攫われたキャロン
「生命体の正体」最終話です。
穴から出た僕たちを待っていたのは、死屍累々の惨状だった。 争った跡があって、6人のドワーフが既に気配が無くなっていて、テトラさんも倒れていて、シリクさんとガラシャさんが駆け寄った。
かろうじてヘラクレスさんだけが生きていて、僕たちの姿を見るとこう告げてきた。
「ウィザードの女の子、攫われた。 力及ばず、済まない」
ヘラクレスさんはまるでそれを僕らに知らせるためだけに必死に生きていたようで、メッセージが伝えられるとそのまま事切れてしまう。
「嘘だ! キャロが攫われた!? 殺されたとかならまだわかるけど、なんで攫われるんだ!」
自分でも驚くぐらい声を張り上げて叫んだ。
「マズイわね。 あの子がいないとダークゾーンの正確な位置が分からない……」
そのあと、メーデイアさんは信じられない事を口にする。
「仕方がないわ。 なんとか探して引き返すわよ!」
僕はそれを聞いて唖然となる。 メーデイアさんはキャロをアッサリと見捨てたからだ。
これには当然フレイさんが抗議してくれる。 しかし無情にもメーデイアさんはこれ以上ここにいれば、いずれは全滅してしまう危険があることと、この広い大広間を探すのは困難だと言ってきた。
「イヤだ! イヤだ、イヤだ、イヤだ! 僕は1人でも探す! 僕は約束したんだ! 絶対にキャロを守るんだって! ……みんなは行ってください。 僕は1人でキャロを探します!」
「先に言っておくけれど、私たちがダークゾーンを見つけて戻ったらここはおそらく封鎖されるわ。 それでも行くの?」
「はい!」
迷うことなんかない。 僕は約束をしたんだから。
僕の決意を見てメーデイアさんも諦めた表情を見せてくる。
「わかったわ。 ダークゾーンを発見したらそこでしばらく待っているから、それまでに見つけて連れもどりなさい!」
口調は厳しく言ったけど、メーデイアさんは片眼鏡に触れながら微笑んでくる。
「ありがとうございます! それでは……」
「私も付き合おう」
アラスカさんが僕の肩を掴んできてウインクしてくる。
「俺も行くぞ! キャロンちゃんは俺たちの仲間だ! それに……テトラの仇も取らなきゃいけねぇ!」
「もちろんイヤだなんて言わせないわよ」
シリクさんとガラシャさんも一緒に来てくれるみたいだ。
「憧れの存在が助けに行かないなんて、幻滅させるようなことはさせられないよな」
フレイさんはどうやらキャロの憧れの人っていうのを知っていたみたいだった。
そうなると、メーデイアさんたちダークゾーンに向かうのは、リセスドさんとディルムッドさんと仲間のドラウの神官、ハサンさんとその仲間の神官、ギルガメシュさんと……
僕が奴隷の女の子を見ると、一緒にくる気満々に準備をしている。
「私の方が7名、マイセンの方は6名……ちょうどいい感じに分かれたわね。 いい? 何事もなければ3日だけ待つわ。 それまでに絶対に連れて戻って」
「はい!」
メーデイアさんが用意してきた3日分の僕たちの食料を渡してくる。 それを受け取って2組に別れて行動を開始した。
制限時間は3日。 ダンジョンの中のため正確な時間はわからないけど、3日分の食料がなくなるまでは居てくれると約束してくれた。
「一緒に来てくれるのは嬉しいけど、死ぬかもしれません。 それでも良いんですか?」
最後に一緒に来てくれる仲間に確認をする。
「7つ星の剣がな……君を手伝えと言うんだ」
「覚悟はできてんよ!」
「神官は必要でしょう?」
「死んだ仲間たち、アレスの弔合戦だ」
「主様とは一心同体ですので」
そうと決まれば何が何でもキャロを見つけ出して連れて帰ってみせる。
シリクさんが足跡らしいものを探しながら進んでいき、僕たちも後に続く。
移動しながらフレイさんが僕に、攫う場合は何か理由があるはずだからすぐには殺されない、希望はあるって勇気づけてくれた。
キャロ待っててね、必ず助けるから!
次話更新は本日中に行います。




