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番外編:まさに聖女

どもどもべべでございます!

一日置いてからのご投稿!

筆が進んだからね! 仕方ないね!

というわけでご投稿! どうぞ、お楽しみあれ~

 

 獣を連れた聖女か。まぁ普通はおとぎ話としか思わねぇよなぁ。

 しかし、あの巨大な樹木に、デノン王の態度……関連性が無いとも言い切れん。ピットからウォレスに戻った俺は、どうにもその聖女の事が頭の片隅に引っ掛かっていた。

 ……わかんねぇってのは、商人の恥だ。商人ってのはある意味、賢者よりも知識に貪欲でなければならない。

 どんなことでも、知ってなけりゃあ儲けに繋がらねぇからだ。


「……会頭、その準備は何のための物ですか?」


「ちと森に行ってくる」


「ピットで信仰心にでも目覚めました? 洗脳というのは恐ろしいですね」


 俺とタイミングを同じくして戻っていた部下に、至極まともなご意見をいただいた。

 まぁそうだよな。森に行くってのは食うに困った冒険者か狂信者、自殺志願者くらいしか足を運ばんもんだ。

 だが、今回の俺は本気である。


「ピットで何か掴んだのですか?」


「真相の片鱗かも怪しい情報だがな。それでも、自分の目で確かめてみるべきだと判断した」


 都市ウォレスは一番森に近い場所だ。ここからなら、馬を走らせれば簡単に森までは行ける。

 これでも旅商人上がりだ。山賊や魔物を相手したことは五万とある。コカトリスは無理だが……まぁ解毒剤を多めに持っていくかね。


「……止めたって、行くのでしょうね」


「引継ぎの書類はそこに置いてある。十日で戻らなかった時の対処も書いてあるからその通りに進めてくれ」


「部下全員を路頭に迷わせますよ?」


「遅かれ早かれ、動かなければそうなると判断したんだよ」


 あの大樹は、ピットだけが独占していい情報じゃあ断じてないはずだ。

 鬼が出るか蛇が出るか、それとも本当に聖女様がお出迎えかはわからんが……他の商会を全部出し抜いて利益を得る機会を、鬼や蛇程度で逃せる程、俺はサラリと生きてねぇ。

 いざとなったら戦地で死体漁りしてでも利益を出せってのが、商人ってもんだろう?


