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ドライアドさんのお茶ポーション  作者: べべ
第三章:「ドライアドさんとスローライフ」
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第27話:建築知識? ないっす

 どもどもべべでございます!

 バレンタインとか滅びればいいよね! とは言いますまい。保育士は確実に義理が貰えるお仕事でもあるのだから!

 お返しはなににしようかなぁ。やはりクッキーでしょうか? お茶っ葉とかもいいかもですね。

 そんなこんなでご投稿! どうぞ、おたのしみあれ~

 

 寒さに震え、堪えた人々を労うかのように全てを温める、芽吹きの季節。それが春。

 花は咲き誇り、木々は芽吹き、獣が舞い鳥が歌う。そんな春も、己の役分を終えたのならば、後は引き継ぎ作業に没頭し始めるのがこの時期と言えるでしょう。

 すなわち、じわりじわりと夏の足音が近づいてきたのです。


 木々は絢爛けんらんの舞踏会を終え、日常に戻るかのように花々のドレスを脱いでいきます。しかしなれど、夏はまた別の意味でのアピールタイム。

 今度はめかし込んで木の葉の青みを増していき、装飾で飾った令嬢が如き雰囲気から一転して、健康美あふれる癒やしを我々に提供してくれることでしょう。


 木々だけではありません。当然、動物たちも季節の変わり目に向けて己の周囲を整えていきます。

 春は出会いと別れの季節。厳しい冬を乗り越えて潤沢な恵みを食し肥えた者たちは、永劫己の隣に立つべき相手を見つけ、燃え上がるように青春を謳歌します。

 夏になれば、そうして芽生えた新たな命が、またいずれ生まれるであろう命を後世に繋いでいくための勉学が始まるのです。

 見た目も、中身も。森が一つの生き物のように化粧直しをしていくこの光景は、日々を送る中で私が管理者たり得ていると言ってくれているかのよう。大変に喜ばしく感じます。


 この大陸は聞いた所によると、日本と似たような気候をお持ちとのこと。

 ならばこの後しばらくすれば、素敵な素敵な豊穣の期間、雨季もやってきてくれるはず。

 まさに、森にとって、そして私にとっても行く先明るい管理者ライフが送れることは必然です。


「そうは思いませんか? ノーデさん!」


「は! 流石はココナ様に存じますれば!」


『いや、まずは落ち着いて対策を練らぬか馬鹿者』


 おぅ、やっぱり?

 私の演説に感動してくれてるノーデさんは良かったのですが、ゴンさんはどうやらごまかされてはくれなかったご様子。


 今私達は、世間樹前のゴンさん洞窟にて集合しています。

 ピット国から帰省してから、どのくらい経ったでしょう? 管理者家業を再開させながらも私達は、ノーデさんが森に馴染めるように普通の生活を送っておりました。

 そもノーデさんは従者気質が強い方。私やゴンさんの手伝いをしたいと励み、ピット国で培ったサバイバルチックな技術を用いて大層な貢献をしてくれていましたとも。


 そんなある日。ゴンさんが私たち2人にこう言ってきたのです。『もうすぐ雨季だが、チビ助はずっと我の洞窟にいるつもりか?』、と。

 盲点でした。

 そうです。ノーデさんはこれまで、ゴンさんと一緒の洞窟にて生活を送っていました。

 しかし、恵の季節となるとそうはいかないでしょう。季節に見合わず気温は下がり、湿気が人体にストレスを与えるのは必然……そう、心和の持つ現代知識で思い出したのです。


 え? そもそも人間がずっと洞窟暮らしとか可哀想?

 バッカオメ、ゴンさんと四六時中一緒にいられるモフモフ素敵空間ぞ? さらにそこにショタが投入されるんですよ? 寝るときとかもっふもふなんですよきっとおそらく多分メイビー。

 そんなん桃源郷以外の何物でもないじゃないですか! 私だって何度となく世間樹を伐採して洞窟に移住しようかと思い立ちましたよ! でもその度に2人が全力で止めにくるんですよちくしょう!


