衝撃波
ついに放つマイセンの剣技!
1人サイクロプスの棲家を抜け出し、争いと雄叫びが上がる場所を後にした僕は、どのぐらいかかるかわからないダンジョンからの脱出を試みなくてはならなかった。
サイクロプスが冒険者との戦いがあった事を考えれば、未知のデプスではないのはわかる。 ただそれがダンジョン組のトップパーティじゃなければの話だけど……
どちらにせよ、僕には食料がない。 空腹で動けなくなる前に何としても地上に戻るか、運良く他の冒険者に出くわすしかなかった。
そのため余計な考え事をするのはやめて、ただひたすら気配に集中して魔物との遭遇を避けるほかない。
道もわからない、方角も分からない。 ただひたすら魔物の気配を感じたら回避しながら進んでいく。 途中で巨大なトカゲを見たところから、あれがサイクロプスの普段食べているものなんだろうか?
そんな余計な事を考えて注意が疎かになっていた僕は、曲がり角を曲がった瞬間にたくさんの人影と遭遇してしまう。
人の姿をしているのに気配をまったく感じない……ゾンビ、じゃない。 目が赤いからワイトだ。
『あいつらはワイトよ! あいつらに食い殺されると同じようにワイトになって蘇るわ』
ガラシャさんが確かそう言っていた。 首元を見れば、中にはドッグタグがぶら下がっているワイトもいる。 ここまで来れるような冒険者がワイトに負けるはずが無いと考えれば、どうやら死体でも喰われれば同族にされてしまうみたいだ。
とりあえず下手に逃げて挟み撃ちになったら、それこそ対処のしようが無いけど、だからと言ってこんな数の『気』が読み取れないワイトを倒せっこないし、ガラシャさんのようにターニングアンデッドもできない。
ワイトたちの手が伸びてきて僕を捕まえようとしてくる。 こんな奴らに喰われて死ぬのは嫌だ! どうしたら、どうしたらいいんだ!
とりあえず迫ってくるワイトの1体に向かって、この刀を試し斬りした木の時のように、『気』を通して斬りつける。
それで1体は倒せたけど、後から続いてくるワイトに掴まれそうになって慌てて距離をとる。
このまま後退しながら戦えば、いずれは倒せるかもしれない。 でもそれは後方の安全が確保できている場合だ。
その時ふと思う……
標的を決めなかったらどうだろう?
気配が読めなくても刀に『気』を通す事で斬れたけれど、もし標的を決めなかったら……
一度大きく後退して刀を上段に構えて『気』を刀に通して、標的を決めずに前方に向かって振り下ろした———————
スガガガガガガガガガガガガガッ!!
僕が刀を通して放った『気』が、前方にむかってまるで衝撃波が襲ったかのようにダンジョンの土を巻き上げながら駆け抜けていく。
そして……
あれだけいたワイトが全て僕の放った『気』による衝撃波で斬り刻まれて倒れていた。
とは言っても倒したわけではなく、衝撃波に斬り刻まれて吹き飛ばされた程度で、まだワイトたちは這いずりながら僕を捕まえようと向かってくる。
なので動きが鈍くなっている今、身近にいるワイトから順に頭を刀で貫いて息の根を絶っていった。
全部で16体……全てを倒したところで、改めて刀を見つめる。
今みたいに標的を決めずに『気』を放つと、衝撃波を発生することができるんだ。 ……なら標的を決めずに『気』を凝縮して放ったらどうなるんだろう?
そんな事を考えながら、僕は回収できそうなドッグタグをワイトの首から集めていく。
全てを回収し終えて立ち上がろうとした時、軽い目眩が襲いスタミナが消耗している事に気がつく。 どうやら『気』というのは無制限に放てるものではなく、僕の気力が関係しているみたいだった。
次話更新はお昼頃を予定しています。
ちなみに次話は短めです。




