心の穴
「パーティダンジョン」最終話です。
〔ヒヨコ亭〕の中に入るとソティスさんがすっ飛んできて、僕たちだと気がつくと嬉しそうな顔をみせてくる。
「いらっしゃいませ〜、ってマイセンじゃない。 っと、仲間の人も一緒なんだ?」
「うん、ダンジョン帰りなんだ。 それで今後はここ、〔ヒヨコ亭〕を僕たちの拠点にすることにしたんだ」
ソティスさんがそっかそっかって嬉しそうな顔を見せて、それならもしぴよぴよルームが空いてたら僕たちには予約がなくても優先して使わせてくれるなんて言ってくれる。
「さすがマイセン、このスケ……うおォォォォォォォォォォォ!」
シリクさんが何か言おうとしたところで、ガラシャさんが何かしたみたいだった。
ぴよぴよルームに入って、昨晩同様の配置で座って無事に生還した事を乾杯をする。
そして話題はやっぱりあの巨大なムカデの話になって、そうなってくると必然と他にもダンジョンで遭遇する可能性のある巨大な虫を想定した話も出はじめる。
「ダンジョンで他に見る虫系っていうとよ、やっぱ……」
ゴキブリ。 誰もがそう口にする。
「普通のゴキブリなら食器用の洗剤をかけてやると、体にある油っ気がなくなってすぐに死にますよ?」
みんなの顔が一斉に僕を見てくる。 そして口々にうちには害虫退治のプロがいたとか言われた。
「問題はそれだけの洗剤を毎回運んでいられないってことだな」
「ならムカデ同様、熱湯か氷水ですね。 キャロが使った魔法で十分死ぬか、殺せなくても動きは相当鈍くなるはずですよ。 あとはお腹が弱点なので、ひっくり返して武器で殴ってやれば楽勝です」
今度はみんなの顔が引きつらせながら、僕のことを見てきた。
「まぁ何はともあれ、虫系がでたらマイセンに必ず弱点を聞くようにするのが良さそうだな」
「そうね、あのムカデだってマイセンがいなかったら私たちだって今頃は……」
僕の隣に座ってるキャロとフレイさんが僕を見ながら頷いてた。
そしてここで話は変わって、テトラさんが僕の武器と防具をそろそろしっかりしたものに変えるべきだっていってくる。
そう言われてみて、改めて僕はみんなの武装を見回す。
フレイさんは頑丈な、フルプレートとチェインメイルの要素が組み合わされている 籠手と兜のついたハーフプレートで、しかも最低級魔法の効果を無力化する魔法の鎧を着ていて、剣は細身の剣だけど巨人族に対して威力を発揮する魔法の剣。
テトラさんは前衛を務める冒険者に1番人気のブレストプレートアーマーって言う胴体のみの金属製鎧に、武器はモールを使っている。 魔法の効果があるのかはわからないけど、とにかく振り回すのが好きみたい。
シリクさんは僕のとは違って、シーフギルドでしか入手できないレザーアーマーらしくて、盗賊としての動きを考慮された機動性と柔軟性と防御性に優れたものなんだそう。 武器はダガーしか使ってるのを見たことがないけど、ショートソードも腰に下げてる。
ガラシャさんの防具はハイドアーマーで、レザーアーマーより厚い皮をなめして保存加工した鎧の上に神官衣を着ている。 武器は腰にフレイルを下げてるけど、握ってるところはまだ見たことがない。
最後にキャロ、僕とパーティを組むようになってから防具はローブから、今風のウィザードらしい青色のチュニック風の服装に変わって、フード付きのマントを羽織って足はハイロングブーツを履いている。 武器は護身用のダガーだけで、普段手に何かを持ってることはまず見たことがない。
そんな中、僕の武装は使い古したレザーアーマーに、同じく使い古したの剣だけだった。
「うん、確かにそろそろ自分に合った武器と防具を揃えるべきだと思うよ」
キャロにまで言われる。
まぁ実際のとこ、今日ムカデに巻きつかれて、レザーアーマーもかなりの損傷を受けたから、ちょうどいいタイミングかもしれないのかもしれない。
「じゃあ明日にでも町を回って探してみます」
「まぁ、みんなも今日の探索で用意するものなんかもあるだろうし、何よりこのパーティは冒険者ギルドの規定した人数はいないからな。 明日はとりあえずのんびりとしようか」
次の探索は僕の武装も整ってからで、早くて明後日ということになって、食事をしながらみんなで閑話を楽しんだ。
食事も済んでみんながそれぞれ宿にしている宿屋に戻っていくのを見送る。
1人きりになって僕も下宿先に向かいながら、今まで感じたことのない妙な孤独感に、その理由を考えていた。
『ほーん、つまり少年はキャロンが好きなんだ?』
そこでウルドさんに言われた言葉を思い出す。
僕がキャロの事が好き? それはありえないか。 だって僕には人を好きになるっていう意味がわからないんだから……
それにキャロにはもうフレイさんがいるんだから、そんな事考えたって意味はないしね。
きっと冒険者になって、仲間ができたからだよね。
無事にお昼に更新できました。
次話更新は明日の朝6時頃です。




