竜角山麓
新章で、ダンジョンパートです。
霊峰竜角山の麓の入口までくると、冒険者でごった返していて、あちらこちらで仲間の募集や情報のやり取りなんかをしている姿が見られる。
僕はただの苔集めだから1人で麓にぽっかりとあいた入口に向かおうとした。
僕の姿を見るや静かになって小声で僕の事をチラチラ見ながら話しだすようになる。
特に気にしないで洞窟に向かうと、邪魔するように数名の冒険者が声をかけてきた。
「おー、誰かと思や、冒険者ギルドの職員さんとよろしくやってやがる坊主じゃねぇか?」
「孤児院の出の分際で、俺のヴェルさんと仲良くしてんじゃねぇぞ小僧!」
どうやらギルドの職員さんに親切にしてもらっている僕に腹を立てているようだった。
「べ、べつに仲良くなんて……孤児院出の僕に親切にしてくれてるだけです」
でもそれが発端となって、他の冒険者たちも集まってきていろいろと言われてしまい、僕はただ黙ってるだけしかできなかった。
「おいオメェら、俺の弟子になんか文句あんのか?」
そこにアレスさんが現れて一喝すると、まるで蜘蛛の子を散らすように離れていった。
「ありがとうございますアレスさん」
「いんや気にすんな。 散歩しに来ただけだからよ。 それよりお前さんも随分敵作っちまったなぁ?」
アレスさんの話ではヴェルさん、ウルドさん、スクルドさんは冒険者たちの間で3女神って言われているらしくて、その3人を独占するように優しくされている僕は憎むべき相手になっていたみたいだった。
「このままじゃ、お前さん仲間ができなくなるかもしれねぇなぁ」
「そんな……」
「仲間ができないならまだいいがな……」
そういうと耳元で囁くようにアレスさんが、ダンジョンの中は基本的に治外法権みたいなものだから、殺しにかかってくる奴も出かねないなんて脅してきた。
「そ、そんな脅かさないでくださいよ」
「いや、これはマジだぜ。 普段から魔物相手とはいえ殺しをやってる連中だ。 己が手を出さなくたって、魔物をけしかけたりすれば魔物に殺されたって理由もつけられるし、直々に手を下すバカもいやがる」
なんでそんな事……僕は何もしてないのに。
「とまぁ脅したが、しばらくは俺が一緒についていってやるから安心しろ!」
わっはっはってアレスさんが笑いながら僕の背中を叩いてくる。
「でもそうすると訓練場の方はどうするんですか?」
「ん? 訓練場なんかどうせ誰もこねぇから気にすんなって」
えぇぇぇぇぇぇぇ……
でもさっきアレスさんの一喝で冒険者たちが身を引いたぐらいだもんね。
「なんか心配そうな顔してやがるな? こう言っちゃなんだが……」
「よぉ! アレス、ここに顔出すの久しぶりだな。 戦神復活か?」
え! 今、戦神って言ったよね?
「いやぁ……もう腕は鈍っちまってるさ」
話を聞いているだけだったけど、アレスさんの知人らしい人が言うにはとんでもなく凄い人らしかった。
「この坊主……じゃなかったな。 マイセンはよ、たった1日で俺から1本取ったんだぜ?」
アレスさんの知人が僕にやっと気がついたように驚いた顔で見つめてきた。
「どっちだ? アレス」
「俺の予想じゃたぶん化けるな。 ただちぃとばっかし敵が多い」
理由は言わなくてもわかったみたいだった。
「マイセンか? 強くなれ」
「はい!」
それでその人は去っていった。
「んで? 記念すべき初仕事はなんだって?」
「えっと入口近辺に群生する苔の採取です」
「苔だぁ? オーデンの奴マイセンを素人扱いにも程があるぞ」
アレスさんに苔の事を聞くと、ダンジョン内はこの苔のおかげで薄っすら明るく見渡せて灯りの必要がないんだとか。 そしてこの苔は持ち帰って燃やす事で固形燃料となる。
「苔だけに固形燃料ってなぁー」
アレスさんが笑いながら教えてくれた。
そして僕はついに霊峰竜角山の内部に入っていった。