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ドライアドさんのお茶ポーション  作者: べべ
第二章:「ドライアドさんとショタにポーション」
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第16話:道中キャワワ(クマさん視点)

どもどもべべでございます!

ようやくTRPGイベントも落ち着き、後は発表会を残すのみ!

まだまだ執筆は遅いままだけど、頑張るぞー!

というわけでご投稿。どうぞ、お楽しみあれ~

 

 人間の国へ向けて歩を進めていく事、はや数日。

 最初に感じた湿気の強さが身を結んだのか……やはりというかなんというか、いよいよ雨が降ってきた。

 降るまではじっとりとした嫌な湿気をはらんでいた空気だったが、こうして降り始めてしまえば森全体の気配は儚げなものに変わっていく。


 雨脚はさほど強くない。しかし、粒のひとつひとつが細かい雨足だ。

 霧の寸前とも呼べる状況となり、視界は奪われていく……なれど、森にとってはまさに最高級の茶を嗜むような時間だと思えるが故に、悪態の1つもつけないのがもどかしい。

 ぬかるみ始めた地に足をつけ、踏みしめていく。ぬるりと足に絡みつく土はその形を我の足型に変え、周囲にその威厳を示すしるべとなった。


 雨がうっとおしい。そう内心で思いつつ、我ことべアルゴンは歩を進める。

 伝説の霊獣と呼べるまでに成長、進化した肉体を持つ我が身なれど、毛を濡らし張り付かせる雨には理不尽な怒りを覚えてしまうものだ。もはや病など寄せ付けぬ境地にまでに至ったとはいえ、気分の良いものではないのである。


「ん~ふふふ~、あっめあっめふっれふっれマイマザァ~♪」


 その上、能天気極まる鼻歌なんぞを延々と聞かされれば、自然とこめかみがひくついてしまうのもやむなしと言えるだろう。

 我の眼の前をふよふよと浮かんでいる、蜜の匂いを漂わせた草木の体を持つ娘。名を心和というが、そんな大層な名前では呼んでやらんと改めて心に誓う。こやつはやはりちんくしゃで充分だ。

 まったく、我らが濡れそぼっているにも関わらず、なんという縁起でもない歌を口ずさんでおるのだ!


「ははは、恵みの雨とはよく言ったものですな。ココナ様もすっかりご機嫌で」


『空気は読めておらぬがな……』


 我の隣を歩くチビ助もまた、雨具を着込んで歩いておる。

 先日、ちんくしゃめが拾って来たフィルボの若者。コヤツの持ってきた茶葉が原因で、ちんくしゃは森の外へ行きたいなどと言い出したのだ。

 まぁ茶は美味かった故、その失態は許そう。それに、あの茶が育つ土壌が失われるというのも捨て置くには惜しいからな。


 チビ助は、小さな歩幅をカバーするようにペースを早めて歩いておる。我に合わさせるのではなく、自分が早めれば良いという精神は評価に値しよう。下々には必要な心意気だ。

 だが、だからといって無理をしている様子はない。やはりそこそこに鍛えてはいるようだ。


「ははは、まぁこの雨は彼女たちには大変心地よいものでしょうからなぁ。致し方ありますまい」


『阿呆丸出しだが、まぁこのくらいの方があれらしくはある。それ認めよう』


 この森に根をおろして、もう百を超える時が過ぎた。

 あのオベロンめに借りを作ってしまったが故に、我はこの森を守護することになった。まぁこの森をどうこうするなど、我程の実力がなければ不可能だというのはわかる。

 だからこそ、我もそれを受け入れて今に至るのだ。


 増えすぎた魔物の討伐。病と断定した樹の対処……森を根城にし始めた人間の駆除も忘れずに行ったとも。

 我は、この森を変わらず【維持】し続けたのだ。いつかくるであろう、妖精界からの管理者のために。

 しかし……そんな我の苦労をあざ笑うかのように寄越されたのが、あれだ。


 人間の魂と混ざり合い、異常なまでの魔力量を誇るドライアド。現界早々にあっさりと死にかけるという離れ業をやってのける、目の離せぬ小娘だ。

 魔力の量は認めよう。しかし、覚醒したてで知恵も乏しく、魔力の扱いもおぼつかない赤子を送ってきたオベロンを、一発ぶん殴ってやりたいと思う我の気持ちは万人に理解されても良いと思う。


 その上、あやつの力は変な所が振り切れており、人間の偏った知識のせいで暴発する事が多いのだからたまらない。

 まぁ、その恩恵にあやかって我も傷を癒やした故、全てが悪いと言うわけではないのだが……。いや、むしろよくやったと言ってやらんでもないのだが……。

 だが、それ以上にハチャメチャな所が多すぎるのだ!

 なんなのだあの有りえぬ魔力を保有した樹木は! なんなのだあの毒抜き草は!

 この世界にはないものばかりを、思いつきのみでポンポン生み出しおって! 後々オベロンになんと言われるかわかっておるのか!?


