第39話:取り繕い
どもどもべべでございます!
投稿を開けていても2000人もの人に読んでもらえる。これはとても嬉しいことですね。
今日は祝日なので、ちょこちょこ書いていきましょう。
どうぞお楽しみあれ~
それから、梅雨が明けるまで。私達は特訓に明け暮れていました。
なんの特訓か、ですって?
決まっています。演技の訓練です。
まるで子役オーディションに我が子を出すために、本人以上に熱が入る母親がごとく、ゴンさんは私をしごきあげたのです。
(※ある時)
『立ていちんくしゃ! 貴様の実力はその程度か!』
「コーチ! 私、出来ません!」
『弱音など聞かぬ。我が貴様の才能を開花させると宣言したからには、必ず貴様は一人前の大女優となるのだ!』
「あぁっ! そんなご無体な……!」
『さぁ、グラウンドを三周追加だ! 行ってこい!』
「浮いてるのですがそれは~」
(※また、ある時)
「ゴンさん、なぜ私を拘束するのです?」
『これを食って顔色を変えずにいる訓練だ』
「私が作った試作型おでん(練り物はコンニャクのみ)じゃないですか!? 熱い料理を作れって言ったから作ったのに!?」
『貴様の面の皮を厚くするための特訓だ。受け入れよ!』
「いやぁぁぁぁぁあああ!? 卵は熱々なのおぉぉ!! むぐっ」
『……どうだ?』
「むぐむぐ……そもそも私、熱いの平気な人でしたわ~」
『「はぁこりゃこりゃ(ズッコケ)」』
とまぁ、毎日のようにこんな素敵なやり取りを繰り返させていただきましたとも。もう幸せの絶頂でしたね。
スパルタゴンさんを相手にしてたら、私なんだかイケない感覚に目覚めてしまいそうっ!
え? というか何で演技の練習してるのか、ですって?
それは一言で説明がつきますねぇ。私がモロ顔に出るタイプだからです。
おそらく梅雨明けと同時にこちらにかち込んで来るであろうグラハムさん。彼はあの巧妙極まりない策略により、私のアキレス腱である【超お茶スキー】属性を見切っているはずです。
そうなると、大量のお茶と引き換えに、私の作った回復お茶を求めてくるのは必然である、と二人が言っていました。それはなんか、ダメだそうです。
そんな、私の明確な弱点。
しかし、その情報の前提が間違っていたとしたら?
私がお茶などには目もくれない、すんごい厳かな淑女だったとしたら? その瞬間、グラハムさんの目論見はおじゃるに……じゃなくておじゃんになることでしょう。
だからこそ、私は森の管理者らしいめっちゃ厳格な上位妖精として振る舞えるよう特訓していたのです。
うぇへへへへ、自分で言うのもなんですけど、これ結構自信ありますよ?
なんたって、あのノーデさんが完成した私の演技を見た瞬間、内股になってカクカク震えながら頬を高揚させ、口元を押さえて感涙にむせんだ程です。
そんなノーデさんがあまりに庇護欲をそそる表情で美辞麗句を並び立てるものですから、思わず彼を抱いて屋外へ拉致してしまった程ですよ。ゴンさんが私を追い詰めてゲンコツ落としてくれなかったら、私はノーデさんをイケない感じにしていたことでしょう。
まぁ、そんな紆余曲折はともあれ、これで私はどこに出しても恥ずかしくないスーパーキャリアウーマンになった訳ですよ!
それはもう、心和の知識にいるような、全力で世界総人口35億人をどや顔で手中に収めんとする某ウーマンも真っ青な程に、新生心和のカリスマはストップ高なのです。
『うむ、我から貴様に教えることはもう何もない……』
「コーチ……ありがとうございます!」
(本当かなぁ……)
どこか保護者チックなアルカイックスマイルを浮かべるノーデさんを横に、私とゴンさんは夕日を指差し漫画の表紙的な一枚絵を提供中です。
ふふふ……さぁどこからでも来なさいグラハムさん。私、いつでも相手になってあげますよ!
そう、思っていた矢先の事でした。
「ココナ様、我が王からお知らせでございます」
「はいな~」
ある日の午後。ヤテン茶を嗜む私たちの元に、通信石を持ったノーデさんがやってきました。
デノンさんからお電話ということでございますが……これは、来ましたかね?
ちょっとした確信を持ったままに応対した結果、やはりというか何というか。グラハムさんが、デノンさんに私とのコンタクトを取るための仲介を頼んだそうなのです。
完全に私に関する情報が洩れているらしく、隠蔽は困難とのことで、返答に困ったデノンさんがこのお話が回してきたのですね。
でなければ、デノンさん達フィルボが私の事をひた隠しにするはずですものね。
「……どうします?」
『良いではないか。訓練の成果を見せる時だぞ、ちんくしゃ』
「私としては、出来るだけ無茶をして欲しくないという思いはありますが……グラハムさんがココナ様の情報をどこかに売って、余計な藪蛇になる前に対処すべきでしょうなぁ」
うんうん、お二人がこう言うのでしたらば、私も迷う事などありません。
新生心和ちゃんの最初の相手として、グラハムさんをご招待いたしましょう! 首を全力でゴシゴシしながら待っててあげますとも!
デノンさんに了承の返事を出しつつ、私たち2人はほくそ笑みます。
ただただ、ノーデさんだけが不安を隠すように、お茶のおかわりを準備していたのでありました。