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第75話:出立

どもどもべべでございます!

これにてサイシャリィ編は幕でございます!

楽しんでいただければ重畳! どうぞ、お楽しみあれ~!

 

 キノコ問題も解決し、私がかけたご迷惑も、多少帳消しにできました。

 数日もすればその噂は広まり、城下の皆さんも、私に対する警戒を緩めてくれたご様子です。

 つまるところ、麗しのわが家に帰るまでの間、私はキノコ茶やハーブ類を買い放題というわけです! もちろん、お値段抑えめで取引しましたよ?

 地面から薬草を生やす度に、「もうちょい効果薄い奴で!」「もうちょい不死性のない奴で!」と叫ばれながら調節して原価下げていったんで、バッチリ通常価格ですとも~。


 物流の混乱が薄まったサイシャリィは、いい感じに町に活気があふれ始めています。私が原因で混乱させてしまいましたが、一安心です。

 ……しかし、そうなると今度は、私個人で欲しいものがありますね。

 ちょっと、ねーちゃんに相談してみましょうか。


「と思って、相談したいのです~」


「出立前日の、夜中にですか……」


「ご迷惑でしたか?」


「ご迷惑ですねぇ」


 ねーちゃんの寝室は、もはや私の寝室と言っても過言ではありません。

 今はねーちゃんの髪を櫛で解かしつつ、お話しの真っ最中です。うぅん、サラサラで羨ましいですねぇ。


「欲しい物があるとの事ですが、それは今夜中になんとかなるものなのですか?」


 先ほど言った通り、今日は最終日。

 明日には、私はデノンさん達と一緒に馬車に乗り、ピットに帰ります。

 楽しかったサイシャリィでの日々も、お終いという事ですね。お城の皆さんがめっちゃ安堵してたのは、やはり王様を出迎えるのは緊張するからって理由でしょう。

 皆さん、相当に気を張ってるご様子ですからねぇ。このくらいの期間が丁度いいのでしょうね。


「えぇまぁ、ねーちゃんの一声でなんとかなるレベルだと思います~」


「それならまぁ、ものにもよりますが、無下にはいたしませんよ」


 長い髪。それを解かす時にのみ見られる、白磁がごとき背中。

 見ていたら吸い込まれそうなくらい綺麗で、前に一回指を這わせたら、「次やったら頼みませんよ!」と真っ赤になって怒られてしまいました。


「んふふ、そう言うと思ってくれましたとも~」


「ばっさり断って、それなら自分で用意するとか言われたら、また国が混沌に包まれますからね」


「あぁん、いけずな発言ですっ」


「ふふ、3分の1冗談ですよ」


 だいぶ本気の比率が大きいですね!?

 ま、まぁいいです。言質は取りましたし、早速お願いいたしましょう。


「んふふ、欲しいのはですね~」


 私は、ねーちゃんにご相談しました。

 最初は普通に聞いていたねーちゃんでしたが、欲しい物を聞くと眉を寄せ、考え込む仕草を見せます。

 色々と天秤にかけているのでしょうか。悩まし気な美女というのも乙な物ですね。


「……まぁ……そうですね」


 女王としての顔で、ねーちゃんは私に向き直ります。


「最後に一つ、お願いを聞いてくれたら、いいですよ?」


「いいですよ~」


「即決ですねぇ……」


 こうして。

 私達の最後の夜は、更けて行くのでありました。





    ◆  ◆  ◆





「よぉし、やっとピットに帰れるぜ」


 デノンさんが、伸びをしました。

 私と違って、ほぼ全日を国交に使ってましたからねぇ。疲れてるんでしょう。

 馬車の中で、ゆっくり休んでもらいましょうかね~。


「世話になったな、ネグノッテ女王!」


「いえいえ、デノン王の苦労がわかったので、互いに歩み寄る事ができました。この結果はとても大きいですよ」


「んふふ、心和ちゃんを中心にできた絆ね!」


 え、なにそれ凄い。

 私ってば、平和の象徴になっちゃったりするんですか!?


「違いねぇ。……ネグノッテ女王、もしも管理者様がとんでもねぇやらかしをした場合は……」


「えぇ、エルフはピットへの協力を惜しまないでしょう」


 そういう方向!?

 うぅん、しかし、ある意味これはピットとエルフの同盟と言っていいのでは?

