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ドライアドさんのお茶ポーション  作者: べべ
第6章:「ドライアドさんと日常生活」
88/126

第81話:小さな贈り物(中)

どもどもべべでございます!

淡々と日常パートをご提供!

どうぞ、お楽しみあれ~!

 

 今日のご飯は、ベーコンをふんだんに使用したパスタでした。

 ノーデさんったら、また腕を上げましたねぇ。ピットから卸してもらったベーコンをカリカリに焼いて、風味が微妙な心和印の麦パスタを美味しくすべく、これまたピット産のニンニクでレッツコーティング。

 ここまでされちゃあ、美味しいに決まってるんだよなぁ……。まぁ、私は基本的に養分しか取らないので、食べなくてもいいのですが。


 キースさんなんて、ゴンさんに並びかねないくらいお代わりしてましたよ。食卓を囲んだ時には、ゴンさんを見てハラハラと涙すら流していたというのに、いざ食べるとそれはもう鬼神のごとき食いっぷりでした。

 なんか「どうせ最後の晩餐になるなら」とか言って食べてましたけど。途中から「麦が悪いよこれ、味付けの勝利じゃん」とか審査員みたいな事言ってましたねぇ。


『……で、あのデブはまた洞窟に引きこもったか』


「まぁ、お茶会までにキノコ育てないといけませんし、しょうがないですよ~」


『ふん、エルフならば皮肉のひとつも飛んでこようかと期待したが、こんなものか』


 突っかかってくる事を期待してたんですね、ゴンさん。

 いや~、キースさんは自分の立ち位置を維持するのに長けてたみたいですし、この森でゴンさんに逆らおうなんて真似はしないと思いますよ?


『ま、それはともかく、追跡再開ですねっ』


『今は洗い物の真っ最中か。というか貴様も手伝わんか』


『いやぁ、私体が植物なもので……その、あの洗剤をキュキュッと吸収してしまうと、苦々な気分になってしまうのですよ』


 食器を洗ってるノーデさんが使ってるのは、ピットで作られている洗剤です。

 あれを最初に使った時には、顔をしかめて悶絶してしまいましたとも……汚れを落とす成分って、植物には毒なんですよ?

 もちろん、洗剤程度で体調を崩す心和ちゃんではありませんが、それでも苦いものは苦いのです。なんというか、お茶とは違う人工的な苦さがいやなのです。


「ふぅ……!」


 ですが、そんな苦々な洗剤をものともせず、ノーデさんは楽しそうな笑顔で作業を進めています。

 毎日洗い物してるのに、なんで手とかツルピッカーなままなんですかね? 若さ? 若さなの?


『洗い物が終わったようだな』


『ふむん、この次は確か、屋敷全体のお掃除でしたっけ』


『あぁ、毎日飽きもせず、よくやってくれている』


 本当に、頭が下がる思いですねぇ。

 掃除の過程で気になった点とか、普通に伝えにきてくれますからね。お陰様でこの家は、ノーデさんのご意見通りに私が制御して、日々快適に進化しております。

 

「ふふふ、守護者様の体毛、発見でございますっ」


 てきぱきと掃除しているノーデさんは、廊下に落ちていた銀色の体毛を見つけて拾っておりました。

 おぉっ、あれはまさしくゴンさんの抜け毛! でかしましたよ、ノーデさんっ!


『……あやつは何をやっておるのだ』


『ゴンさんの体毛を拾ってるんですよ~』


『それは見ればわかる。何故その上で、大切そうに保管しておるのだと聞いているのだ』


『……さぁ、なんででしょうねぇ……?』


 言えない。

 私がノーデさんに頼んで、ゴンさんの抜け毛を発見次第提供してもらってるなんて、言えない。

 ゴンさんぐるみの第2号作成を虎視眈々と目論んでいるなんて、口が裂けたって言える訳ない。


「これで20本目ですか。……ふふ、まだまだぬいぐるみには遠いでしょうが、管理者様も常日頃から努力して集めておられますし、目標の本数にはすぐ到達なされることでしょう」


『…………』


『…………』


 見れない。

 私の頭の上で、ゴンさんの怒りのオーラがほとばしっているので、見れない。

 背中に嫌な汗もとい樹液が溢れておりますが、怖すぎて見れる訳ない。


『……さぁ、ノーデさんは行きましたので、後をつけましょうか』


『まぁ待て。我らにはもっと、互いを知り親睦を深め合う時間が必要だと思うのだ』


『なんて魅力的な提案でしょう。しかし、今はノーデさんを労うための情報収集が優先ですからね。その時間は今夜ベッドの上でしっぽりと頭蓋が砕けんばかりに痛いいぃぃぃぃぃぃぃ!?』


