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失ったもの

 カルラと一緒にアレスさんの家に向かい、家のそばまで来ると10歳ぐらいの男の子が遊んでいて、僕たちの姿を見ると駆け寄ってくる。



「あれぇ? それお父ちゃんの槍だよ。 なんでお姉ちゃんが持ってるの?」


 子供の声で家の中から1人の女性が姿を出てきて、僕と目が合ったから頭を下げた。 カルラも僕を真似て頭を下げる。

 それで全てを察したのか、女性が両手を口に当てて涙ぐむ。


 男の子に外で遊んでいるように言うと、僕たちを家の中に入れてくれる。



「あの、これ……」


 カルラから槍を受け取って渡して、ドッグタグも渡す。



「あの人の最後は立派でしたか?」


 僕はアレスさんがカルラを助けるために魔物にやられてしまったこと、その後自分よりも他の人を優先して亡くなってしまったことをありのまま全てを話す。

 話し終わるとカルラがその場に両膝をついて謝りだして、アレスさんの奥さんはそれを貴女のせいじゃないって言ってカルラを立たせた。



 アレスさんは今回の捜索に参加する日の夜に奥さんに別れを告げていて、最初から生きて帰れないって思っていたみたいで、奥さんもアレスさんが昔から人一倍勘が鋭くて、危険予知能力の高い人だったって言って覚悟はしていたんだそう。



「これは国からの慰謝料だそうです」


 メーデイアさんから受け取ってあった小袋を手渡すと、どうでも良さそうに机の端によけて置いた。



「マイセンさん、あなたのことはアレスからよく話を聞かされていたわ」


 思い出話のようなアレスさんの奥さんの話に付き合ったあと、別れを告げて出て行こうとした時だった。 どこから聞いていたかわからないけど、アレスさんの息子が僕たちを睨みつけて通せんぼしてくる。



「大きくなったら僕も父ちゃんみたいな冒険者になる! その時は僕もお兄ちゃんの仲間にして!」


 アレスさんの仇をとるんだって言い張って、困った僕が奥さんを見ると奥さんが男の子にじゃあ早く大きくならないとね、そうしたらお母さんが頼んであげるからね、って言ってうまくなだめる。

 なので僕も待ってるよってしゃがんで目線を合わせながら頭を撫でた。





 アレスさんの家をでて日が暮れ出した町を歩いていると、カルラが僕にこれでよかったのか聞いてきて、僕もどう答えて良いかわからなかった。




「あ! そういえばカルラって宿屋とかどうしてるの?」

「一応奴隷扱いはしないと言われましたが、奴隷に変わりはありませんのでマイセン様のご厄介にならなくてはなりません」


 どうしよう……僕だって下宿なんだよね。



「えっとお金を払うから宿屋には……」

「奴隷は単身で宿屋を利用できません」




 というわけで冒険者ギルドに戻って、ヴェルさんに相談してみたら、下宿先は部屋が余っているからギルドマスターに確認を取っておいてくれる事になって、その間僕たちは食事をしに〔ヒヨコ亭〕に向かう。



「マイセン戻ったのね! あれ? 誰その子」


 すっかり忘れていた。 ソティスさんが訝しげな表情でカルラを見てきて、奴隷紋を見つける。



「えっともしかしたらマイセンの奴隷?」

「ええまぁ……成り行きで」

「マイセン様の奴隷になりました。 お店のご迷惑でしたら外でお待ちしますので」

「あ、うううん、主人がいるなら大丈夫よ」


 こういうのをいざ見るとカルラがやっぱり奴隷なんだって思い知らされる。

 お店に入るとごく当たり前のようにソティスさんは個室に案内してきた。



「あのソティスさん、今日は2人だけなんで……」


 当然え? って顔をされる。 なので頷くと強引に個室に案内された。



「こういう事聞くのよくないのわかってるんだけど、まさか全員……」

「あとはキャロが戻って来てます。 ただ怪我をして今手当てをしてもらってるから、しばらくは無理かもしれません」


 そう、とだけ呟くとソティスさんは個室を出て行く。

 立ちっぱなしのカルラに座るように言うと、僕の隣に座ってきた。



「部屋広いから隣じゃなくてもいいよ?」

「いえ、今のマイセン様の顔を見るのは辛いので……」


 相当ひどい顔をしてるみたいだ。

 料理が運ばれて、僕がどうぞって言うのを確認してから、カルラと広い個室の中でたった2人だけの食事をとりはじめる。 食べる音だけが響いてそれが余計寂しさを感じてしまう。


 その日はソティスさんも気を使ってくれて、料理を運んでくる以外は顔を出す事もなかった。



 2人で下宿先に帰る中、僕のため息が続く……



「こんなんじゃダメだな……」


 1人つぶやいて下宿先に戻った。




本日は後ほどもう1話更新します。

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