 ……話、それましたね。すみません。

 とにかく、私とノーデさんの2人は、雨季対策のノーデさんハウスを作ることをガッツリ失念していたのでありました。

 これには、ゴンさんも憐れみと嘲笑をもって私を見つめてくれましたとも。ごちそうさまです。


『で、その馬鹿を誤魔化すために大層な演説を並び立てたはいいが……事実、どうするのだ。雨季の洞窟内は湿気と寒さが強い。フィルボがいられるような環境ではなくなるぞ』


「うぅん、そうですねぇ。ちなみにゴンさんはそれ大丈夫なので?」


『我は氷の洞窟であろうと問題なく生きていける故、雨季程度どうということはない』


「流石は守護者様! であればこのノーデも守護者様を見習い、精神一到の極意で雨季を耐え抜いて……」


『愚かを通り越すなよチビ助。今の貴様は我らが民も同然。民をないがしろにのうのう生きる君主など、暴君以下の飾り物でしかないと知れ』


 今夜抱かれに行こう。

 いやいや違う。ゴンさんの言う通りですね!

 ノーデさんは私たちの身の回りをしっかりお世話してくれています。お茶を用意してくれたり、お茶を準備してくれたり、お茶を持ってきてくれたり大活躍です。

 そんなノーデさんにお礼の意味を込めて、素敵なお家を作ってあげるのはとってもハッピーな事ではないでしょうか?

 うん、そんな気がしてきました。早速そうしましょう。


「ふふう、お任せくださいゴンさん。その役目、この光中心和にお任せあれですよー!」


『……………………』


 おや? なんでそんな苦虫を噛み潰したような表情を浮かべておられるので?

 まるで、歯磨き粉を取ってと頼んだのに台所洗剤を持ってこられた御仁のごとき噛み潰しっぷり。私、そんなにおかしいこと言いました?


『……ちんくしゃ。貴様、どうやって家を準備するつもりだ?』


「えぇ? それはもう、魔力を種に込めてぎゅぎゅ~っと一発」


『たわけ』


 ふおおお!? ツッコミとは名ばかりのベアクローが頬スレスレををを!?


『樹を生やしてどうする。チビ助はドライアドではないのだぞ?』


「ふむぅ……樹の中に入る術を身に着ければあるいは……!」


『チビ助。ちんくしゃの全ての期待に応えようとするなと再三言っておろう。できたとしても雨季が5回は過ぎたころだ馬鹿者』


「う、うぅん。とはいえ、私は家を作る知識なんてないですよ? ピット国のあれは、元々あった保育園が木造で、その構造を弄っただけですし~」


 地盤がどうだとか、そういうのは聞いたことあるんですけどね?

 一から家を作るとなると、私の職分じゃないですねぇ。


『うむ、貴様にそれは期待していない』


「はうっ!」


『だが、貴様の力と知識は当てにしている。指示を出してやる故、根を詰めて働けちんくしゃ』


 お、おぉっ。

 ゴンさんが私に指示を出してくれるなんて、滅多にあることではありません!

 実質共同作業。実質ケッコンと同義なのでは?

 違う? そんなー。

 ですがまぁそれはよし。働けと言われたからには働きましょうとも!


「あ、あのぅ、今更なのですが、私そんなに本格的な物でなくても……」


『ほほう、我に手抜きをしろと』


「い、いえいえそんな!?」


『ならば黙って見ているがいい。貴様の信仰する者の仕事をな』


 うん、今夜夜這いをかけよう。





     ◆  ◆  ◆





「……で、家を建てたわけですが……」


「あ、あわわわわ……」


『うむ、上出来だな』


 あれから、一週間。

 夜も寝ないで昼寝して、私たちはついにやり遂げました。 夜這いは事あるごとに撃墜されました。

 そんな私たちの目の前には、それはそれは見事な日本家屋が……


「なんで日本家屋?」


『貴様が描いた絵の中で一番しっくりきた』


 そう、日本家屋です。

 しかも、デノンさんの御城に勝るとも劣らぬお屋敷です。一階建てですけど。

 そもそもの発端は、私が心和の知識から引用して沢山の家をデザインしていったところから始まりました。

 やれテントからはじまり、やれ西洋御城、やれサザ〇さんハウス。それら沢山の絵の中からゴンさんが目を付けたのが、瓦張りの日本家屋でした。


『貴様の稚拙な絵でも、その機能性は十分理解したからな。雨が入り込まぬ配慮がなされた屋根、通気性を重視し湿気を逃がす造り、あえて地から家全体を離して建てる構造……春夏秋冬に対応する必要がある現状、最も優れた機能が詰まっていた』


