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サバトラ族の娘 暁のアイーシャ1

 リコを最後として、屍姫全員が城へと招かれたという情報は塔の誰もが知るところとなった。

 問題はその城の中でどのようなことがあったのか、屍の神とどのような話をしたのか。

 お互いがお互いを探ろうとする中、ちょうど良い頃合いにフィズが全ての屍姫を茶会に招待した。欠席する者はもう誰もおらず、フィズの塔で五人の屍姫が集まった。


「よく私を招いたものね、フィズ・リーネルト」

「すみません、ご不快だったでしょうか……?」


 美しくも横柄に座り、冷たい視線を向けるスーディアに、フィズは少し身を縮こませて伺う。するとスーディアは腕を組んで、ふいと顔を逸らせた。もちろんそれは可愛げのある照れなどではなく、単純にフィズに興味がないと、周囲に視線を向けるだけの行為だった。


「いいえ。ちょうど屍の神との逢瀬について話したかったところよ。でも私、あなたをお茶会に招いてもいないし、私と話したがる人間がお人好しの妖精姫とリコ以外にいるとは思わなかったわ」

「その、リコのお茶会でお話させていただきましたし、せっかくですから屍姫全員をと思いまして……」

「ようは私をのけ者にするのも気が引けたんでしょう? 死んでから、それもこんな死の国で余計な気を回すのね。馬鹿みたい」


 ひゅっと、その場が一瞬で凍る。

 身分の格差や屍の神の動向を気にするわりに、スーディアは変なところでさっぱりとしている。……これをさっぱりと表現してもよいのなら。

 自分の邪魔になるのであれば激しく牙を剥くし、それが身分の低い者であるなら尚更。リコへの態度がいい例だ。

 だが、必要以上には関わろうとしない。愛想も振り撒かなければ相手にもそれを要求しない。むしろ他人など煩わしく、自分一人の力と意志で進んでいく。そんな性分なのだろう。

 リコは、数度の交流を経てスーディアの人となりが段々とわかってきたように思えた。

 悪く言えば我が侭で協調性のない、冷たい人間。しかし、それだけで済ませるには心の奥に何かが引っ掛かる気がした。


「他の屍姫を呼んでおいて身分の高いあなただけを呼ばなければ、後でどやされると思ったんでしょ。平民としてはいい心がけじゃない」


 だがアイーシャはその性分が素直に気に入らないらしい。呆れるような口調でフィズの擁護に回る。


「フン。二度と会わなければいい話でしょう。少なくとも私は何もなければ、会う気はしなかったわ」

「ふぅん。リコの時は随分と乗り気だったみたいなのにね? あたしはよっぽど、あの子のお茶会の方が利がなさそうにと思えたけど」

「でも結局得るものはあったじゃない。自分のところの名産品を、一介の平民に上手く使ってもらってよかったわね?」


 凍ったままの場に、スーディアとアイーシャの火花が飛び散る。残念なことに、どれほど二人の口喧嘩がヒートアップしようとも場は温まらなかった。


「それより、こんな無駄話で茶会を終わらせてもいいのかしら? 私はそんなに暇じゃないのだけれど」

「……滅多に表に出てこなかったあなたがこの場に来た理由はそれね」

「どうせ全員がそうなのでしょう。気取ってないで話したらいいじゃない」


 態度として気取っているのはスーディアだったが、本音のみで話しているのもまたスーディアだけだった。スーディアの言う通り、表にはっきり出さずとも、全員が神とどう過ごしたのか知りたがっている。リコですら気になっているのだから。


「……あたしは玉座の間で今までの生活と南の大陸の現状についてご報告申し上げた後、晩餐の間で食事を共にさせていただいたわ。楽しい時間を過ごさせていただいたわよ」

「私もです。ただ、想像通り言葉の少ない方で、あまりお話は……。お食事の時には儀式についても伺ってみたんですけど、まだ候補は決めていないとしかお答えくださいませんでした」