『こんの……たわけ者がぁぁぁあああ!!』


 その後。私はゴンさんからのお仕置きフルコースをくらい、お昼ご飯までの間をアヒンアヒン言いながら過ごさざるを得なくなったのでした。

 日に日に私の体が、ゴンさんのお仕置き無しではいられなくなっていく……これって、幸せな事だと思うの。





    ◆  ◆  ◆





「クッ! 結局ノーデさんの欲しい物って、なんなんですか!」


「いや、俺に聞かれてもな……」


 その夜。

 私は夜のティータイム抜きの刑を食らい、洞窟に放り込まれて一晩の反省を言い渡されました。

 キースさんの体からは、今日のご飯であっただろう生姜焼きの匂いがプンプンしています。同時に、仄かに香ってくる紅茶の香り……くそぅ、しっかり堪能してきた上に、手土産も無しですか!


「あいつの生活はまぁ、俺も直に見たけどさ。毎日あんななの?」


「そうですね~。サイシャリィから帰ってきた後と変わってませんでしたし、ずっとあんなですね」


「奴隷じゃねぇか……プライベートな時間、取ってやってるか?」


「私も以前、そう思って休暇を提案したんですが、涙ながらに「ご奉仕させてください」って言われましてね……」


「あぁ、仕える充実だけで幸せな類か……」


「思わず部屋に連れ込もうとしてしまい、ゴンさんからゲンコツを食らったものです」


「奉仕の意味をはき違えてんだよな、この駄妖精……」


 おっと、既にキースさんは私への評価を「気を使う要素無し」と判断してますね?

 駄妖精とか、ここに来て初めて言われましたよ。ずっと【たわけ】か【うつけ】でしたからね!

 ちょっと素敵なニュアンスなので、今度ゴンさんに言ってもらうとして、本題はそこではありません。


「とにかく、ノーデさんは私達のお世話だけで本当に幸せみたいな感じだから悩ましいのです~」


「まぁ、労いようがないもんなぁ。俺の周りでは即物的な報酬で満足する連中ばかりだったし、その手のタイプにどうやったらいいかってのは参考に出来んぜ」


 キースさんでもダメですか……。

 うぅん、この、私の溢れんばかりの感謝の気持ちを形にするには、どうすればいいのでしょう。


「……けどまぁ、だったら無理に考えなくてもいいんじゃねぇ?」


「はい?」


「結局、なにをやっても喜ばれるってわかってんだろ? あんた」


 そんな私の悩みを、キースさんは何でもないように掃いて捨ててしまいます。


「だったら、何をあげたらもっと喜ばれるか? なんて悩みは、全部あんたのワガママだ。喜ばれるのが確定してるから、もっとその喜びを大きくして自分が満足しようって思ってんだよ」


「ぅ……!」


「そんな気持ちで贈り物するんなら、最初からあげない方が良いぜ。結局、あいつはアンタらに奉仕してんのが一番の幸せなんだろうからな」


 俺には理解できん感性だ。という言葉で締めくくり、キースさんは立ち上がります。


「じゃ、俺はキノコの様子見てくるから。一晩頭冷やして考えとけよ」


「……はい」


「おやすみ」


「……うぇへへ、おやすみなさい」


 うぅん、目から鱗とはこのことですとも。

 確かに、ノーデさんには何をあげても喜んでくれるだろう。そういう思いが私にはありました。

 そして、どうせあげるなら最高の物を! という奮起の元に、ストーキング行為に及んでおりました。

 確かに、それは私自身のエゴだったかもしれません。いえ、ノーデさんを眺めてハァハアしたいという下心ではなく、ノーデさんに喜んで貰おうという気持ちの方がですね?


 私の気持ちを優先した贈り物に、何の意味がありましょう。そうです。どうせ喜んでもらえるなら、ノーデさんへの想い100%の物を贈らなければ意味がないではありませんか。

 私ったら、なんて恥ずかしい勘違いを……! そうと決まれば、何がノーデさんの為になるのかを、真剣に考える必要があるでしょうね。


「……ノーデさんの、ために……私が出来ること……」


 う~ん……色々あります。

 お茶を新しく生やしたり、新しいお茶の淹れ方を教えたり、お茶の派生利用法を伝授したり。

 ですが、それがノーデさんにとって、本当にいいものなのでしょうか?

 もっと、ノーデさんが好きなものを考えてみましょう。

 ノーデさんが好きなもの……それは……。


「……あ」


 そうだ。

 ありました。ありましたよ!

 これなら、そう、このやり方なら、きっとノーデさんは喜んでくれるはずです!

 ふふふ、そうと決まれば、早速準備をしなければ!

 明日が楽しみなのですよ~!

 

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