覚醒していくマイセン
新章、ダンジョンパートになります。
アクセス1万、ユニークが2千人間近まで来ました。多くの方に読んでもらえて感謝です。
朝食を済ませて麓に向かい、仲間たちが集まると僕たちは竜角山に入り、ダンジョンに降りる道へと向かった。
「来る!」
「さっそくお出迎えだぜ!」
テトラさんが臭いで気がついて、シリクさんが下がって僕とテトラさんが前に出て身構える。
「来ない……ですね」
「おかしい、確実に近づいてきていたはず」
視界に入る限りでは近づくものの姿が確認できない。
「臭いでどんな奴かわかんないか?」
シリクさんが聞いてくると、テトラさんが鼻をひくつかせて嗅ぎ取りはじめた。
「あれ? いなくなったぞ」
不思議そうにテトラさんが首を傾げる。
結局しばらく待っても何も現れないし何も起こらない。 気のせいだったのかもしれないと、先に進もうとしたところで僕が『気』を感じとる。
「シリクさん止まって、この先に何かいる!」
目を凝らして見ると薄っすらと巨大なゼリー状の塊が見えた。
「下がれ! そいつはゼラチナス・キューブだ!」
フレイさんが叫んでダンジョンに落ちている石を投げる。
放物線を描いてシリクさんを越えた少し先の前方で石は宙に浮いたままになる。 それがゆっくりとこちらに近づいていた。
ゼラチナス・キューブ……この立方体の形状をしたスライムのような魔物は、別名ダンジョンの掃除屋であり特化した捕食者で、金属や石以外を溶かす酸を持つ。 ダンジョンで死んだ魔物や冒険者がいなくなるのはこのスライムが全て捕食しているからである。
気がつかないで接近してしまうと、強力な麻痺性のある粘液を分泌して麻痺状態にされた後に包み込まれてしまうらしい。
フレイさんの説明で接近することもできないで、まるで宙に浮いた石から逃げるように後ろに下がるしかなかった。
「やり過ごすのは簡単だが、コイツを見つけた以上放っておくわけにはいかないな」
透明性が非常に高いため、今やり過ごしてしまうと次にまた気がつくとは限らなくて、その時になって後悔することになるっていう事があるかららしかった。
「手っ取り早いのは魔法なんだが、無駄に生命力が高い。 そうなると火で焼くのがいいのだが……」
フレイさんが言いたい事は、このダンジョンには光る苔のおかげで松明が必要ないから、誰もそんな荷物になるものは持ってきていなかった。
「コイツを何人かで見張ってる間に麓に戻って、取ってくるっていうのはどうですかい?」
「それしかないか」
だけどそれだって確実性はない。 夜ならば麓には火が焚かれるけど、今はまだ早朝で準備されているかわからないはず。
「待ってください。 ガラシャさんはあいつの麻痺の治療は出来ますか?」
「できるとは思うけど、治癒系は接触する必要があるわ。 接触して私まで麻痺させられたらもともこうもないわよ?」
「それで十分です。 僕がやってみます!」
僕の考えた案はこうだ。 まずロープで身体を結んでもらって、みんなにいつでも引っ張ってもらえるようにする。 もし僕が麻痺をしたら、引っ張ってもらってガラシャさんに治癒して貰えばいい。
さっそく準備に取り掛かるんだけど、フレイさんが僕はパーティリーダーなんだから自分がやるって言い出してくる。
「試したいんです。 この刀を『気』を。 だからお願いします!」
僕の真剣な眼差しを見て、フレイさんがわかったって譲ってくれる。
準備が整った僕は、じわじわと近づくゼラチナス・キューブの前に立ちはだかって刀を抜く。
鯉口を切るとチンっと綺麗な音色が辺りに響く。 そして上段に構えて『気』を集中させた。
通常、戦士であれば武器を当てるためには数歩足らない距離から振り下ろす—————
僕の『気』が刀の刃を伝っていき、ゼラチナス・キューブに到達する感じがわかる……
一瞬光のスジのようなものが見えた気がした。
そして……
悲鳴もなくただ真っ二つに切れたゼラチナス・キューブがその動きを止めて、体内に消化できずにあったものが力無く地面に落ちるのが確認できる。
やった!
「スゲェぞ! コイツ、ゼラチナス・キューブを一刀両断しやがったぜ!」
「まさか……信じられん」
「さすがだマイセン、リーダー!」
シリクさん、フレイさん、テトラさんから驚きや称賛の声が上がるなか、振り返ってキャロを見ると片目を瞑ってズビシッと指を立ててきた。
「決して強いというわけではないけど厄介と言われたゼラチナス・キューブを一刀両断とは恐れ入るわね」
ガラシャさんもやっと声が出たようだった。
僕は自分の手にある刀を見つめて、今までと違って『気』が刃を伝っていった感触を思い返していた。
次話更新は明日の朝6時頃を予定しています。