 フィズは少し残念そうに息を落とした。食事を共にできることになり、言葉も沢山交わせると期待したのだろう。だが行ってみれば当たり障りのない会話と本当に食事だけ。

 アイーシャも「あたしと同じね」と返して、カップを口に運ぶ。


「あの……わたくし皆さんにお聞きしたいのですが。お食事の際は仮面を外されていらっしゃいましたか? わたくしの時は少し持ち上げただけで、口元しか拝見できなかったものですから」


 それまでテーブルの下に手を引っ込ませ、そわそわとしていたシルフィーは、四人の顔をぐるりと見回して訊ねた。誰かの前では外したのではないか、ずっと気になっていたのだろう。

 リコと会った時は素顔であったし、食事もしていないため気にしていなかったが、言われてみればあの仮面を被ったまま食事をするのは大変だ。

 シルフィーの問いに、フィズとアイーシャの表情が曇る。


「いいえ。あたしの時も仮面は外してくださらなかったわ。……何か仮面の下に隠してらっしゃるのかしら」

「でも、口元はお綺麗でしたよね。大切な方にだけ素顔を見せてくださる、とかでしょうか」

「リコ様はいかがでしたか?」


 シルフィーに話を振られて、リコは少し口ごもる。素顔を見たことは言ってはいけないし、リコは食事自体共にしていないのだから。


「あの、私は……私は、お茶をご一緒させていただいただけ、なので」


 リコが静かに答えると、憐みの表情が一斉に向けられた。特に、アイーシャとスーディアの可哀そうなものを見るような目が辛い。

 紅茶を飲むにしても仮面は邪魔になるはずで、答えになっていないのだが、皆それを追及することは忘れてしまったらしい。


「あなた……相手にされてないのね」

(やっぱり、そういうこと……なのかな)


