軍隊の行軍
訓練場を追い出されるように出されて、僕とキャロはその場で無言のまま立っている。 さっきとはうって変わって、キャロは全く喋ってこないからなんだか僕も話しかけづらい。
「マイセンは凄いね」
やっとキャロが口を開いたと思ったら、なんだか元気がない。
「どうしたのキャロ」
「うん、なんかね。 どんどんマイセンが遠い存在になっていくように思うの」
「遠いいも何も……キャロは僕のパーティの仲間じゃないか」
「そうだね……そうだよね!」
そうは言ったけど、キャロの顔が少し曇って見えた気がした。
と、そこに麓から声が上がりだす。
「キャロ! 行ってみよう!」
僕が手を出すと、その手を見つめてから掴んでくる。
「うん!」
いつもの元気なキャロの返事が返ってきた。
最初は巨大ムカデでも現れたのかと思ったけど、そうではなくて誰かが演説を行っているみたいだった。
「諸君! これよりダンジョンの探索に入る! 頼りにならない冒険者の腰抜け共に、我らの実力を見せつけてやれぃ!」
ウオォォォォォォォォ!!
凄い声が上がってガチャガチャ音を立て出す。
「あはは、酷い言われようだね」
「あれは鼓舞って言って、励まし奮い立たせるものなの。 だからあれはわざとああやって大げさに言ってるだけなの」
「へぇ〜そうなんだ。 キャロはやっぱり物知りだね」
ニッコリ嬉しそうな顔を見せて、握った手に腕を絡めて柔らかな胸を腕に押しつけてくる。
「キャロンさん、その、胸が当たってるんですが……」
「だって、わざとだもん」
ふんわり柔らかな感触にどうしたものかと困っていると、また声が上がりだす。
「3列縦隊で進めぇ! 魔物が出たら確実に仕留め、怪我人が出たら直ちに救助に当たるように!」
ザッザッザッと竜角山に兵士たちが入っていく。 中には神官衣をつけた兵士もいるし、ローブ姿の兵士もいる。
「あれだけの兵士が行けば案外本当に探索しきっちゃうんじゃないかな?」
「うーん、でも、昨日テトラさんが言ってたように、兵士は魔物退治は専門じゃないからね。 それにトラップだってあるかもしれない」
「そっか……ところでキャロンさん、なんで僕の手を胸に押しつけてるんですか?」
「えへへ、マイセンに触ってもらいたいから。イヤだった?」
「イヤかそうでないかと聞かれたら、イヤじゃないです……」
「なるほどぉ、マイセンは好きっていうのは分からなくても、女の人に触れて嬉しいっていうのはあるんだね」
「そりゃまぁ……一応男ですから」
なんだか今日のキャロは積極的で困る。 そりゃ僕だって男なんだし、好きっていうのは分からなくたって女の人に興味がないわけじゃない。
「じゃあさ、私とキスしてみよっか?」
空いてる手の人差し指を唇に当てながら言ってくる。
「ういやぁぁぁぁぁぁ! きょ、今日のキャロちょっとおかしいよ! 一体どうしちゃったの!?」
離れようとしたけど、腕にしっかり絡みついたキャロを振りほどけない。
「さっきも言ったじゃない、マイセンが遠い存在になっていく感じがするって。 だから繋ぎ止めておきたいの!」
キャロが悲痛の声で訴えてくる。
そんなに僕は変わったのかな? 何も変わってないと思うんだけどな……うん……
「あのさ昨日、ウルドさんに言われたんだ。 好きっていうのがわからないのなら、無理して焦らなくてもいいって。 だから、今はゴメン。 自分で理解できるようになったら、その時はお願いします」
正直に自分の気持ちを伝えた。 キャロの事が本当に好きなのかもわからないでそういう事をするのは、なんか遊びみたいでイヤだったから。
「うん……わかった。 じゃあさ、頬っぺたにキスならしてもいい? これなら私の一方通行だよ」
「あ、う……そ、それなら……」
言いかけたとこで頬っぺたにキスをされた。 キャロみたいな美少女にされたと思うととっても嬉しい。
顔がニヤけるのを見られると、キャロは満足そうな笑みを浮かべた。
兵士たちがいなくなって、残された僕たちもその場を後にする。
次話更新は明日の朝6時頃になります。
次のダンジョンパートで苦戦してます……




