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いろいろな葛藤

 息を潜めて逃げ出すチャンスをうかがっていると、サイクロプスは地面に投げ捨ててあった得体の知れないものを拾い上げる。

 それをおもむろに口にして咀嚼しだして、時折骨だかを吐き出しながら食べていた。


 ポトっと僕の身を隠しているあたりに何かが落ちてきてそれを確認する。



 ……それはドッグタグだった。

 となると、今サイクロプスが食べているのはここまで来れた冒険者たちということになる。 僕はぞっとする反面、ここがおそらくダークゾーンの先ではない可能性が見えてきた。



 生きて帰れるかもしれない……


 ただサイクロプスが次々と口に運んで食べる音を聞いていると吐き気を催してくる。 僕はそっと手を伸ばしてドッグタグを拾い上げるとポケットにしまいこんで目と耳を塞いだ。





 しばらくしてサイクロプスが動き出す気配で、耳を塞ぐのをやめてまた様子を伺う事にすると、僕たちが落ちた辺りの藁のようなものが敷き詰めてある場所に横になって寝はじめる。



 逃げ出すチャンスだと思ったその時、天上の穴からパラパラと砂が落ちてきた……



 まさか……そう思ったけどその通りで、ロープが落ちてきてシリクさんが顔を出してきた。 そして真下にサイクロプスが横になっているのを見て一度大きく目を見開いた後一目散に登っていく。

 サイクロプスは目が覚めてないようで、無事にシリクさんの姿が見えなくなったと思ったら、垂らしたロープも引き上げられていった。


 僕の姿は確認していないから、きっとみんなの元に戻ったら逃げたか殺されたって言ってるはずだろうと思う。

 そうなると、サイクロプスが寝ている今のうちに逃げ出すのが得策かもしれない。



 忍び足でゆっくりサイクロプスが入ってきた通路になる方へ進んでいく。 その時見つかったドッグタグは拾えるやつは拾っておいた。

 サイクロプスの棲家から出たまではいいけど、だからと言っていつサイクロプスが起きるかわからないし、サイクロプスが住んでいるような場所ということは、ここにいる魔物もそれ相応の奴らがいるという事になる。




 サイクロプスの棲家から少し離れてホッとしたところで僕は大事な事を思い出す。 それはサイクロプスが巨人族であることだった。

 巨人族であれば、必殺の力を持つ魔剣を所有しているフレイさんならば……キャロがそれを懇願したのならば、もしかしたら助けにきてしまうんではないだろうか……


 そう考えるとこの場を離れるのは得策ではないのかもしれない。

 迷いに迷った僕は、サイクロプスの棲家に戻って身をひそめる事に決めた。




 サイクロプスが寝ている間に、棲家の出来るだけ見つかりにくそうな場所を探す。 その時ふと、眠っている今、僕がサイクロプスを倒してしまえば良いんじゃないか? なんて事が頭をよぎる。

 だけどそのためには一太刀で仕留めなければならない。 もし失敗すれば、当然目覚められて戦う事になってしまう。


 素直にここは隠れてフレイさんが来る可能性に賭けるか、それとも眠っている今がチャンスなのか……






 結局僕はフレイさんが来るのを待つ事にして、隠れる事にした。 理由はフレイさんたちが来なければ、自力で戻らなければならない事に変わりがないから。

 そして隠れる場所は、悲しい事にゴキブリのよく隠れていそうな場所を参考にした。

 隠れている位置はダンジョンの天井の穴が見えるところを選んで、ただただ息を殺しながら見つめ続けた。




 しばらくすると、予想した通り穴からパラパラと砂が落ちてくる。 僕はフレイさんが来てくれたとそう思いつつも様子をうかがっていると、顔を見せたのは赤黒い顔をしたあの巨大なムカデだった……



 ムカデは頭のサイズから見てもこのあいだの奴と同じかそれ以上に見える。 それがゆっくりとサイクロプスの様子をうかがっているように見えた。




 サイクロプスを起こすかそのまま放っておくか僕は迷う。


 そして自分の命の危険をかえりみずに、僕はサイクロプスに大声で叫んだ。 叫ぶ事にした。 ムカデの奴はキバ毒を注入して動けなくしたら捕食しだすけど、他に獲物が見つかればすぐにそっちへ襲いかかるからだった。

 それゆえに助かるにはサイクロプスが簡単にやられては困る。 それが僕がサイクロプスを起こそうと決めた理由だった。



「起きろーー!! 起きてっ!」


 ガンガンと音も立ててサイクロプスを目覚めさせる。 一つ目の瞳が開くとすぐに起き上がり、音のする方、つまり僕を見つめてくる。



「サイクロプス! 後ろ! 後ろ!」


 巨大なムカデは突然の音に動きを一瞬こそ止めたけど、サイクロプスが起き上がったことで素早く行動に移しだす。

 サイクロプスは僕を捕まえようと手を伸ばしてきたけど、僕が逃げようともしないで指をさしてそっちそっちってやっていると、僕の言いたいことがわかってくれたのか、それともムカデのチキチキチキチキチキチキチキっと言う声に気がついたのか後ろを振り向いた。



「AAAGHHHHHHHHHH!!」


 サイクロプスが吠えて、飛びかかってきたムカデの顔を捕まえる。

 ムカデは当然長い体と足を使って巻きついてくるけど、サイクロプスはそれをいとも簡単に片手で引き剥がして、噛みつこうとしている頭を掴んだ手はしっかりと離さないでいる。


 僕はそのものすごい戦いを目の当たりにしながら、逃げるべきかサイクロプスの助けに入るか一瞬迷った。 だけどコイツはすでに同じ人種を捕食した相手なんだと、今のうちに逃げることに決めた。


 あの感じからするとどっちが勝つかわからない。 どっちが勝利を収めてもおかしくないと思う。 だけど心の中ではサイクロプスに勝ってほしいと思った。

 それは勝利を収めたものの追跡者が、ムカデよりはサイクロプスの方がマシだと思ったからだった。




次話更新は明日の朝6時頃の予定です。


やっと今、物語というかダンジョンの核心っぽい部分を書き始めています。

その時はたくさん名前が出るので、できるだけ覚えやすそうな名前を選んでみました。


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