待機組と調査隊
ドク(先生)が亡くなって、ガラシャさんとギルガメシュさんの奴隷の1人が祈りの言葉を捧げる。 残された6人のドワーフたちは泣き崩れていた。
「今は悲しんでいる余裕はないわ。 敵の正体が分かった以上、まずは一度集合してどうするかきめるわよ!」
非情とも言えるメーデイアさんの言葉に6人のドワーフたちが怒りの目を向けるけど、メーデイアさんの顔を見ると黙り込んだ。
なぜならメーデイアさんの言葉とは裏腹に、その顔は悲痛な表情を見せていたから。
残った6人のドワーフのうち、ドゥエルガルのグラン(いかりや)さんが先生のドッグタグを首から取って、最後の別れの言葉を言ってその場を後にする。
テトラさんの鼻を頼りに移動をしながら、メーデイアさんがヘラクレスさんにどこからどう襲いかかってきたのかなどを聞き出している。 僕も聞き耳を立てて聞いておく。
聞き出せたのは、あの魔物はどうやら洞窟の天井から音もさせずに不意打ちしてきたらしくて、突然落ちてきて先生があの尻尾で串刺しにされたんだそう。 つまりあの魔物は虫のように天井も這うことができるらしい。 加えてその速度の速さはかなりのもので、僕の知らない魔物の名前が出て、それぐらいだって言っていた。
「かなり厄介ね……強酸性の体液に強靭な身体組織、優れた運動能力……」
メーデイアさんは何かを考えながら移動していた。
手を繋いだままのキャロに、先ほど出た魔物のことを尋ねてみるとトロルという巨人族のことで、鋭い爪と機敏さを持っていて、そして自己再生能力で傷つけてもどんどん回復するんだそう。
自己再生能力はないみたいだったから、そのトロルという魔物よりはマシなのかもしれない。
移動している誰もが色々と考えを張り巡らせていると、ディルムッドさんたちの姿が見えてくる。 どうやら何かを見つけたようで、みんなでそれを覗き込んでいるところのようだった。
「みんなお揃いでどうしたんだ?」
特に何事もなかったからなのか、ディルムッドさんから僕らに声をかけてきた。
「今すぐにダークゾーンまで引き返すわよ! 急ぎなさい!」
「それは少しばかり待って欲しい。 妙な場所を見つけたんだ」
そういってディルムッドさんが指し示したものは、人1人が何とか通れる穴道で、それがずっと先に続いている。
「魔物が姿を見せてドクを殺したわ。 今は敵の正体が分かったのだから1度引き返せる場所まで戻って作戦を練り直そうと思っています」
ディルムッドさんが一瞬だけ驚いた表情を見せたけど、あのメーデイアさんがそうまでして引き返すといったことが気になったみたいで理由を尋ね出す。
「結論から言えば……究極の生命体と言うのが正解かしら。 あなたたちは見ていないから悠長にしているけど、あれが無数にいるというのであれば、報告書にあった通り決して地上に出してはいけないものだわ」
「随分と大げさだな。 ほかの奴はどうなんだ? 同意見なのか?」
実際に戦った僕たちはみんな無言になっている。
僕自身もあの魔物がもし蟻のように無数にいると想像したら、5千人の兵士が帰ってこないのも納得がいく。
「せっかく発見したものを調べもしないのは愚かだ」
無口なハサンさんが珍しく口を挟んできた。 他の冒険者はというとどちらとも言えない感じで、やっぱり冒険者なんだろうと思う。
「仕方がないわね。 それではここの先を少しだけ調べて、先に続くようならそこで考えることにする。 それならいいかしら?」
「それでかまわない。 それと向かうのは全員でなくていい」
この狭い穴を通るにはキツそうなヘラクレスさんはこの時点で待機組に決まって、それ以外の中から2隊が向かうことになった。
「それでは、一つはハサンとディルムッドの隊と……」
「俺様が行ってやる。もっとも、2人は無理して来なくてもいいんだぞ?」
嫌味な笑顔でリセスドさんとアレスさんの方を向いて言ってくる。 リセスドさんは迷う事なくギルガメシュさんの方へ歩いていったけど、アレスさんは迷っているようだった。
「クソッ! わかったよ。 行くぜ、行きゃいいんだろ!」
決まるが早いかハサンさんのパーティが、サッサと中に入ろうとする。
「待ちなさい。 先ほども言ったけど、調査だけよ。 奥につながる道があるようなら必ず一度引き返して」
「……わかった」
言うが早いかハサンさんが飛び込んでいく。
あの人には恐怖というのがないんだろうか? それとも僕が臆病なのかな……だとしたらやっぱり僕は冒険者としてはまだまだ未熟なんだろうか……
そんな事を考えているとハサンさんと仲間の3人も入って、ディルムッドさんと仲間の3人も入って姿が見えなくなる。 そしてギルガメシュさんは奴隷を先に進ませた後から悠々と穴の中に消えていき、リセスドさんも続いた。
「アレスさん!」
「おう、ちょっくら行ってくるぜ!」
笑顔を見せてアレスさんも穴の中に消えていった。
残された僕たちは調査隊が戻るまでの間、ここを死守しなければならない。 静まり返った大広間からは僕たちの息遣い以外に聞こえる音はない。
不意にキャロが手を振りほどいてくる。 手を振ったり摩ったりしながら、僕を見て声を出さないで痛いって口を動かして苦笑いして見せてきた。
どうやら知らず知らずのうちに、キャロを握っている手に力が入ってしまっていたようだった。
次話更新は明日のお昼頃になります。
夜って言っておいて、ギリギリの時間になってしまって申し訳ないです。




