助けと諦め
どれだけが経ったんだろう。
キャロはあれからずっと僕に抱きついたままで、さすがにそろそろ自力で戻るかの決断をしないといけない頃だ。
コツンッ!
頭に石ころが落ちてきて当たったと思うと、バラバラと砂も落ちてきた。
「キャロ! 助けが来てくれたよ!」
「うん!」
助けに来てくれた、来てくれたんだ。 そう思った矢先に、僕は行き止まった場所にあたるこの部屋につながる先から何かが近づく気配を感じた。
キャロには気づかれないようにしながら、ダンジョンの天上に空いた穴を見つめる。
ロープが落ちてきて少しすると、ザザザザザッと音を立てながらシリクさんが姿を見せた。
「2人共無事か? って、お邪魔だったか?」
言われて今もキャロが抱きついている事を思い出す。
「あ、いや、これは……」
「まぁ今更隠さなくたってみんなわかってるっつぅの。 さぁ、少しの間だけくっつくの我慢して、さっさと登ってズラかろうぜ!」
キャロが1度だけギュッと僕のことを抱きしめた後、離れて立ち上がった。
キャロもシリクさんもまだ気がついていないようだけど、確実に今こちらに何かが向かってきている。 急ぐ必要があると思った。
「キャロ、先に登って」
「うん」
キャロがロープを登りだして、ダンジョンの天上の穴の中に消えていくのを確認する。
「おっし、次は……」
「シリクさんが先に行ってください!」
ここでシリクさんもこちらに近づく何かに気がついたようで、僕のことを睨みつけてきた。
「お前、気づいてやがったな? 来る前にさっさと登れ!」
「僕は見ての通り鎧をつけているから登るのに時間がかかります。 シリクさんが先に登ってください。 早く!」
言われてシリクさんが急いで登り始めて、ダンジョンの天上にまで着くと身体を固定して手を伸ばしてくる。
「おらっ! 急げ!」
ロープにしがみついて登ろうとしたけど、キャロやシリクさんのように上手く登れない……
「……無理そうです。 僕を置いてそのまま行ってください」
僕が見つめる先に、光苔に照らされて薄っすらと影が覗かせる。
「バカ言ってんな! お前を置いていけるかよ! 早くしろ!」
チンッ!
刀を一閃する。 シリクさんの足元辺りからロープを切断してパラッと落ちた。
「これでもう無理です。 行ってください。 早く!」
シリクさんがまだ登ろうとしない。 だから僕は刀をシリクさんに向けた。
「もしシリクさんが見つかれば、そこから魔物が登ってきてしまうかもしれない。 だから早く行って穴を塞いでください!」
「————くそッ……俺ぁキャロンちゃんに何て言やいいんだよ……」
「すみません……」
諦めてくれたのか、シリクさんの気配を感じなくなった。
これでひとまず安心……なんてホッとしてないで、僕も急いで身を隠す場所を探して隠れないと。 いくら僕が『気』が読めるからといっても、それだけで強いわけじゃない。
そして迫ってきていたここの住人が戻ってきて、ゆっくりとその姿を見せた。
ずんぐりとした体型で身長は3メートルはある巨人で、顔には大きな目が1つと鼻と口しかない。
あれは僕でもわかる。 あまりにも伝説的に有名な一つ目巨人のサイクロプスだ。
僕はどうやらそのサイクロプスの棲家に落ちたようだった。
サイクロプスは棲家に戻ると、背負っていた得体の知れないおそらく生き物であっただろうものをドサドサと地面に投げ捨てて、棲家の匂いを嗅ぎだしはじめる。
あちこちを嗅ぎだして僕たちが落ちた場所まで来ると、その辺りを延々と匂いを嗅いでいる。 そして辺りを見回して、天上の穴を見つけるとしきりに覗いたり、手を伸ばしていた。
あの巨体であれば、あの穴を見つけても通り抜けられないから問題なさそうだ。
登るのに手こずりさえしなければ助かったのにな……
次話更新はお昼頃か夕方になると思います。




