさんが制します。
昨夜、私から相談を受けていましたからね。その答えがこれで、混乱しているご様子です。
「その、明かにやばい雰囲気を漂わせているそれは、なんなんだ?」
「お茶ですよ?」
「んなわけあるか!? ただのお茶が内包できる魔力じゃねぇ!?」
そうはいっても、お茶だからしょうがないですよね。
ノーデさんのカップを引き寄せ、瓶の蓋を開けます。
傾けると、トロリと琥珀色の液体が流れ、その中へ。満たしていく程に漂う香りは、冷めていても美味しいと鼻でわかる一品です。
『…………』
「ココナちゃん、本気なのねぇ」
「えぇ、その為に昨晩、デノンさんの所にかち込みに行ったんですもの」
私が昨夜の内に準備したのは、以下の通り。
まず、洞窟に封印されたゴンさんぐるみの開放。
そして、お茶を作ってそれをゴンさんぐるみに封入。
最期は、出来上がるまでの間、デノンさんの所に行って交渉です。
結局、ケンカ寸前になってえっちゃんに止めに入られましたが……ノーデさんの意思に任せるという互いの落としどころを見つけ、更にえっちゃんを証人として連れて行くという条件で今に至ります。
『……して、ちんくしゃよ。その茶は、【何】の茶だ?』
ゴンさんが改めて聞きます。彼なら、もう魔力の質などでわかっているでしょうが……
「これは……【世間樹】のお茶です」
私は、正直に答えました。
そう、世間樹。私の全力魔力注入により生まれた、世界樹手前のご神木。
今まで、世間樹は私の寝床だったり、各地に生やしたご近樹へのワープ拠点として使っていましたが、彼もまた立派な植物。
こうしてちゃんと作れば、立派なお茶になれると信じておりましたとも~。
「世間樹……ってのは、俺が見て見ぬふりしてたあの化け物大樹の事だよな……?」
「失礼な呼称ですねぇ」
「だってそうだろ? 世界樹様と見間違う程の魔力が籠った樹だぞ? ……っていうか、それで茶作るとか、お前馬鹿だろ!?」
ふふふ……ちょっと悪くない。
ですが、ゴンさん程のキレはないですね。まだまだ精進が足りません。
『して……世間樹で茶を作って、それをチビ助に賜すと。その心はなんだ?』
「はい。ノーデさんには、永劫私達に仕えてもらおうかと思いまして~」
「「!?」」
ノーデさんとキースさんが硬直します。
えっちゃんはあらあらと微笑み、ゴンさんはふむ、と思案顔。
「ノーデさん、鑑定、してもいいんですよ?」
「……は、はい」
ノーデさんが、物の本質を見抜く目を使います。
その瞳は丸くなり、少しだけ、ぶるりと震えました。
「……じゅ、寿命の、超越……このお茶は、事実上、不死になる薬です……」
「はぁ!?」
「おお~、成功しましたね~」
ノーデさんが、だいぶ前に言ってましたよね~。世間樹には、作り方によっては蘇生薬もできるって。
だから、私考えたんです。私がいつもみたいに、魔力でガンガンお茶にして、そのお茶をゴンさんぐるみでパワーアップさせたら、もっとすごいの出来るんじゃないかって。
ふふふ、思惑通りに事が運ぶと、気持ちいいものですねぇ。
「で、ですが、条件付きですね。……管理者様が、この地を離れるまでの間の、制限付きの不死です」
『なるほどな……加工中に魔力で効能を書き換えたか』
「えへへ、結構苦労しました」
「おいおいおい、ふざけんな!? それってつまり、こいつに人類やめろって言ってるようなもんじゃねぇか!?」
「え、そうですよ?」
「な……」
ここで私は、自分の中で出来た答えを披露しました。
まず、ノーデさんへのプレゼント計画。これは私の自己満足であり、ノーデさんの為になっていないとキースさんに諭されました。目から鱗です。
なので、ノーデさんの願いを考えてみました。じっくりじっくり考えて……いつもノーデさんが言いそうな事を思い出したんです。
『お二人のお世話ができているだけでこのノーデ、毎日が幸福に押し潰されそうになるのを堪える日々にございますれば!』