 アイーシャの同情を含んだ言葉がリコの心に突き刺さる。

 仮面だって素顔をたまたま見てしまったから、あの場でも外してくれただけ。結局はそれだけなのだ。

 特別な感情を抱くほどの仲ではないのに、はっきりとそう言葉にされて、リコの気分は沈んでしまった。誰しも、知っている人間に嫌われればそうなるだろう。リコは思う。

 一方のスーディアは、同情なんてしてくれないようだった。

 ふっと笑い、リコの話題などなかったように、屍姫たちに堂々と言ってのける。


「じゃあ、私だけが二人きりで会えたというわけね」

「何ですって!?」


 叫ばれる言葉と揺れるテーブル。いつか見た光景だ。スーディアは本当にアイーシャの機嫌を逆撫でするのが上手いらしい。

 もっとも、リコも神と二人きりで会っているのだが。今の沈んだ感情で考えると意味があったとも思えないし、この事もビブルに言うなと止められている。

 リコは口を噤み、ただスーディアの話を聞いた。


「私も玉座の間でお話と、晩餐をご一緒させていただいたけれど。玉座の間では人払いをしてもらって、二人きりでお話したの」

「まあ……一体何をお話されたのですか、スーディア様」

「二人きりということは、御霊還りの儀についても、何か……?」

「それは二人きりの秘密だもの。さすがに言えないわ」


 まるで内密にすべきやりとりがあったような言動に、フィズとシルフィーが色めき立つ。その相手が自分でなかったことは残念だが、同じくらいの羨ましさと興味があった。

 リコも、心のどこかで悔しさが浮かんだのだろうか。それとも確認したかったのだろうか。ふとある質問を口にしていた。


「あの。スーディア様はそこで屍の神の素顔を見られたんですか?」


 瞬間、スーディアの顔が苦々しいものに変わる。


「……いいえ。いつもの屍の神だったわ。どのような時でも素顔はお隠しになるようね」


 素顔だけは、スーディアにも見せていなかったようだ。リコは何故かほっとしてしまった。

 アイーシャもその反応に気をよくしてふっと鼻で笑う。


「どうせ押し掛けたことを注意でもされたんでしょ」

「な、なに言ってるの、失礼ね」


 ひくりと口角が揺れるスーディア。アイーシャはそれを見逃さず、「図星ね」と更に煽ると、今度はスーディアがテーブルを叩いて席から立ち上がった。


「~~っ! 気分が悪いわ! 話すことも聞くことももうないし、私はここで帰らせてもらいます」

「あ、スーディア様……」


 主催のフィズが弱々しく呼ぶが、スーディアは振り返ることなく、側仕えを連れて部屋を出て行った。フィズは諦めて、せめてもとルディにスーディアを見送るよう命じる。

 すっかり静かになった部屋でフィズは困ったように扉を見つめて、シルフィーとリコの二人はどうしようかと顔を見合わせる。


「放っときましょう、あんな人」


 アイーシャは紅茶の香りをすうっと吸い、カップを優雅に傾けた。




 いざこざには触れないように残された四人で茶会を済ませ、皆それぞれに帰路に着く。リコも馬車の上でガタガタと揺られていた。

 何気なく後ろを振り向けば、フィズの塔がゆっくりと遠くなっていく。それでも高い塔はいまだに視界から消えない。

 リコはふうと息を落とした。

 羨ましいわけじゃない。あの塔に住みたいわけでも、貴族や資産家の令嬢になりたいわけでもない。ただ、格差を改めて思い知らされただけだ。


「何で屍の神は、私とだけ食事を取らなかったんだろうね」

「え……?」


 リコとはお茶しかしてくれない。その事実は招待状をもらった時からわかっていたが、素顔であったことと二人きりで話せたことだけで少し救われた気になっていた。

 しかし、それすらも特別ではなかったのだ。いや、特別でありたいわけではないのだが。

 ……ないのだろうが、心がどこかもやもやとして、ぽろりと言葉がこぼれてしまった。


「そ、それは、その……な、何で、でしょうか……」

「……ごめん。嫌な質問したね。自分でもわかってるのに」

「いえ、そんなことは思っていませんが……!」


 ウゴルは眉を曇らせてリコを見つめる。ロバは真っすぐ走っており、舗装された道も真っすぐ伸びている。しっかりと手綱を握っていれば、大事な主人の様子を窺うくらいの余裕はあった。


「リコ様。リコ様はやはり、屍の神のことを好いていらっしゃるのですか」

「いや、うーん……好いている、つもりはないけど。悪い人ではないってわかったけど、会ったのだってまだ三回だし……」

「……それでもやはり、リコ様は神の言動に一喜一憂なされるのですね」


 小さな呟きは、車輪の音でかき消される。

 できることなら自分が慰めたいと願い、ウゴルは一生懸命に言葉を掛けるが、リコの表情は変わらなかった。

 都合が合わなかったのかもしれない。他の方の目を気にしているだけで、リコのこともきちんと気に掛けているはずだ。それから……。

 そんな必死に紡ぐ言葉でさえ、今にも尽きようとしている。


「そうだ!」


 ウゴルははっと声をあげると、手綱をぐっと引き、ロバの進路方向を変更した。


「まだ帰るにも早い時間ですから、町に遊びに行きましょう!」

「ウゴルくん……」


 屍姫の塔でも神の城でもない、平穏で賑やかな場所。難しいことなど何も考えずにふらりと歩けるし、無垢な子供たちに混じって体を動かすのもいい気晴らしになるだろう。ウゴルなりの最良の考えだ。

