第72話:純情
どもどもべべでございます!
波乱の展開が一段落したので、ちょっとした日常パートです。
次あたりから、ゴンさん出して行こうかな! そろそろゴンさんレスです!
時間的にはそんなに経ってないんですけどね……(笑)
そんなこんなでご投稿! どうぞ、お楽しみあれ~
波乱のながぁい一日が終わり、夜の帳が降りてきます。
城下は混乱を生みつつも、なんとか問題を鎮圧した件を伝えて回り、落ち着きを取り戻したそうです。
人々が不安なく過ごせているというニュースはひとまず安心です。なので、ここからは親睦を深める時間と言えましょう。
「ねぇ……いいじゃないですかぁ」
「そんな……ダメです……」
ベッドの軋む音が、部屋全体を怪しげな空間に引き上げる。
同時に、細く高い声が私の耳をくすぐります。
「誰も見てないし、聞いてないですよ……ね? 少しだけ……」
「あ、ぅ……じゃ、じゃあ……」
自然の美と民族的美的センスをふんだんにあしらった、女王様専用の寝室。
私と女王様は、そこで2人きりになっていました。
「い、一回だけ、ですよ……?」
「大丈夫、誰にも言いませんよ……」
2人の距離が近づき、唇が触れる寸前に。
羞恥のためか、浅く小刻みな吐息が私の肌をくすぐります。
彼女の体はわずかに震え、これからの行為に必死に耐えている様子。自分が彼女を強制的に羞恥の渦中に叩き込んでいるのだと自覚すると、何とも言えない優越感を感じてしまいます。
これはいけない、いけない感情ですよ。
「あぁ、やっぱり、恥ずかしい……!」
「だぁめ、やるって決めたんだから、絶対です。さぁ、どうぞ……?」
「あうぅ……意地悪……」
もはや退路はなく、やるという一択しかなくなっているのは明白。
それでも必死に抵抗しようとしている女王様は、まるで小動物のように可愛らしいです。
やがて、観念したかのように、その潤い溢れる唇が僅かに開かれます。
「わ、私……私、は……」
そして、女王様は……
「わ、私は……アースエレメンタル様を、お慕いしております……!」
「うっきゃぁぁぁ~! 耳をくすぐるコイバナぁ~!」
私に、自分の秘密を打ち明けてくださいました。
いやぁご馳走様です!
やっぱり夜の寝室って言ったらコイバナですよねぇ~!
ん? なんで客室で寝ないのかって? いや、私も客室で寝ます~って言ったんですけどね。
でも、なぜか皆が「こいつを監視下に置け」って言いだしまして……結果として、同性の女王様と一緒に寝ることになりました。
えっちゃんはなんかこう、グレーゾーンだから一緒に寝るのは駄目なんですって。
「んふぅ~、いやぁ、良いですねぇいいですねぇ! ワクワクしてきました!」
「あうぅ、誰にも言った事ないのに……」
「いや、はたから見て丸わかりでしたけどね~?」
「え、うそん……」
今現在女王様は、非常にうっすいフリフリのネグリジェに着替えています。普段寝てる時は何も着ないらしいんですが、今日は私がいるため配慮してこのスタイルらしいです。
うん、とにかく2つの脂肪の塊を強調しておられますねぇ。猫パンチの練習台にしたらさぞかし暴れ回ることでしょう。
しかし、今の私はまさに修学旅行の女子高生気分! そんな嫉妬はワクワクの前に散ったのです!
なんたって光中心和の記憶では、修学旅行の当日にノロウィルスに感染して隔離されてますからね! 心和ちゃんの無念を、今こうして晴らすのです~。
「んふふふ、ちなみに私の好きな人はですね~」
「それもまたもろバレな上に、エルフ的にまだ抵抗あるのですが……」
「え、うそん……」
うぅん、どうやらまだゴンさんに対して抵抗があるようですね……仕方ありません。この一晩をかけてゆっくりと洗のぅ……もとい、ゴンさんの良さを深層心理に無理矢理擦り込んでいきましょう。
「……こうして改めて相対すると、貴女はどこまでも無害に見えますね……」
「ん~? まぁ実際無害ですし?」
「はは、面白いですね」
おやぁ? 冗談を言ったつもりはなかったのですが。
私はパタパタとベッドに踵を落としながら転がります。
「実際、私自身は何もできませんよ~? 女王様が変な絡め手で来ずに、兵隊さん使って取り押さえて無理矢理にいう事聞かせてたら、多分何かしらうまくいってたんじゃないです~?」
「それをするには、互いの立場が邪魔していましたからね。デノン王にバレずに、上手く誘導できるか試したのですが……残念ながら、貴女の予想外な行動が重なってあの様です」
「もう既に歯に衣着せない感じ! お互いを認め合ってきましたね~」
「……そう思える貴女が少々羨ましいですよ。ふふ」
うんうん、そもそも文献=図書館だと思って城下に降りたのが間違いだったですからね~。
そこからあれよあれよとあの展開ですから、それはもう読みなんて意味なかったと思わざるを得ないですよ~。
「私は……あの熊を許せるか、わかりません」
「ん?」
体をゴロリと反転させると、どこか憂いを帯びた女王様が映ります。
白磁の肢体を惜しみなく晒しつつ、膝を抱くその姿は、一枚の絵画のよう。
でも、モチーフは良いとしても、その表情がいただけません。
「私の、母の国を……あんなにもあっさりと滅ぼし、この地に追いやった……あの熊は、まさに災いの象徴なんです。私にとって」
「お母さんの国……って、あの文献書いてた人って、女王様のお母さんなんです?」
「えぇ。私は戦乱がこの大陸を包んだ時に母からこの地位を譲られ、100年統治してきただけなのです。それまでは全て、母のおかげでエルフは平和に過ごしていました」
ほえぇ、さすがはエルフ。超ご長寿種族だけあって意外な事実ですね~。
ん~、そうなると確かに、女王様にとってはゴンさんはトラウマものの存在だったのかしらん。
「……というか、女王様? あの文献、先祖がどうとか言ってませんでした?」
「……身内で年上ならば、それは先祖と言えるでしょう? 母親も然りですよ」
「……タイムリーな事実に自分が関わっていないと思わせて、年齢を誤魔化してたとか……」
「シャラップ黙りなさい」
「あっはい」
うん、同性とはいえこれは不躾でしたね!
