第92話:フルーツティー
どもどもべべでございます!
レビューをいただいてしまいました! 素敵! 最高!
なのでテンション上がって書いてしまいました。どうぞお楽しみあれー!
うぅん、この天然の甘みを溶かしたような、それでいてスッキリした後味を鼻で感じさせる香り。
先ほどまでの、紅茶の香りが満ちた落ち着いた空間とは、また違った雰囲気に部屋が切り替わります。
ゴンさんも鼻をひくつかせて待ちわびている様子。我慢できないのか、気まぐれにお菓子に手を出してもっぎゅもっぎゅと咀嚼してございます。
『……口の水分が持って行かれたのだが?』
「スコーンですからね~。ジャム塗るなり、お茶と一緒にいただくなりしませんとね~」
『だが、チビ助が作ったのはもっとしっとりしておったぞ』
「そこはそれ、ノーデさんの家事スキルが異常なだけですよ~」
ケーキやクッキーはともかくとして、スコーンだけは間違いなく、我が家で出てくるものの方が美味しいですね。
ノーデさん、私達に不快感を与えるような点は徹底的に排除しようとしますからね~。人間関係とか以外。
「フルーツティーってぇと、森で採れる木の実を使ってるんだろ? ウナルの実とか使ってるのか?」
「いえ、ウナルは生で食べたら果汁が甘くて美味しいのですが、乾燥させると渋みが出て舌が麻痺するんですよね。なので、アノベリーを使っています」
「なるほどな~」
ふむふむ、アノベリーですか。
心和の知識で比較して、苺に似た果物ですね。まぁ時期的に早い気がしますし、野イチゴ系かしら。つまり、今回楽しめるのはストロベリーティーに近いって事になります。
思わずうっひょう! ってなりますね。知識でしかわからないストロベリーティーを楽しめるなんて、えーちゃんをここに呼んで本当に良かったですよ~!
「皆さま、お待たせして申し訳ございません。果実を使ったお茶は初めてでしたので、勉強させていただいておりました」
ゴンさんがスコーンを一皿平らげた所で、ノーデさんとメイドさん達が入室してきました。途端に香りが強くなりましたね!
「フルーツティー、フルーツティー♪」
「ほんとに甘い匂いだなぁ。これデザート感覚で最後にした方が良かったんじゃねぇ?」
「いや、この香りは……香草も一緒に入ってるんじゃないですかね? だとしたら、一概にそうとは言えないな」
「あぁ、匂いだけ甘くて、苦い可能性もあんのな」
キースさんとグラハムさんのお言葉に、私は胸をときめかせます。
フルーツティーには、ドライフルーツとフレッシュフルーツを使った2種類が存在すると、心和の知識が語っているのです。
グラハムさんが言ったみたいに、もしもハーブ系と一緒に淹れているのだとしたら、あれはドライフルーツを使ったお茶だという事なのでしょう。そうなると、フィルボのヤテン茶とはまた違った甘みと渋みと苦みのコントラストを楽しめるのかもしれません。
『チビ助、淹れ方は覚えたか?』
「は、記憶してございます」
『よい。ならば我を待たせた不敬は許そう。後日我が家でも楽しみたい』
「感謝の極みにございますれば」
そうしてる内に、メイドさん達がテキパキとお茶を全員に配っていきます。
さっそく、透明なガラスのティーポットを使っておりますね! ハーブと一緒に赤い果物が浮いているのは、色鮮やかでなんとも華やかです。
ふむふむ、色合いは薄いんですね。アノベリーの色がもっと出ると思ってたんですが。
「あぁ、近くで嗅ぐとより一層、広がりますねぇ~」
『うむ、果実特有の甘みと酸味を感じさせつつ、爽やかに鼻を抜けて行く香草の香りが絶妙だ』
単純に果物の味を楽しみたいのであれば、フレッシュフルーツを使えばいいのでしょう。
しかし、エルフさん達もここまで遠征してきますからね。保存性を優先して、ドライフルーツを作ったのでしょう。私としても、成分がより抽出されてる方が好みだったりします~。
「んでは、一口……」
香りを堪能した後、ようやく一口……。
「んん~ぅ♪ すんごく美味しいわぁ」
「へぇ、甘みに重点を置いてるんだな」
「デノン王を含め、甘いのが好みである人物が多いかと思いまして。もちろん、加工の仕方によって甘みを抑えた物も用意していますよ?」
「いや、俺はこれのくらいが好きかね」
「私もよ。おうちでも作ってみようかしら?」
本当、素敵なお味です。
ベリーの甘酸っぱさを引き出しつつ、ハーブの爽やかさで甘みのくどさを消してるんですね。
どちらかというと、クラッカーのような塩気のあるお菓子と一緒に食べると美味しい感じがします。というか、既にキースさんとサエナさんがクラッカーをおつまみにして楽しんでますね!
『ふむ、ふむ……なるほどな』
ゴンさんもまた、何度か頷いてはまた一口飲み、鼻で大きく息を吐いています。香りを反芻してるんでしょうね。
確かに……これは、反芻せざるを得ない美味しさですとも。
一口飲み、体に染み渡る甘みを堪能しているだけで、この体が違う何かに切り替わっていくような気分になります。
『エルフよ、褒めてやろう。この茶には貴様を認めるだけの価値がある』
「……あら、意外ですこと。貴方からそう言ってくれるんですのね」
『我は茶に関してウソはつかん』
おぉ……!
ゴンさんが、ゴンさんがデレた!?
しかも、私以外の女の人に……悔しい……! でもねーちゃんと仲良くなれそうで嬉しいこのもどかしさ!
あぁん、帰ったら襲う。絶対既成事実作ってやる!
『良い茶を味わったからには、何か貴様とも会話をしてやらんでもないという気にさせられるな。我のほうから歩み寄ってやろうではないか』
「はぁ、どこまでも傲慢な物言いですこと」
「ネグノッテ女王」
「……わかっておりますよ、デノン王」
ねーちゃんは、ため息をひとつついてゴンさんに向き合います。
その顔は、一人の王としての顔よりも、個人としてゴンさんに向き合っているように見えます。
「では、おひとつ聞いてもよろしいでしょうか?」
『構わん、許す』
ゴンさんはお茶を飲みながら、深く頷きます。こうしてねーちゃんと会話してるだけでも凄い事なんでしょうし、ご機嫌なんでしょうね。
そんなゴンさんに対して、ねーちゃんは少しだけ息を吸って、声を発しました。
「貴方は管理者さんを利用して、魔獣を増やしたり、森の環境を書き換えていますよね。……何を企んでいるんですか?」
『…………』
……ん?
なんて?