 張り切ったウゴルのおかげか、馬車はいつもより数十分も早く町へと着いた。二人は馬車を預けると、町の中を歩きだす。


「あ、屍姫様ー!」

「違うよ、リコ様だよ」

「そうだった!」


 噴水前の広場には相変わらず元気な子供たちが集まっていた。リコとウゴルを見つけると、ぱっと笑顔を咲かせる。

 二人はその集団に歩み寄り、彼らの視線に合わせるよう姿勢を低くした。


「皆、突然ごめんね。私とも少し、一緒に遊んでくれないかな?」

「もちろん! 俺たち今、怪物と勇者ごっこしてたんだ。ウゴルも一緒にやるだろ?」

「いや、リコ様だけで俺は別にい……」

「問答無用!」

「うわあああっ!」


 ウゴルが返事をする前に、少年たちはウゴルに襲い掛かり、リコは少女たちに手を引かれて避難するように距離を取った。

 髪がぐしゃぐしゃになったウゴルに、反撃されて頭を押さえる少年の一人。リコの横にいた少女がくすくすと笑い、どこかぎこちなかったリコもそれにつられて自然に笑う。


「わたしはね、村人の役なんだよ。勇者さまに頑張ってって応援するの」

「私はお姫さま! 魔物に捕まってるんだけど……魔物役の子までウゴルと戦っちゃってるから、どうしよう?」

「私は商人! 勇者さまと仲間が持ってる木の枝が折れたら、代わりのものを渡してあげるの」


 少女たちは銘々にごっこ遊びの役目を説明した。じゃあ私は何をしようか、とリコが言えば、村人は沢山いてもいいんだよと少女が返す。少年に交じって飛び膝蹴りを食らわせる勇ましい女の子は一人しかいなかったため、結局はお姫様も商人も村人も、一緒になってウゴルと勇者たちを応援した。

 その賑やかな空間に、一つの影が近付く。影はいつもここにいない、しかし一度はここでも見たことのある一人を見つけ、足を止める。


「……お前は」


 は、とリコの体が強張った。


「あっ、神様だ!」


 何故、こんなタイミングで出会ってしまうのだろうか。

 動きの止まった集まりからウゴルを連れ出して、リコは素早くその横を駆け出す。今はその顔も見られない。


「こんにちは、神様。私はもう失礼しますので」


 頭を下げて言葉を残し、微かな風で揺れるローブを通り越す。


「!」


 はしり、と。手首が、冷たく骨ばった手に掴まれた。

 リコには一瞬、時が止まったように思えた。心臓がきゅっとして、鼓動が止まった気がしたから。

 時が動き始めると、その分バクバクと心臓が激しく鳴る。足に力を込めて進もうにも、その腕は存外力強く、屍の神から離れることはできなかった。


「きゃー、神様がリコ様の手を握ってるー!」

「ひゅーひゅー」

「何それ?」

「この間読んだ本に書いてあった。ラブラブな恋人を見たらこう言うんだって!」


 子供たちが妙な調子で囃し立てる。一人が無駄な知識をひけらかせば、それはあっという間に広まった。

 自分のしたことに今更気が付いたように、屍の神は慌てて手を放し、気まずそうな表情でリコに謝る。


「す、すまない」

「い、いえ……」


 それでも子供たちの騒がしい声は止まず、ぎこちない二人はウゴルにやんわりと誘導されて、町の外れに向かうことになった。




 中心部より少なくなった建物の影で、屍の神はほっと息を吐く。ウゴルも子供たちがいないことを確認して、二人に大丈夫だと伝えた。

 だがリコは子供たちから離れてもなお、静かなままだった。距離もどこか遠く、神が一歩近づけば、そっと一歩後ろに退く。

 先ほどの態度もそうだ。不自然に立ち去ろうとしていたのは、神にだってわかる。


「……何か怒っているのか? それとも、気を悪くさせてしまったか」

「別に……」


 リコは目を合わせずにその一言だけを呟いた。その一言だけしか、呟けなかった。

 もともと身分も貢物もない異世界の人間であるし、他の屍姫と同じがいいなどという我が侭など言えない。もやもやとしているのも自分の勝手な気持ちだ。

 リコも屍の神も、やはり黙り込んでしまう。

 静寂ばかりが続く空間に、ウゴルが意を決して言葉を発した。


「……リコ様は、ご自分だけが屍の神とお食事を共にできなかったことを、気に病んでいらっしゃいました」

「う、ウゴルくん! 私は、別に、そんな……」

「そうなのか?」


 驚いたように神は小さく目を見開く。それから口元へと手を当て少し思案し、ゆっくりと口を開いた。


「それは、すまなかった。……お前と私では感覚が違うのかもしれないな。食事は客人をもてなすために行うことだ。頻繁に会わない屍姫との時間を謁見だけで済ませていては文句も出るし、それで生殺与奪を決められたとあっては納得できないだろう」

