限界突破
新章に入ります。
ダークゾーンまで着くとギルガメシュさんとリセスドさんが身構えたけど、メーデイアさんの姿を見て気を緩めた。
近くまでいくと魔物の死体が幾つかある。
「こっちは何かあったかしら?」
「こっちは静かなものだ」
「こっちはという事は、そっちでは何かあったような言い振りだな?」
メーデイアさんが簡単にキャロの事を説明しながら、僕たちにあとを任せて戻っていく。 明日まで僕たちはここを死守しなくてはならない。
「マイセン様、もしよろしければ辺りの様子を伺ってきたいのですが」
「1人じゃ危ないよ」
とは言ったもののカルラはトップチームのパーティにいた1人のため、実力は相当あるらしくこの辺りなら問題ないそう……
ついでに言うと、ゼノモーフの尻尾の槍の具合も見たいんだとか。 つまり試しに戦ってみたいようで、どうやらカルラは僕の思っていた以上に好戦的な性格のようだった。
「あ、うん。 わかったよ、でも十分気をつけてね」
「はい、勝手な行動をお許しいただきありがとうございます」
律儀に頭を下げて1人離れていく。
そういうわけでアラスカさんと2人きりになったのはいいけど、さっきの事があってなんか話しかけたくない。 こんな事ならカルラにいて貰えば良かった。
「どうかしたのか?」
「別になんでもないです」
「私には怒っているように見えるが……」
「ただのヤキモチなんで気にしないでください」
合点がいった様子でアラスカさんが謝ってくるのと同時に、嬉しそうな顔を見せてきた。
「ヤキモチを妬いてくれるという事は、君も少しは私の事を思ってくれているという事ととってもいいのだろうか?」
何を言うかと思えば……ってアレ? なんで僕はこんなに苛立っているんだ?
「だが……とりあえず今は、あちらが先のようだ」
アラスカさんが立ち上がって剣を抜いて身構える。 僕も立ち上がって刀に手を掛けて、気配の感じる先、見つめる先は……ダークゾーンだ。
気配で移動してくる速度が人ではないのは間違いなくて、奴らにこの場所が見つけられてしまったとなると猶予はない。 カルラが戻って来次第早く報告しないと、大群で押し寄せられでもしたら勝ち目は無いだろう。
「1……2……3……4……5……6……6体で止まってくれたようだ」
「まずは僕が衝撃波を使います」
「わかった。 頼んだマイセン」
タイミングはアラスカさんにお願いして、僕は刀をチンと抜いて上段に構え、『気』を刀に乗せていく。
「今だ!」
アラスカさんの掛け声で衝撃波を真っ暗で何も見えないダークゾーンに向けて放つ。
無音の空間のせいで衝撃波で吹き飛ぶダンジョンの土の音さえ届いてくる事はなく、僕は気配で、アラスカさんは感知で相手の数を確認すると、やはり衝撃波程度で倒せる相手ではなかったようで、動きこそ一度止まったけど、すぐにこちらに向かって動きはじめた。
「アラスカさん、頼みがあります」
一気に6体相手はダンジョンの狭い中では厳しい。 だから僕はあとどれだけ使えるかわからないけど、『気』を放って数匹でも減らす案をアラスカさんに伝えて、残りをアラスカさんに任せる事にした。
「わかった、あとの事は私に任せてくれ」
刀を鞘に戻して近づいてくる気配を探り、鯉口を切って『気』を放つ。 絶命する声が聞こえてくる事は無いけど、今ので気配は1つ減った。
続いて次の気配に向けて『気』を放ち、また1つ気配がなくなる。 ここでかなりフラついたけど、このままだとアラスカさんは僕を庇いながら4体相手にしなければならない。
……まだだ、まだ倒れるわけにはいかないんだ!
「ハァッ!」
衝撃波を使ったあとに『気』による攻撃を3回目、これで3体目の気配も消えた。 その直後意識が遠のきそうになる自分の頬を、鞘を掴む手で思い切り殴りつけて意識を繋ぎ止める。 口の中に血の味を感じながら次の気配に向けて『気』を放った。
4体目の気配も消え残るは2体。 一瞬あとはアラスカさんに任せようかと思ったけど、僕の意識はまだある!
5体目の気配を絶ち、6体目、最後の1体の気配も『気』を放って気配がなくなる。 少し待ってみたけどそのあとに感じる気配はなくなって、全て倒したのを確認した。
なんだ、やればできるじゃないか……
意識が遠のいて崩れ落ちそうになる自分を、抱き支えてくれる感触を感じてかろうじて堪えて自力で立ち上がる。
「大丈夫です……」
「大丈夫なものか! 君は……君の髪が真っ白になっているぞ!」
アラスカさんに言われて自身の髪の毛を引っ張って見ると、色素が抜けきった真っ白な白髪になっていた。
次話更新は明日の予定です。




