事のはじまり
この章『事のはじまり』の最終話です。
大統領府に辿り着いてキャロのいる部屋に向かう。
扉を開ける前からキャロの悲鳴に似た叫び声が聞こえてくる。
「いい? 覚悟はしておいて」
頷いてから中に入ると、ベッドの上で泣いているキャロの姿があった。 ただ、涙を拭うその手は黒く、指は異様に長くなっていて、まるであの魔物……ゼノモーフの腕が肩から生えているようだった。
「キャ、キャロ……」
「マイセン! 私、私の手が……」
どういう事だ……間違いなく僕はキャロの体内に入る奴は殺したはずだ。 そして今だってキャロからはキャロ以外の気配は感じない。
「これは一体どういう事ですか!?」
「私にもわからないわよ、テレサの治癒魔法を使っても別に何も起こらないし、解毒やその他のやれる手段は全て講じているわ。 けれど、異常はなさそうなのよ」
メーデイアさんも困った様子を見せてくる。
そこに疲れ切った様子のシスターテレサと代行者のアリエル様が姿を見せて、アリエル様がキャロに魔法を使って強制的に眠らせた。
「見てみなさい」
そう言われて布団を退けてキャロの足を見せてくる。 そして足も膝から下がゼノモーフのように変わっていた……
「アリエル様、キャロは一体どうなっちゃうんですか?」
「わからないわ。 でも最悪は殺さなくてはならないかもしれない……」
「そんな……だってキャロの体内にいた奴は僕が間違いなく殺したはずです!」
「考えられる事は、寄生、または融合かもしれない」
不意に扉のところから声が聞こえて、そこには黒いローブ姿に深くフードを被った人物がいた。
「マスター!」
「やぁアラスカ、久しぶりだな。 それとマイセン、ずいぶんととんでもない力を得たもんだ」
「あなたはあの時の!」
その人こそ創造神の執行者であり、世界の守護者のサハラ様で、フードを後ろにどけると黒目黒髪の顔が伺えた。
そしてアラスカさんがそのサハラ様の事をマスターと呼んで、まるで……キャロがフレイさんに向けていた時と同じような顔で見つめている。
「その子はおそらく助からないかもしれない。 それどころかゼノモーフよりも場合によっては厄介な存在になりかねない」
詳しく聞くと、ゼノモーフ自体は創造神が太古の昔に創造したただの微生物のようなものだったらしかった。 それをどこぞのバカなウィザードが研究に使い、初期のゼノモーフが誕生したそう。
でも初期のゼノモーフは大した力もなく小さな虫程度のものだったけど、やがて他の虫なんかに寄生した事で成長していった。 らしいってサハラ様が言ってくる。
「らしいってどういう事ですか?」
「まだ俺が知らない頃の話なんだ。 それこそ人種の神だって今で言う3神、【自然均衡の神スネイヴィルス】【闇の神ラハス】【死の神ルクリム】しかいなかった頃だ」
そんな昔の話なんだ……
それでもしサハラ様の予想通りであれば、あれは更に進化する前触れだろうと言ってくる。
もちろん僕は体内にいた奴は殺した事は言ったけど、その残された異物自体にも何らかの力があると考えて間違いないって言われてしまう。
「キャロは助けられないんですか!? 創造神様の執行者様なんでしょう?」
「済まない。 俺に与えられている力は強力だが、それは世界を崩壊から守るための力であって、救う力はないんだ」
迷っている場合ではないらしく、今であればキャロは人として死ねるため、【死の神ルクリム】によって輪廻に還されるそう。 だけどもし魔物に変わってしまうと、【死の神ルクリム】の手を離れてしまうという事だった。
「私は嫌です。 まだ死にたくない」
まさかの声はベッドのキャロからだった。
1番驚いていたのはアリエル様で、私の魔法の効力が切れた!? って言っている。
「マイセンと一緒にいたい。 ね?」
なんだかキャロの言動がおかしい気がする。 ベッドから降りて僕のそばに向かってこようとしたけど、それをサハラ様が止めようとしてきた。
「おとなしくベッドに戻るんだ。 まだ助からないと決まったわけじゃない」
「嘘。 だってさっき殺す話をしたばかりじゃないですか?」
「それは俺では無理と言っただけだ。 伝はあるから信じてほしい」
キャロが僕の事を見てきて、頷いたらおとなしくベッドに戻ってくれた。
そのあと部屋を移してキャロのいないところで今日にでも話をしてみるそうで、サハラ様はダークゾーンの先は後回しになるから当初の予定通り、ゼノモーフたちが溢れ出てこないようにだけはしてほしいって言ってくる。 キャロにも一応見張りをつけるこよになって、僕とアラスカさんとカルラはメーデイアさんと麓に向かう事になる。
これがまさか事のはじまりだなんてこの時は思いもしなかった。
次話の新章の更新は本日後ほどする予定です。