(つまり、私は客ではなかったってことだよね……)


 リコは俯いて、ぐっと拳を握る。

 わざわざ言われなくともそんなこと、もうわかっている。せっかく自分から距離を置こうとしたのだから、嫌ならば、関わりたくないのならば呼び止めなければよかったのに。

 屍の神に責められる謂れはないはずなのに、リコの中にはどうしても嫌な感情ばかりがあふれてしまう。


「だが、お前とは単純に話してみたかったのだ」

「え?」

「突然この地に現れたと思えば、異世界から来たと言い、不思議な話をして、見知らぬ菓子を作る。私に選ばれれば生き返れると知っても迫ってくるわけでもなく、ただ静かに話ができた、そんなお前と」


 ようやくリコの目が、灰の目と合った。

 青白い顔は子供たちを見る柔らかなものではないが、真剣な顔つきで嘘を吐いているようには見えない。


「食事では距離が遠いし、どうしても給仕が必要になり、決して二人にはなれない。かといってお前を昼から夜までの長い時間拘束するのも、他の屍姫から苦情が出るだろう。だから時間をずらして二人きりになったのだ」

「それでは、スーディア様は? スーディア様とも二人きりになられたと聞きましたが」


 心なしか言葉が早口になってしまう。瞳は揺れ、期待しているような自分をリコは心の内で叱咤した。

 その様子に気付いているのかいないのか。屍の神はふうと溜め息を吐き、「あいつか」と頭に手を当てる。


「……あれはいつも城へと押し掛けてきてな。玉座の間で注意したところ、以降はやめるから一度だけ二人きりで話したいと迫られたのだ。二人きりで会ったところで、女の身に殺られるほど弱くはない。私を毒殺しても意味がなくなってしまうし、そういった不安はなかった」


 どうやらアイーシャの指摘通りだったようだ。

 じっと見つめているリコに疑われていると思ったのか、念を押すように、疲れた様子で低い声は続く。


「苦慮の末二人きりになったが決して大した話はしていない」

「そう、なんですか……」


 リコの口からほっと息が出る。肩の力がすうっと抜けた。


(あれ、何で私ほっとしてるの……?)


 答えは出ないまま橙色の陽が三人を照らし、影を伸ばしていく。茶会の後に町に寄り、子供たちと遊んでいたのだ。寄り道にしては少し長居しすぎたのかもしれない。

 屍の神はふと空を見上げ、目を細めた。


「日も暮れてきたな。いくら私の管理する領域とはいえ、夜は危険だ。そろそろ帰るといい」

「はい。今日は有難うございました」


 頭を下げ、礼を言った後のリコの顔は憂いが消え、明るい笑顔になっていた。

 そして神に背を向け、馬車を止めた町の入り口の方へと歩き出す。だが、神とリコの距離が空いてもウゴルはそこから動かなかった。


「我らが屍の神よ。あなたにはいつも感謝しています。……でも、リコ様を悲しませないでほしいんです」

「お前は……」

「俺はここで生まれた、あなたに生かされているただの砂の民です。屍姫に特別な感情を抱くなんていけないことで、無意味なことだとわかってはいます。だけど、リコ様は……」

「ウゴルくーん? どうしたのー?」


 いつまでもついてこないウゴルに、リコが遠くから声をかける。

 ウゴルははっとして、大声で返事をする。


「今行きますー! ……変なこと言ってすみませんでした。失礼します」

「……」


 ぺこりと頭を下げてリコを追いかけるウゴルを、屍の神はしばらく見つめていた。

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