救出と撤退
シリクさんとテトラさんのドッグタグを握りしめた後キャロの元へ向かう。 何か粘液のようなもので壁に貼り付けられて身動きが取れなくされていた。
「今助けるから、助けるから」
「なんで? どうして?」
「まだハッキリとはわからないんだけど、僕はたぶんキャロの事が好きなのかもしれない」
必死に絡みついている粘液のような物を引き剥がしながら答える。 キャロは今の僕の言葉に驚いた顔を見せて、解放するとすぐに僕に抱きついてきた。
「たぶんでもいい。 マイセンの口から初めて好きって言ってくれた。 それだけで私、嬉しい」
「とりあえず今は急いでガラシャさんのところに戻ろう」
「うん!」
そういって振り返ると僕たちは既に魔物に囲まれていた。
「でも……それも無理そう、だね」
「そんな事ないよ、僕に考えがあるんだ。ちょっとゴメンね」
僕が刀を抜いてキャロを後ろから抱えるようにしながら首元に刀を当てる。 もちろん刃のない峰の方で。 たぶんあいつらには片刃とかわかるはずない。
すると僕の思った通り魔物たちが後ろに下がった。
「これって……」
「さっきシリクさんに言われてキャロに張り付いたフェイスハガーを見たんだ」
あの時に見たどれよりも大きくて、色も違う。 そしてキャロを守るような魔物の行動から気がついた。 気がつけた。
「君の中にいるやつは、たぶんあいつらの女王なんだよ。 だからあいつらは君には絶対手出ししないし、守ろうともしたんだ」
蟻や蜂なんかの集団で生きる昆虫に習性が似ている。
「こんな奴らの女王が私の中に……」
「大丈夫……でもないけど、必ず助かるから」
刀を首元に当てながら進んでいくと、面白いぐらいに離れてくれる。 キャロに前もって説明しながらみんなの元に進んでいくと、キャロがその時は手を握っててって言われて頷いた。
みんなが戦っているあたりまで戻る。
メーデイアさんにはどうやらこいつらの酸の攻撃も効果がないらしく、魔法や素手で次々と撲殺していっている。 ただ着ているものが酸ではだけていて目のやり場に困っていると、キャロに見ないのって怒られた。
そしてディルムッドさんと仲間のドラウの人は、その姿が瞬きするたびに違う場所へと瞬間移動しながら魔物を翻弄しながら戦っていて、ディルムッドさんは2本の槍で、仲間のドラウは2本の剣を使って戦っていて、リセスドさんは燃え上がる炎の鞭を振り回して魔物を寄せ付けない圧倒的な戦いぶりで、パーラメント一族が何か知らない僕でもすごいのだけはわかる。
ギルガメシュさんも矢も持たないで狙いも定めないで、ただ弓を引いて離すだけで勝手に矢が飛んで行って魔物に当たると爆発している。
これがダンジョン組のトップパーティの人たちの実力なんだと改めて感じた。
中でも凄いのはアラスカさんで、7つ星の剣に似た6振りの剣が踊るように勝手に次々と魔物に攻撃を仕掛けて、アラスカさんの近くに寄せつけない。
挙句、僕がキャロを連れて戻ると親指を立てて片目を瞑ってくる余裕まであった。
ただフレイさんは奴隷の女の子と一緒にガラシャさんを守って戦っているせいか、他の人に比べると少し地味に見えた。 でも周りの状況を把握していて、僕たちの姿を見て撤退の指示を出してくる。
僕の姿を見たガラシャさんが笑顔を見せたけど、すぐにその顔が曇った。
「マイセンさん、その、シリクは……」
何も言わずに2つのドッグタグを差し出して、受け取ったガラシャさんがブワッと涙を溢れさせた……
フレイさんの撤退の指示で全員がじわじわ下がりながら通路の方へ進んでいく。 当然魔物たちも逃すまいと群がってきている。
「ここは任された。 貴公らは行け!」
ディルムッドさんと仲間のドラウが通路の少し入ったところで足を止めた。
「大丈夫です! そんな事をしなくてもキャロがいれば手出しはできませんから!」
「しかしそのまま戻れば、こいつらに地上への道案内をしてしまうだけだ。 少しでも持たせるから、貴公らは行くんだ!」
ディルムッドさんが仲間のドラウに何か指示を出すと神聖魔法の祈りを捧げて、僕たちとディルムッドさんの間に見えない何かが出来上がる。
「聖域を作った。 仮に我らが死んでもこれの効果が続く間は安心だ。 さぁ早く行け!」
僕が動こうとしないでいると、いつの間にかローブを羽織ったメーデイアさんが引っ叩いてくる。
「君はここに何をしにきたのか? 目的を果たす気がないのなら、死んでいった者たちに申し訳が立たないわよ!」
「はい……」
ディルムッドさんに頭を下げてからみんなの後を追った。
次話更新は明日です。
また次話でこの章が終わります。




