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マンボウ兄貴とわし(16)
(跳ねる音)
夏というものはいつも儚くて、必死に私達に存在を訴えようと、熱とどこか懐かしさを感じさせる香りをもって僕の心を引き摺って止まないこともない。
夏固有の情景と想像したらまず入道雲が浮かぶ人は少なくないだろう、僕もそうだ、いや少ない。
そして夏といったら海水浴は外せない。
しかし僕は泳げない。
そこで海の対義語的な存在として山がある訳で、海へ行こうという校友を背にひとり、都心から小一時間列車に揺られ長閑な町へと向かう。
瓦屋根の駅に到着し改札を通り、眼前にそびえる山へ足を伸ばす。
道路もそこまで広くなく、車通りも疎らである。
山へは数分で到着した。もっとも、駅が山間部に位置するのもある。
日常で運動をすることがまずない僕にとって、夏の山登りは心を鍛えることが出来る貴重な体験だ。
そう、ここは海と違う。
そう、溺れることもない。
そう、清らかな水が流れている。
そう、海の生き物もいない。
そう、マンボウが遊んでーー
マンボウ!?
マンボウ「ここの水、塩気ねぇな」