第70話:昔々
どもどもべべでございます!
うぅん、自分で設定した一週間の期日ギリギリだ!
これはいかん、いかんぞ!
そんなこんなでご投稿! どうぞ、お楽しみあれ~!
この記録は、我々エルフの歴史において、最大の汚点と言える。故にこうして、けして忘れる事なきようにここに記すものとする。
この書を屋外に持ち出すことは堅く禁ずる。破った者は、この書に付与された呪いにて激痛を味わう事だろう。
◆ ◆ ◆
忌まわしきは、あの熊の到来に遡る。
かつて、大陸の知恵者といえば我々エルフのみが該当する権利を得ていた。それは、数多の歴史的文献を紐解けば自然と出たであろう答えだという点は、これを読んでいる諸君も想像に難くないであろう。
エルフが森を、そして大陸を支配していた時代は、平和そのものがこの大陸の名であると豪語出来ていた。
しかし、そんな我々の安寧を奪ったのが、あの二対の熊だ。
熊は、何処とも知れぬ場所からやって来たという。森に来た頃には、まだエルフ1人分の大きさしかなかった。
そんな2頭の熊が、森を荒らして回っていた。我々エルフはその蛮行を止めるべく、武器を取り戦った。
武器は狩りでのみ使っていた我々にとって、それは初めての闘争であった。
知っての通り、2頭の熊はただの熊ではない。奴らは、それぞれが特殊な能力を持っていたのだ。
・無知なる者へ知識を与える能力。
・知識を溜める程に力を得る能力。
2頭が揃っている事で、片割れは際限なく力を増し、エルフはなす術も無く森の端へ追いやられていった。
やがて、2頭の片割れ……知恵を与える【知恵の獣】は、片割れ以外にもその力を使い始めた。
野蛮な鬼に。
低能な獣に。
小さき者に。
それらの種族に文化が生まれ、混ざり、分裂。
結果として、何物にもなれない只人が生まれ、それらもまた自分たちの文化を作った。
獣は、当然の如く彼らにとっての、神として祀り上げられた。
我々エルフから奪った土地を、守護する者などと……傲慢にも程があろうに。
(この部分だけ、破れ、修復された跡が見られる)
失礼。私怨を書き込んでは正確な報告にならない。これを読んでいる後世の者たちには、なるべく真実を語ろうと思っている。
さて、獣がそれからどうなったかを語ろう。
結論から言って、2頭の獣はその関係を違え、袂を別った。
何故か? 簡単だ。【知恵の獣】の暴走である。
獣によって知恵を与えられ、様々な文化を作った種族たち。彼らは、急速に知恵を付けたが為に、滅びに向かい始めた。
争いだ。それも、個人の話ではない。
各種族同士の抗争。もはや喧嘩では済まされない……戦争だ。
初めは鬼が。
次に獣が。
これらが国を興し、他の領土を侵さんとしたのだ。
小さき者は南へ逃げた。
万能の人は東へ逃げた。
エルフもまた、それに巻き込まれた。
鬼と獣は全てを飲み込まんとしたが、結果として、【力の獣】の前に敗れ、国に籠る事となる。やつらの暴虐をもってしても、中央の森は堕としきれなんだ。
しかし、戦火は確実に獣を蝕んだ。
己の力が、この争いを生み出したのだと、【知恵の獣】が気に病んだのだ。
知恵などあるから。
知恵など不要。
その自責に心が耐えられなくなり、獣は狂う。
もはやその瞳に知恵の色は無く、ただ周りを壊すだけの狂獣へと変貌した。
かつて【知恵の獣】と呼ばれたそれは、周囲に暴風が如き被害をまき散らした。
結果……獣は、【邪獣】と呼ばれるようになる。
文章でこそ短いが、この間には長い年月が培われている。
知恵とは、知識とは、長ければ長いほど、繋がれば繋がる程研鑽され、武器になる。そして、毒にもなる。
知恵という毒が、獣をじわじわと蝕んだのだろう。
邪獣は、我らエルフや、小さき者、鬼などに被害を与えていった。
その過程で、大地に根付いていた精霊や、その地を見ていた妖精にも危機感を与える。
何より、【力の獣】が黙っていなかった。
狂った同胞に戦いを挑んだ【力の獣】は、その膂力で邪獣を圧倒する……かに思われた。
しかし、邪獣は知恵を与える力によって、数多の魔物を指揮下に置いた。
数は力、暴力。それは、知恵者が身に着けた不変の理。
流石の【力の獣】も、ほぼ同等の力を持つ邪獣に加え、魔物の群れが加わっては勝てぬ。
故に、妖精と精霊が力を貸した。
魔物を抑え、邪獣を弱らせ……ついに、邪獣を炎の結界に閉じ込め、封印することに成功したのだ。
だが、その結果はあまりにも遅い。
長い時間をかけた結果、この大陸は戦乱の地となった。
そして、この森は魔物の渦巻く危険な森となった。
世界樹様が生きていれば、このような事にはならなかっただろうに。
その後、【力の獣】は妖精と契約を結び、【守護者】として改めて、森に住まう事となった。
精霊は力を失い、何処ぞへと姿を消した。
我々エルフの愛した地は、もう無い。
あるのは、あの熊が踏み荒らした、絶望の森だ。
生涯忘れてはならない。
知恵の怖さを、力の脆さを。
そして、無垢の危うさを。
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4代目の長:リャナンティアが、ここに記す。
羊皮紙は、ここで終わっている。