巨大ムカデとの遭遇
ちょっとグロいかも。
たぶん来た道を移動しながらシリクさんが今日の戦利品の話をしはじめる。 たったゴキブリ3匹と粉砕したワイト数体とオーガ2体とオーガメイジ1体だけだというのに随分機嫌がよさそうだった。
「シリク、あまり浮かれて罠とかに引っかかるなよ」
テトラさんが注意をするけど大丈夫、大丈夫って言って、すっかり浮かれているようだった。
チキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキ……
そんな音が聞こえて足を止める。 浮かれきってると思ったシリクさんも立ち止まって警戒していた。
「今のは?」
静まり返ったダンジョンに僕の声だけがやたらと大きく聞こえる。
「何でもねぇ……って訳はないな。 フレイさんはアレが何かわかりますかい?」
「虫系の発生する音……だが、デカイな」
みんなが警戒して辺りを見回していると、先の方から争う音と悲鳴や怒号が聞こえてきた。
それを聞いた僕は、1人勝手に走り出していた。
争っているであろう場所に辿り着いて、その惨状に思わず吐き気を催す。
大きさにして6メートルはあるだろう巨大なムカデが、1人の冒険者に巻きついて頭から食べている最中だった……
仲間らしい冒険者たちもムカデのキバ毒にやられたのか、倒れて苦しそうに呼吸を求めて口をパクパクさせながらのたうち周りながら喉を掻きむしっていた。
その巨大なムカデが、新たな獲物である僕の姿を見つけると巻きついて食べていた冒険者から離れて、僕の方に移動しはじめた。
「うおっ! なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁ!」
後を追ってきたシリクさんが声をあげる。
僕は僕に迫ってきたムカデの『気』を読んで、躱したつもりが巻きつこうとしてくる。
『気』で相手の動きがわかっても、その速度についていけなければ躱すこともままならない。
あっけなく僕はムカデの大量の足に捕まれ絡みつかれて、身体の自由が無くなり自分の天地状況がわからなくなった。
分かったのは、自分の頭の辺りから、チキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキと声のようなものを上げながら、赤黒い顔についている巨大なキバが迫ってきている事だった。
「うわっ、うわぁ—————————!!」
首筋に激痛が走る。 直後、呼吸ができなくなった。
そこでムカデの束縛が解けて地面に落とされたけど、僕も先にいた冒険者同様、空気を求めてのたうち、喉を掻き毟る。
「天にまします我が御主【旅と平和の神ルキャドナハ】よ、かの者の体内に入り込んだ毒素を取り除きたまえ、毒素中和!」
誰かの手が触れてきて、呼吸ができるようになる。
落ち着いたところでガラシャさんの神聖魔法で、毒が中和された事に気がついた。
「あ、ありがとうございますガラシャさん」
「礼はいいわ、早く起きて」
ガラシャさんがそう言うとすぐに離れていく。
僕も首筋に噛み付かれた痛みを抑えながら立ち上がると、フレイさんとテトラさん、シリクさんが必死に武器を振り回して巻きつかれないようにしていた。
「糞ガッ! まるで鉄みたいな硬さだ!」
「モールが弾かれる!」
そんな叫ぶ声が聞こえる。
僕のそばにはキャロが走り寄ってきていて、身体を支えて心配そうな顔を見せてくる。
「酷い傷……」
「痛みはあるけど大丈夫、それよりもあのムカデが家に出るのと同じなら、熱湯か氷水をかければ簡単に死ぬはず……」
「……! うん、わかった、あとは私に任せてマイセンはちょっと休んでて」
キャロが僕から離れて、ムカデの方を向いて魔法の詠唱に入った。
「冷たき空気と光の光線よ、我が前の敵を凍えさせろ! 冷気光線!」
キャロの詠唱が終わって、ムカデに向かって指さすと指先から白っぽい光のようなものが一直線にムカデに向かっていく。
その光線が当たると僕の思ったとおりの事が起こった。
ギギギギギギギギギギギギギギギッ!
光線を浴びたムカデが悲鳴のような声を上げて丸まっていく。 光線が切れる頃にはムカデは丸く固まって動かなくなっていた。
「や、やったぜ!」
「おお、倒した? のか?」
痛みをこらえながら立ち上がるとそんな声が聞こえて、フレイさんが良くやったって言いながらキャロの頭を撫でて、嬉しそうにしているキャロの姿が映った。
そしてなんとかガラシャさんの解毒が間に合った冒険者たちから感謝される。
「本当に助かったよ、ありがとう」
代表して僕たちに感謝してくる。 モザイク必須の頭を途中まで食べられて死んだ冒険者と、解毒が間に合わなかった冒険者からドッグタグを取って、何度もお礼を言ってくる。
「これから戻るところですが、一緒に来ますか?」
首を抑えながら僕が言うと、ぜひお願いしたいって言われて一緒に麓に向かう事になった。
本日はたぶんこの1話だけになります。
次話更新は明日朝6時頃の予定です。