……ふふ、ならば、その幸せを永劫にしてあげよう。そう思ったんです。
少なくとも、私が死んで妖精界へ帰るまでの間、ノーデさんを一生手元に置いておこうと。
「おま……ふざけんなよ!? そんな犯罪以上の非人間的な行いが、許される訳……」
「んん? なんでです? 一生が長くなって、好きな事できるんですよ? 別にずっと死なない訳じゃないですから、輪廻に反してもいません」
「そうじゃなくてだな……!?」
「デノンちゃんも怒ってたんだけど、ココナちゃんがここんとこわかってくれないのよねぇ~。まぁ、私はどっちも理解できるから、どっちの味方でもないけど?」
キースさんがなんで突っかかってくるのかはわかりませんが、まぁそこは良いです。
問題は、ノーデさんがこれを受け入れるかどうかですからね~。
『ふむ、良いではないか』
「な……!」
そんな私の気持ちを代弁するかのように、ゴンさんも頷きます。
『チビ助程の者を、定命という理由で手放すのは惜しいと思っておった所だ。丁度いい。ちんくしゃもたまには気が利く事をする』
「えへへ~、でしょう~? 褒めて褒めてっ、耳たぶ噛んでいいんですよ?」
『調子に乗るな』
「うきゃぁぁぁ!? 頭! 頭に歯が! 樹液がぁ!?」
キースさんは、額に手を当ててふらついていました。
どうやら、ご気分が優れないご様子。
「お、おま……なんでそんな人間臭いくせして、根っこの所が人外なわけ? 温度差で風邪ひくわ……!」
「(きゅぽんっ)ふぅ……んじゃ、ノーデさん?」
「は、はい」
心和印の日本茶を飲んで、噛み傷を回復。
背筋が伸びるノーデさんを、私はジッと見つめます。視線を合わせて、私が欲しい存在へ手を伸ばしつつ、言葉をかけました。
「私のものになりなさい」
「っ……」
「忠義はデノンさんにあって構いません。信仰はえっちゃんにあって構いません」
「……は……」
「だから、命は私にください。その身を、技を、その他の心を、全て私とゴンさんの為に使いなさい。身を焦がす業火も、恐るべき厄災も、貴方が私の元を離れる理由になりません……ただ、私が消えるその時まで、私と共に居なさい」
飲んでください、とカップを押し出す。
その瞬間、ノーデさんがゾクゾクっと震えたのがわかりました。
まるで、もよおしたのを堪える生娘のように悶える姿。私のものになる寸前の、陥落の表情。
「……は、はひ……」
やがて、その唇から、声がもれました。
「わ、わかり、ました……この身は、管理者様の為に……」
その瞳は悦楽に染まり、口元は緩み切っていました。
どうやら、私のプレゼントは大正解だったみたいです。
「よろしい。さぁ、おあがりなさい?」
何か言いそうなキースさんを、ゴンさんが睨みました。
えっちゃんは、「仕方ないわねぇ」とため息一つ。
誰も邪魔をする事はなく……ノーデさんが、カップを手に取ります。
「……んっ」
迷うことなく、一気に。
含み、流し、飲み干していきます。
ちょっとトロミがあるから、飲みづらそうだけど、そこはそれ、濃厚ですから仕方ないですね。
「……ふはぁ」
カップから唇が離れ、その別離を惜しむように橋がかかっていましたが……やがて、それも切れました。
唇に付着したそれも、ノーデさんは残さず舐めとってくれましたとも。
「ふふ……改めて、今後ともよろしく。ノーデさん?」
「は、はい……よろしく、お願いします……」
こうして、ノーデさんは私達のものになりました。
デノンさんには、えっちゃんから何とか言ってくれるでしょう。
心和ちゃんのプレゼント大作戦……大成~功~!
「はいっ、という訳で、ご飯にしましょうか~!」
「あ、ご飯おつぎいたしますねっ」
『うむ、さぁ食おう』
「そうね~、ではみなさんご一緒にっ」
「「『いただきますっ』」」
「この状況で普通に飯を食い始めるの!? ウッソだろ!?」