「いや、それはわかりますけど~」


「あわわわわ……」


 それにしたってこの熊さん、絵を見てから二日で設計図を組んで、五日で組み立てやがりましたよ。

 いや、もちろん木材等は私が準備しましたよ? 樹を生やして、木材として水分を抜いてもらって、望むパーツの形になってもらうという工具いらずの工程でした。

 でも、パーツの形とかを事細かく設計、指示してたのはゴンさんです。

 洞窟と世間樹から、丁度三角で結ばれるような場所の地盤を全力で踏み固め、切り出した石を敷き、木材をプラモデルみたいに組み立てていくんですもの。見ていてぽかんとしちゃいました。

 木材と木材を繋げるのは、私がお願いしたらそれぞれが密着してくれたので、倒壊の心配もないと思います。


 さらにゴンさんは、粘土調達の後に火魔法を使って瓦まで焼く始末。

 瓦の表面がテカテカしてるじゃないですか。あれってガラス成分が入った釉薬ゆうやくっていうのをつけて焼くからああいう風になるんだそうです。

 何で知ってるんですか? って聞いたら、『茶器や陶磁器を作る際にも似たようなことをする。知るだけならば嗜みだ』とか言ってました。

 流石は熊界きってのお茶好き男子、茶器に関する知識もあられるようで。でも、普通それを応用して瓦作ろうなんて思いませんって。


 あ、もちろん中は畳張りですよ。そこは私にお任せあれ。

 ちょちょいとい草を生やして自分たちであみあみしてもらいましたとも。こういう形になって~ってお願いしたら完璧な仕上がりです。

 まぁ、所々やっぱり日本のそれとは違いますがね~。瓦の形状や組み立て方はゴンさんオリジナルですし、フィルボが過ごしやすいようピット国の文化も取り入れてますし。けどおおむね、見た目と機能だけならほぼ日本家屋ですね~。


『と、いう訳だチビ助。好きに使え』


「む、無理でございます! 恐れ多くございますよぉ!」


 あはは、まぁノーデさんの気持ちもわからなくはありません。

 この家、広さでいったらデノンさんの御屋敷と互角かそれ以上ですからね。階層があるぶん、あちらの方が規模は大きいですけど。

 しかし、フィルボにとってはお城と同等に近いお屋敷です。それはもう、委縮しちゃうってもんですよ。

 ゴンさん、これはやりすぎてしまいましたなぁ?


『ふん、そういうと思ったわ。安心せよ』


「ふぇ?」


 そんな私の苦笑いをよそに、ゴンさんはにやりとノーデさんの困惑を一蹴します。

 いったい、どんな思惑があるというのでしょう……?


『ここには、我も住まう事にした。貴様は、我の身の回りを世話するために間借りせよ』


「お、おぉ、そういうことでございましたか!」


 なんですって……。

 このお屋敷に……ゴンさんとノーデさんが、一つ屋根の下……!?

 サンクチュアリが洞窟から御屋敷にシフトチェンジ!?


「はい! はい! ゴンさん、私も! 私も住みます!」


『貴様は世間樹があろう』


「たまに入れば魔力も問題ないんですきっと! だからここに住みます!」


『駄目だ。チビ助の負担になる』


「いえ、そんなことは……」


『世間樹はこやつが生やしたのだ。最後まで責任もって面倒を見てもらわねばならん。放置したせいでエント化して暴れたりした日には目も当てられんぞ』


 うぅぐぐぐぐぐ~!

 そんなのって、そんなのってないよぉぉ……!

 畳に寝そべる熊さんと、それにつつまれる少年の戯れが見れないなんて!


「あ、あの、ココナ様? 別に入ってはいけないわけではありませんでしょうし、寝床が違うというだけですから……」


「ぐす……本当? 入ってもいい?」


「え、えぇ! ですよね。守護者様」


『…………』


 ゴンさんはジトっと私を見た後、ため息をついて口を開きます。


『まぁ、貴様も手伝ったのだから、当然入る権利はある。世間樹が貴様の寝床だが、何も年中そこに居ろとは言わん。……普通に屋敷の中でくつろぐ分には構わんだろう』


「天使かな?」


『口を縫い合わすぞ』


 おぉぉ、天にも昇る気持ちとはまさにこのこと!

 こうして、私の憩いの場がまた一つ、増えたのでありました。

 よ~し、お姉さん日本家屋に合う緑茶作っちゃうぞ~!

 

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