「あぁ、そうそう。悪いけど一つ準備してもらえねぇか?」


「はぁ……何を準備するんです?」


「お守りみてぇなもんだ。子供たちが言ってたんだがな?」


 こうして俺は、単身でバウムの森を捜索することにした。

 冒険者風のいで立ち、装備に加え……腰に、茶葉が入った革袋を引っ提げて。





    ◆  ◆  ◆





 恵みの季節ね……草木にとっちゃあそうだろうさ。

 だが、室内でアフタヌーンティーでも嗜んでる奴らはともかく、外で活動する人間にとっては、啜る泥水の量が増える季節なわけで。

 俺は、森の中を方位磁石頼りに、濡れ鼠になりつつ必死に進んでいた。


「ったく、こりゃあ、しんどい……!」


 雨具にかけていた水弾きの魔術が切れかかっている。あと半日もすれば、ただの布に戻ってしまうことだろう。

 そうなると、予備の雨具があと3枚……どこかで雨の切れ目を待たねぇと、行って戻るまでの雨具が足りなくなる。

 水や食料は余裕あんのになぁ……こういう時、やはり天候ってのは一番厄介だと悟らざるを得なくなる。


「森を進んで、もう二日か……多少は中心に近づいてくれてりゃあいいんだが……」


 ここまで、運良く魔物には見つかってねぇ。まぁ、隠れてる横を素通りしていただいた回数は何度かあるがな。

 それも、コカトリスではなかった。大繁殖の後、かなり数を減らしているのかもしれん。この情報は売れるかもわからんね。


 ……儲け話は生き残った後にするとして、とりあえず今日は、そろそろ雨宿りできそうな場所を探して野宿するか。

 洞窟さえあれば、持参した木材チップの火種とマッチで薪が出来る。乾燥してる枝はないだろうと思っていたからな、薪代わりの可燃物も持ってきた。

 あとは、そう。洞窟さえ見つかれば……。


「っ!」


 そこまで考えて、俺は咄嗟に茂みの中に隠れた。

 なにか、とてつもない気配を感じたからだ。

 まるで、全身を魔力で包んでいるかのような……そんな濃密な気配。けして嫌な雰囲気ではないが、勝てる存在じゃないってわかるなら隠れるに越したことはない。


「…………」


 その存在は、森の奥からやってきていた。

 パっと見は人に見えるが、明らかに違う。肌は若葉のように鮮やかな色をしており、頭髪にあたる部分は深緑の葉が集まっていた。何より、ふよふよと宙に浮いている。

 一体なんの魔物だ? 人間の女性型なら淫魔サキュバスなどもいるが、そういった邪気は感じられない。

 遠目で表情は確認できないものの……どこか神聖な雰囲気を纏った女性だった。

 俺は呼吸を殺し、珍しく神に祈りながら、見つからないように努める。


『…………』


 その女性は、俺が近くにいるにも関わらず優雅に飛んでいた。

 気付いていないのか、はたまた木っ端に気を回す事もないって判断か? なんにせよありがてぇ。

 俺はしばらくの間、距離をとりつつその女性を観察することにしたのであった。


 ……んで、しばらくして。

 そんなに時間は経っていないが、それでも驚かされたね。

 あの女性は、完全に人知を超えた何かだ。それは確信を持てた。

 なんたって、草木を思うさま操り、地形を変えてしまっているのだから。

 密集している樹木を、まるで馬車の交通整理のように等間隔にしていく様は圧巻の一言だった。

 枯れそうな草木に手を当てれば、まるで時計の逆回しのようにそいつらが生命力に満ち溢れていく。彼女が通った場所は、まるで春のように若葉が満ちていた。


 間違いない。あれが、【聖女】だ。

 ピットの子供たちが言っていたことは、正しかったのだ。

 さて、そうなると選択肢が増えるが……果たして、接触していいものか。

 子どもたちは、あの聖女なんつう魔物を好意的にとらえていたが、どこまで友好的かはわからねぇ。

 とはいえ、ここまで来て接触しないって選択肢も、ねぇような気がするが……さて。

 俺が、僅かな迷いを見せていたその時だ。


『ォォォォ……』


「っ!?」


 突如として、俺の口元を何者かが塞いだのである。

 視界は靄のようなもので塞がれ、半透明になる。こいつぁ……


幽霊ゴースト……!?)


 幽霊。れっきとした魔物の一種である。

 霧のような体に、魂を宿した核が本体。物理的な力に相当強く、魔法や聖なる力を用いて戦えばならない厄介な相手だ。

 ドジった……聖女に気を取られすぎた!


「っ! っ!」


 なんとか振りほどこうとするも、幽霊の身体は沼のように俺の腕を透過して動かせない。

 窒息を狙っているのだろう。俺と目を合わせてくる。

 見た感じ、山賊の魂なのか……その姿はこけた男のものだった。死んだ者の似姿として現れるのも、趣味の悪い話だ。

 っ、余裕こいてる場合じゃねぇ。このままだと、マジで死ぬ……!


 俺は、荷物の中から聖水を一瓶取り出そうとした。こいつさえ降りかけりゃあ、幽霊は怯えて飛びのくはずだ。

 そう、確信していたからこそ……気が緩んだ。


「っ!?」


 聖水の瓶ごと、俺の荷物は全部奴に絡めとられ、遠くに散らばされる。まさか、そんな対応してくるとは思いもよらなかった。

 普通の幽霊ならば、本能のみで獲物を狙うからだ。聖水に危機を感じて対処するなんて、聞いたこともない。


(……ここまで、か……!)


 ガボッ、と、声にならない声が漏れた。

 意識が少しずつ、遠のいていく……


『ォォォォ……!?』


 ふと、薄れゆく意識の中で、俺の口から奴が離れて行くのがわかった。

 ようやく得られた空気に、慌ててかじりつき、肺で咀嚼する。

 天上の美酒だろうと、こいつには敵わねぇと思えるほどに、その空気は美味かった。


「ゲホッ、ゲホッ……!?」


 それでも、意識は遠のいていく。

 既に、糸が切れてしまっていたからだ。


 その意識の中、俺が見たのは……神々しさの塊のような、一本の大樹。

 聖なる気を放ち、圧倒的な力で幽霊を浄化していくその光景に、俺の閉じかけの目は奪われた。

 何よりも……その前に立つ、美しい女性の笑顔にだ。


「……せい、じょ……」


 それだけを呟いて、俺はそのまま意識を失った。

 一瞬、俺と目が合った。そんな気がしたが……それを判断できる余裕は、もうなかった。





    ◆  ◆  ◆





「……ん……」


 その後、俺は目を覚ます。どうやら、命拾いしたらしい。

 幽霊に不意打ちされて生き延びるなんて、出来すぎた悪運だ。

 いや、違う……俺は慌てて起き上がり、周囲を見回した。


「……これは……」


 その空間は、まるでさっきまでいた場所とは別の様だった。

 美しく、等間隔に並んだ樹木。

 活き活きと雨を受ける草花。

 それらは生命力に満ち溢れており、先ほど以上に成長し数を増やしている。

 俺が寝ていた茂みも、一回り膨らんで雨の花を咲かせていた。


 そして何より……俺の視線の先に立つ、見上げんばかりの巨木。

 流石にあの化け物大樹程ではないだろうが、それでも荘厳な神秘に満ちた存在感だ。


「……雨具の魔力の消費具合的に、そこまで長いこと気絶はしていねぇ……そんな短い時間の間に、この空間をここまで魔力と生命力で満たしたってのか……」


 この光景が夢じゃないってんなら、あれは間違いなく、聖女だ。

 それも、飛びっきりの。歴史に名を残すような、聖なる存在だ。


「……ん?」


 周囲に目を奪われながら、のそのそと荷物を回収していた俺は、あることに気付く。

 荷物は全部あるのに……茶葉の入った革袋だけが、見当たらないのだ。

 そこまで遠くには散らばらなかったはずなのに……誰かが持って行った?


 ……いや、誰かなんて、決まっている。おそらく、聖女が持って行ったのだろう。

 ならば、何故?


「……俺が助かったのは、あれがあったから……?」


 そういう事、か?

 おそらく、あいつ……いや、【あのお方】は、俺の存在に気付いていたのだ。

 そして、俺がお守りという名の【供物】を持っていたことも感づいていた。

 だから、助けてくださったのだろう。でなければ、俺が助かる根拠がない。

 子どもたちが言っていたことは、1から10まで本当だったんだ。


「……戻ろう」


 帰って、準備をしなければならない。

 何って? もちろん礼の準備だ。

 恵みの季節が終わり次第、俺はあのお方にまた会いに行く。

 そして、大量の茶葉を供物として捧げるのだ。命の礼は、商人として全力で返さねばならん。

 

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