私は何も聞かなかった。うん、それでいいのです。
「でも~、そういえばそうなんですよね。女王様がえっちゃんの事知ってるっていうんでしたら、かなり前から出会ってないといけなかったんですもんね~」
えっちゃんは森から出て、100年の間フィルボの皆さんのお世話をしていた訳ですからね~。
女王様は、その前のえっちゃん……アースエレメンタル時代のえっちゃんと面識があったから、あんなラブラブビームを放てたわけですね。
「まさかまた、こうして出会える事があるなんて……」
「んふふ、そうなると女王様は私に貸し一つ! ですねっ」
「え?」
「だって、えっちゃんは消えかかってましたからね~。私とゴンさんがピットに行ってなかったら、今頃大変な事になってましたよ~」
「え、え? 何それ詳しく」
んふふ、そう言われたら仕方ありません!
恋する乙女が好きな人の情報を知りたがるのはもはや運命。ならば私はその運命を手助けしてしまうのです。
という訳で、私はえっちゃんと出会った時の事を女王様に話してあげました。
ピットを守る精霊の、悲しくも美しい、献身の物語。
それは、女王様にとって大層な驚きだったようです。
「……そんな、ことが……」
「今は、お茶を定期的に飲めば問題ない感じになってますけどね~」
「……で、あるならば、そこは貴方達に感謝せねばなりません……」
うんうん、そうでしょうとも。
「しかし……」
「ん?」
「逆を言えば、アースエレメンタル様が住処を捨てたからこそそのような事態になってます。やはり原因
は、あの熊に……!」
あ~、もう。この人は。
そんなマッチポンプじゃないって事は、自分でもわかってるでしょうに。妙な所頭硬いですね~。
ピットでのお話しは、私とえっちゃんみたいな妖精や精霊の価値観と、生命である皆さんの倫理観が違うから起こった事です。
えっちゃんが選んだ道であり、そこにゴンさんを介入させるのはいささか無粋ですよ?
「……貴女が何を言いたいのかは、わかりますよ? 管理者さん」
「も~、わかってるなら口に出さないでくださいな」
「ふふ、でも、本音ですもの。こういうのを言うのも、互いを知るために必要なのでしょう?」
むぅ、それを言われると……あぁ、もういいです!
「じゃあ、これで互いの性格は何となくしれたって事でいいのでしょうか~?」
「そう、なりますかね。少なくとも、一日の内には知りえない事を、たくさん知り合ったように思えます」
「じゃあ、今度から私、女王様の事をねーちゃんって呼びますね!」
「は?」
あだ名ですよ、あだ名。
ゴンさんはゴンさん、えっちゃんはえっちゃん。
長い名前はあだ名に限る! 前々からネグノッテ女王って長かったんです。
だから、ねーちゃん! 我ながらセンスに溢れるネーミングですとも。
「……ねーちゃん、ですか」
「んふふ、で、私のことも管理者さんじゃなくて、名前で呼んでくださいよ~」
「いきなり詰め寄ってきますね……ですが、そうですね……」
女王様、改めねーちゃんは、少しの間考えます。
そして、私に視線を向けて……により、と笑います。
「じゃあ、お茶スキで、おっちゃん」
「アウトぉぉ!! それはうら若き乙女につけるあだ名じゃない気がします!」
「ふふふ、いいではないですか。私だって姉でもないのにねーちゃん扱いですよ?」
「性別が一致してるからまだ倫理観はこちらにあります!」
「いいじゃないですか。おっちゃん」
「のぉぉぉう! いけません、いけませんよ~!」
その後。
私が必死の改名交渉として、くすぐりアタックを敢行。
ねーちゃんも迎撃として、植物を呼び出し応戦。これをお茶に加工し、制圧。
結果として、私はマウントを取ったまま、ねーちゃんを責め続けたのでありました。
そして、私のあだ名を、ここちゃんにする事を約束させたのでありました。