用意周到
ギルドマスターの部屋を出たところでフレイさんを呼び止めた。
「フレイさん、話があります」
「言いたい事はわかってる。 仲間を……キャロンを連れて行きたくないんだろう?」
「……はい」
「俺も同意見だ—————」
フレイさんが見解を示してきて、キャロンは機転がすごく効くウィザードだけど、第3位魔法が1、2度使える程度だと登頂でもデプス2かせいぜい3止まりらしい。
そしてそれはシリクさんたちも同様だって言ってきた。
「じゃあ、仲間には」
「言わないほうがいいだろう。 言えば必ずついてくるだろうからな」
「はい!」
これでキャロは無事で済む。 そう思いながら冒険者ギルドに繋がる扉を開けて出ると、そこには30名近い冒険者の姿があって、その中にキャロやシリクさんたちの姿もあった。
扉を出てきた僕とフレイさんの姿を見て近づいてくる。
「マイセン!」
「キャロ? それにシリクさんたちもどうしてここに?」
極めて冷静に尋ねると、僕とフレイさん2人が驚く返答が返ってくる。
「マイセン! 明日ダークゾーンに向かうって本当なの!?」
その一言に呆然となる。 たった今フレイさんと話して仲間には秘密にしていようと思っていたからだ。
「……なんでそれを?」
「呼び出されたの。 判断は任せるって言われた」
連邦捜査局(FBI)の用意は周到なようだった……
よく見ればギルドマスターの部屋を先に出たはずのハサンさんやヘラクレスさん、先生の姿も見えて、先生の仲間のいかりやさんたちの姿もあった。 つまり、今ここにいる冒険者は全員、ギルドマスターの部屋に集められた冒険者の仲間のようだ。
「やってくれやがった……」
フレイさんもそう呟いて諦めに似た顔を僕に向けてきた。
「おい、俺たち仲間だろ? ちゃんと説明してくれよな」
「そうだぞマイセン、リーダー」
「まさか2人して内緒で行こうとしてた、なんて事言わないわよね?」
そのつもりだったよ……
全てメーデイアさんの思惑通りに話は進められているようで、僕とフレイさんは諦めながらも先ほど聞いた話をした。
そして当然のように4人共ついてくる気でいる。
「マイセンとも話したが、お前たちは来るな。 冒険者に毛が生えた程度のお前たちは間違いなく死ぬぞ」
僕が言いにくい事をフレイさんはバッサリと切り捨てるように言い放ってくれる。 これで素直に聞き入れてくれれば嬉しいんだけど、帰ってきた返事はやっぱり違った。
「マイセンが行くのなら、行かなきゃいけないなら私も行く」
「俺も同意見。 まぁキャロンちゃんとはちとばかし意味合いが違うが、あの時もしお前を殺ってたらこんな暮らしはもうできなかったし、あいつらに殺されてた」
「そうだぞ。 だからマイセン、リーダーが行くなら俺だって行くぞ」
ガラシャさんも頷いてくる。 言葉だけは嬉しいけど、正直あれだけいた兵士が消息を絶ったのなら、30名程度の僕たちが行って生きて帰ってこられるとは思えない。だから……
「パーティは今日、今を持って解散します。 だからもう僕とは無関係です。 明日はついてこないでください!」
僕にできるのはこれしかなかった。 だけどその考えは甘かった。
「連邦捜査局(FBI)が言ってたわ。 決めるのは私たちだって。 だからパーティを解散しようがマイセンが行くのなら行くよ、私」
シリクさんたちも頷いてくる。
僕がフレイさんを見ると首を振ってくる。
「そこまで言うのなら、俺は何も言わない。 ただし、死ぬと思っておいてくれ」
はっきりとフレイさんは死ぬという言葉を使って確認してきた。 それでも4人の気持ちは変わらないみたいだ。
「それで? マイセンはパーティ解散するの?」
「……それなら、パーティは継続する。 その代わり……このパーティのリーダーは僕だ。 僕の指示には絶対に従うと約束してください!」
「聞ける命令なら聞いてやるよ。 だけどよ、俺らが言われてはいそうですかって素直に聞かない事ぐらいわかってんだろ?」
3人も頷きながら笑っている。 僕には4人の気持ちがわからなかった。
「それじゃあ私は明日の準備に取り掛かるとするわ。 きっといろいろあっても困らないぐらいの準備が必要だと思うから」
ガラシャさんがそう言って出て行くと、シリクさんとテトラさんも出て行く。 フレイさんも倉庫からありったけの用意するって言って出て行ってしまった。
僕とキャロは2人きりになる。
「ねぇ、マイセンは準備あるの?」
「僕は……準備っていうほどのものはないけど、シスターテレサに挨拶しておきたい……」
「なら、一緒に行こう?」
シスターテレサに挨拶をしに行くと、しきりに神様に祈っておくからと涙ながらの別れになった。
そして夜、〔ヒヨコ亭〕でソティスさんにも挨拶をして、集まったみんなも黙り込んだまま、まるで葬式のような夕食をとった。
次話更新は明日の朝6時頃になります。
次の話でこの章「クラン結成」最終話になります。
次の章からいよいよ死人が出まくる事だけは前もってお伝えしておきます。 一応相手が相手なだけに、まぁ仕方がないよなと納得はしてもらえるんじゃないかと思っています。




