考えたくない事
あれからダークゾーンからは気配を感じる事はなく、戻ってきたカルラが僕の髪の毛を見て驚いていた。
「申し訳ありませんでした! 私の勝手な行いのせいでマイセン様にご無理をさせてしまい……」
「いいよカルラ、死んだわけじゃないし、それに『気』の事が前よりもわかった気がするから」
そうは言ってもカルラは謝り続けていてキリがないから、槍の具合はどうだったのか聞いてみる。
そうすると謝っていたのが一転して、凄く嬉しそうに成果を話しだした。 とにかく魔法の武器じゃないかと思うほど貫通力があるって聞いた時、僕は1度その攻撃を鎧で受け止めているのを思い出して、改めて鎧と刀をくれた【鍛冶の神トニー】様に感謝した。
「それはそうと……」
カルラの槍の具合の話が落ち着いたところで、アラスカさんがダークゾーンからゼノモーフが来た事を報告しに行ったほうがいいって言ってくる。
そこで誰が報告に行くかで相談した結果、またもしゼノモーフが向かってきた場合、相手をできる者としてアラスカさんは残る事になって、そしてさっきのようにダークゾーンを抜けてくる前に倒せる僕が残る事になる。
「カルラ頼んだよ。 念のために僕のドッグタグも持っていって」
証明のつもりだったけど、それはまるで死んでしまったみたいだからって受け取るのを拒否してきて、なくても大丈夫だって言ってくる。
アラスカさんも奴隷が1人で行けば、それはなんらか主人からの伝言があるとわかってもらえるから必要はないって言われて納得した。
「じゃあ頼んだよ」
「はい! 急いで行ってまいります!」
本当に走り去っていく後ろ姿を見送って、思わず苦笑いを浮かべる。
アラスカさんがそれを見て不思議そうな表情で見るから、奴隷っていうのに慣れない事を話すとアラスカさんも納得していた。
2人きりになって僕はキャロのあの手足の事をアラスカさんに聞いてみる。 あれが果たして本当に治るものなのか……むしろまるでキャロが別の何かに変わろうとしているようにすら思える。
「正直なところ、長い年月いろいろ見てきたつもりだが、ああいう事例は初めてだ」
「キャロは本当に助かると思いますか?」
この質問にはアラスカさんの表情も曇る。 もちろん初めての事例なのだから簡単に大丈夫だなんて言えないからだろう。
「マスター……サハラ様がなんとかしてくれるのを期待する以外にはないな。 だがあの方は我々の知らない知識も蓄えている……ん、どうした?」
なんだか自分でもわからないけど、アラスカさんがサハラ様の話をする時の嬉しそうな顔を見ると凄くイラッとくる。 キャロがフレイさんと話をしている時も確かにイラッとしたけど、なんだかそれ以上に裏切られた気分になる。 僕が気を抜いていたから悪かったのもあるけど、ならなんであの時口づけなんかしてきたんだ。
「いえ、なんでもないです」
もう期待なんかするのはやめよう……期待? 何を? 僕がアラスカさんに何を期待しているっていうんだ?
それからは考える事をやめて必要最低限の返事だけするようにすると、僕の事をアラスカさんが気にしているようだったから、話を変えてカルラが無事に報告できたかの話題に変えようとした矢先に、カルラが走って戻ってきた。
「た、大変です! 町中にあの魔物が、ゼノモーフが人を襲っています!」
どういう事? だってダークゾーンは見張られていたはず。 なのに町にいるというのは、どこか別に入り口があるというのか?
もちろんもう1つの考えは頭に浮かんでいる。 でもそれは考えたくはなかった。
「ど、どうしますか?」
慌てる僕をよそに、アラスカさんは落ち着いて考えて僕たちはここにいるべきだって言ってくる。
町中であれば軍も動くだろうし、冒険者もいる。 数にもよるけれど鎮圧できなくはないだろうって事だ。
そして——————————
「マイセン、考えたくはないだろうが……おそらくキャロンの仕業だ」
アラスカさんがハッキリと答えてくる。
頭ではわかっているけど、認めたくない自分がいる。 そんな僕を呼ぶ声が聞こえてきた……
「マイセン、やっぱりここにいたんだ」
次話更新は明日の予定です。