「はぅあ!? 殺気! 殺気です!?」


『気のせいだ』


「私? 木の精です?」


『良いから前へ進め。貴様が前にいた方が植物がストレスにならん』


「あはは……」


 こやつには、帰ってからもまだまだ叩き込まねばならんことが沢山ある。

 まずは力の使い方だな……我の百本鉄拳をもう1度叩き込んでやらねば。いや、その前に常識を教えねばならんか?

 ……なんなのだ……我、子もなしておらんのに、なぜ育成に励んでいるみたいになっておるのだ?


「ふふ……」


『……なんだチビ助』


「いえいえ、なにやら楽しそうな様子だったので」


 ……楽しい?

 楽しいとはどういう事だ。

 我は今、憂いに憂いておったぞ?


『貴様、我を馬鹿にしておるのか?』


「い、いえ、とんでもない! ……ただ、ココナ様を見る守護者様のお顔が、とてもワクワクしてらっしゃったようなので」


『それがわからぬ。我はあやつに振り回されている事実に憂いておったのだが?』


「はい? ……ん~、なるほど」


 我の言葉を聞いたチビ助は、なにかを考え込み始めた。

 小さき見た目故に、その仕草は中々に様になっている。ちんくしゃあたりがこれを見たら悶えそうな気がするな。

 本人ばかりが納得しているようで気に入らん。一体なんだというのだ。


「守護者様。失礼を承知で問いますが、お子様は?」


『生まれてこの方、出来たことはない』


「なるほどぉ……では、伴侶は?」


『我を奪い合う雌はいたが……鬼気迫った様子が只ならぬ様子だった故な。我のほうから遠ざかった。故におらぬ』


「ふむむ……どちらか悩ましい感情ですな」


『自分のみがしたり顔をしているなよチビ助。何かを悟っているならば疾く伝えよ』


 急かす我に対し、コヤツは動じることなく首を横に振る。

 それが一種の余裕に感じられるのは、我が焦っているから……か? 否、それはないと思いたい。


「申し訳有りません。守護者様が現在抱えております感情は、私の言葉で左右すべきではないと存じます。心とは移ろいやすいもの。急いて名を定めてしまえば、お二人の関係を崩してしまいかねません」


『むむ……もっともらしい事を言う』


 だがしかし、その言は的確なのだろう。


『……良い、沈黙を許す』


「ありがとう存じます」


 正直、ホッとしたぞ。

 我が胸の内がどうなっておるかなど、言われて納得できうるはずもなし。

 今はまだこれで良いのかもしれぬ。そう思ってしまっている内は、このままでいようではないか。


「……ちなみにですが……ココナ様が守護者様の元を離れる、と申された場合、いかがなさいます?」


『む?』


 あやつがか?

 想像はしにくいな。我を求めて泣き叫ぶ事はあったが、出てけや出てくといった言葉を聞いたことは無い故に。

 ……むぅ、せいせいするとは思うのだがな。しかし……


『あれはまだ世に出して良いものではない。あれの言に惑わされぬよう、時期を見て我が決めることとする』


「なるほど。……ちなみに、もし私共ピット国一同が、是非にあの御方に国の繁栄を象徴する存在になって欲しいと願った場合は?」


『それも、先と答えは変わらぬ。……というか、貴様はあれが欲しいのか?』


「命の恩人であり、国の為にこうして行動してくれている。まさに理想の女神と言えましょう」


 うぅむ、あやつが女神とは……まったく理想にそぐわぬぞ?

 しかし、なんだな……こうまっすぐだと、こちらがむず痒くなる。

 ちんくしゃが、これから向かう国にいつくようになる、か……。


『やめた方がよいぞ?』


「ほう?」


『あれはそうだな、何をするかわからんのだ。貴様らでは止められぬであろう』


「ふふ、そうですか」


『そうだ。それに、時々臭うのだ。甘ったるくて敵わん時がある』


「……あの、守護者様?」


『いたら基本うるさいし、いないならいないで何かしでかしていないかと不安になる。それに、人間を模した見た目とはいえ、あんなにも凹凸のない見た目では目の保養にもならん……のだろう? 昔山賊がそんな事を言っているのを耳にしたことがある』


「守護者様、それ以上は……」


『つまり、あれはこのまま森の中にいた方が貴様らのためと言うことだ。我が管理しておく故、余計な事を考えぬよう……』


 そこまで言って、我は気づいた。

 ちんくしゃが、後ろを振り返って我を見ている。

 その頬はポイズンフロッグのごとく膨らんでおり、目元には涙……というか蜜か? とにかく体液が滲んでいた。

 ……我、念話が漏れていたか?


「ゴンさん……」


『う、うむ?』


「女の子の匂いとか、凹凸とか、そういうのは言っちゃダメだと思います」


 ぬ、ぬぅ、なんだこの威圧感は。

 取るに足らん会話ではないか。なぜこんなにもちんくしゃは怒っているのだ?


「……さいてーですっ」


『ごふぅ!?』


 そっぽを向いて先に進んでいくちんくしゃ。

 あやつの放った一言は、存外にも我の脳裏に刻み込まれてしまった。

 足元がふらつくではないか……なるほど、言葉とは時として凶器になるのだな。


「はぁ……先が思いやられますねぇ」


 ……チビ助のやれやれといった態度が、妙にムカつく今日このごろであった。

 

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