憧れの人と
背中にアラスカさんの柔らかい胸が当たって硬直して背筋が伸びる。 僕の肩にアラスカさんが顎を乗せてきて、耳元で囁いてきた。
「はしたない女だと思わないでほしい……」
アラスカさんは自身に残された寿命がもうそんなに長くなくて、残された時間を好きな人と一緒に過ごしたいなんて事を話してきて、そして名前こそ出さなかったけど私だけを見つめては貰えないだろうかだなんて言ってくる。 たぶんキャロンのことを言ってるんだろう。
「憧れの存在は好きにはなれないか? 私は……君のことが好きだ」
僕の耳元でアラスカさんがハッキリと告白してきた。
「すごく嬉しいです。 まさか憧れの人にそんな風に思われるなんて凄く光栄なことだと思います。 でも今はキャロの事とか亡くなった仲間の事もあるので……」
「君の心の片隅にでも置いておいてもらえれば今はそれだけで十分だ」
とは言ったけど、やっぱり嬉しいものは嬉しいし、背中に感じるアラスカさんの直の肌の胸の温もりが心地よくて、少しだけ目を閉じて身体の感触を味わう。
「……あ」
耳元で息を呑む声が聞こえて目を開けると、アラスカさんが肩越しから僕の股間を見つめて目を見開いていた。
「あ! うわ、ゴメンなさい、これは違うんでむぐぅ!!」
え? く、口づけをしてきた……
一度口を離して今度は僕の正面に回って、椅子から立たされて身体を密着してきて口づけしてくる。 唇の感触と小ぶりな胸の感触、そして自分のお腹とアラスカさんのお腹でサンドイッチされてる僕の……
「す、すまない……私としたことが、その、はしたない真似をしてしまった……」
口を離すなり顔を真っ赤にして謝ってくる。 このままだとアラスカさんに恥をかかせたままになるって思って、僕から今度は口づけをした。
「こ、これでおあいこですね」
「……君は本当に優しいな」
口づけをするまでは身体を見られても平然としていたアラスカさんが、今は恥ずかしそうにしていてそれがまたとても可愛らしい。
それ以上何かするでもなく、アラスカさんは顔を真っ赤にさせたまま脱衣所に行って着替えて出ていってしまい、僕も夢心地な気分のまま自室に戻って倒れ込むようにベッドに横になってそのまま眠ってしまった。
ノックの音で目が覚めて返事をしようとしたところで、今の状況に目を見開いた。
僕の横にはカルラが眠っている。 そこまではいい、でもその格好が問題で下着姿だった。
「ちょ! ちょっと待っててください!」
慌ててカルラを起こして着替えをさせる。 僕も急いで着替えを済ませてからドアを開けるとアラスカさんが待っていた。
「お、おはよう」
「お、おはようございます」
照れながらいつもよりも声のトーンも高く挨拶してきて、なんだか今日のアラスカさんはいつも以上に可愛く見える。 年齢で言えば僕なんかよりもずっと年上だけど、種族がエルフのために未だに若いまま外見が変わっていない。
「今日は食事を済ませたら、先に大統領府に行くんですよね?」
「メーデイアと一緒に行かないと2人に攻撃を仕掛けられかねないからな」
すぐにいつもの調子に戻ったようにみえたけど、僕を見つめてくる目がなかなか逸れなかった。
下宿先を出て、ヴェルさんから食事代を受け取りに行こうと冒険者ギルドに入ろうとしたとこで、メーデイアさんが小走りに慌てた様子で呼び止めてきた。
「メーデイアさん、おはようございます。 何かあったんですか?」
「ちょうど良かったわ! 説明は後、今すぐに大統領府に行くわよ」
それだけ言うとメーデイアさんが小走りで走り出して、僕たちもあとに続く。
慌てた様子からキャロの身に何かあったんではと思って、こ先頭を小走りに駆けていくメーデイアさんに追いついて尋ねてみた。
でも帰ってきた答えはそうよだけだった。
次話更新は後ほどで。
また、次の話でこの章の終わりになります。