 となると、私の当初の目的は……達成されたとみていいのでしょうかね? 悩ましいところです。


「よし……行くか」


 満足そうな顔で、馬車に歩み寄るデノンさん。

 お見送りは、城の方々。それに、いつの間にか出来ていた、えっちゃんのファンの方々です。

 うん、えっちゃんは美のカリスマ的存在として、女性に大人気だったらしいですね。化粧品の組み合わせを新しく開発して、乗りを良くしたりしていたそうな。

 私にはよくわかりませんけど。


「森の管理者さん」


「ん? 急にかしこまって、どうしたんですかねーちゃモゴゴ」


(公共の場では言わないように……)


「……ポンッ。どうしました? 女王様」


「いえ、こちらで約束の品をご用意いたしましたわ」


 おぉっ、本当に一晩でやってくれましたよ~。

 流石です、ねーちゃん!


「では、こちらに」


「ちょ、オイ、離せって! なんだよ一体!」


 ネグノッテ女王が連れてきたのは、妙に丸い生命体。

 整ったパーツは肉で中心に寄り、コロコロと転がった方が楽そうなフォルム。

 そう、キノコ屋さんの、あのエルフさんです。


「女王様、これはいったいどういうことだ!?」


「キノコ茶加工職人、キース。貴方にはこれより、森の管理者の元でキノコを栽培する任を命じます」


「はぁ!?」


 わーいっ、やりました!

 キノコ茶製造職人、ゲットです! いやぁ、お願いしてみるもんですよ~。


「おいおい、俺は何も聞かされてないぞ?」


「あぁ、デノンさんが聞いてないのもしょうがないですね~。昨晩お願いしましたし」


「断った場合、とんでもない方法でキノコ栽培して森がキノコまみれになる未来しか見えなかったので……キノコに詳しい者をつける事にしました」


「ちょ、俺はキノコを加工するだけであって、栽培なんかにゃ手をつけてねぇよっ!」


 キノコ屋さんの言葉に、ネグノッテ女王は鼻を鳴らします。

 あ、これは昨日のお願いで強気に出てますね。


「キース? 貴方がキノコを栽培していないというのは、真っ赤なウソです」


「は、はぁ? 何を……」


「昨晩、森の管理者さんに調べて貰った結果、貴方の住処の地下には、大規模な違法キノコの栽培地が見られました。随分と、文字通り私腹を肥やしていたようですね?」


「…………」


 キノコ屋さん、犯罪は駄目ですよ~。

 私は昨日、お願いされた後ちょちょいと外出しまして、キノコ屋さんのお宅に行ったんです。

 部屋に飾られたまじない道具が、セキュリティとして発動していましたが、そこはそれ。魔力を同調させれば余裕で通れますしね~。

 んで、植物をお宅に生やし、その根を使って隅々まで探索。結果、地下室を発見したという事です。

 んふふ、キノコ屋さんは加工しかしてないって言ってたのに、キノコ栽培の知識もあったので、きっと作ってると思ったんですよ~。


「……それ、はだな?」


「本来ならば処刑する所ですが、今回は追放といたします。どうぞ、森の管理者さんの元でこき使われてください」


「い、嫌だ! こいつのやらかしに日夜巻き込まれるなんて嫌だ! 死刑の方がましだ! 頼む!」


 え、ひどくない?

 一日三食おやつにお茶付き、アットホームで笑顔の絶えない職場ですよ?


「……ていうか、管理者様はいいのか? めっちゃ犯罪者なんだが」


「キノコ茶が飲めるようになるなら、大歓迎です」


「お、おう……」


「いやだぁぁぁぁ!!」


 その後、キノコ屋さんはねーちゃんの魔法の草で口元までキュッとされて沈黙。

 馬車の中に突っ込まれたのでありました。


「……さて、これで本当にお別れですね」


「とはいえ、後日お茶会しますけどね~」


「デノン王ではありませんが、胃が痛くなりそうです」


 私とねーちゃんは、硬く握手を交わします。

 私達の間に芽生えた、奇妙な友情。これは、サイシャリィに来た一番の成果かもしれません。


「では、また」


「はい、また~!」


 にこりと笑い合い、私は馬車へ。

 しかし、やはり馬車は酔うので、追走です。

 あぁ、いろいろあったけど……楽しかった!


「では皆さん、行きましょう~!」


「「ハッ!」」


 回復した騎士さん達も、意気揚々。

 もうゴンさん茶は飲ませないので、ご安心ください!


「はぁ……仕事、片づけててくれてたらいいんだが」


「んふふ、大変ねぇ」


 デノンさんは、もう次の仕事に陰鬱そう。お茶会の時には癒して差し上げねば。


「はぁ……ゴンさん……今愛に行きます~!(誤字にあらず)」


 私も、久しぶりにゴンさんに会いたくて仕方ありません。

 さぁ、目指すはピット! その後に森へ!

 キノコ茶持って行きますよ、ゴンさぁ~ん!!

 

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