蟲に強い男は嫌いですか?
キャロにお説教されたあとは、さっきも聞いてきたバグベアの事だった。
僕自身は目が見えてなかったから、どうやってバグベアを倒したのかわからない。 だけど、そのバグベアの死体は真っ二つに切り開かれて死んでいる。
「あの時は目も見えなかったからわからないし、剣も命中してなかったはずなんだ」
僕は斬った手応えが全く感じなかったことをキャロに話す。 キャロに言われて僕の剣を見せたけど、剣にはバグベアをここまで真っ二つにしたというのに、刃こぼれはおろか血も一滴もついていなかった。
「どうやらマイセンはとんでもない力を秘めていると思うの」
そこでキャロは僕にバグベアを攻撃した時のことを思い出すように言ってくる。 僕もその時の事を必死に思い出してみると、1つだけ思い出したことがあった。
「えっと、目が見えなかったから、気配を斬る感じで剣を振ったと思う」
「気配を斬る……」
キャロが顎に手を当てて考えだしたから、何かわかったのかと思って期待したんだけど、あっさりキャロは戦士じゃないからわからないで片づけられた。
長く同じ場所に留まるのもよくないからって言われて、バグベアの荷物を漁ってさっさと移動する。
カサカサカサ……
そんな音が聞こえた気がした。
気配を探しながら慎重に見回すけど、見当たらない。 気がつくとキャロが僕の横に不安そうな顔をしている。
「大丈夫だよ、気配は近くにないから」
そういうとキャロも頷いてくるんだけど、片手がシッカリと僕の腕を掴んでいて、頼られてる気がすると嬉しく思った。
またしばらくするとカサカサカサっと音が聞こえてくる。 今度はさっきよりも近い感じだ。
「マ、マイセン、引き返そう……なんだか嫌な予感がする」
腕を掴む手が、腕に絡まってきてキャロの柔らかい胸の感触が当たる。
「キャロ! ちょっと、胸、胸が当たってるよ!」
「そのぐらいで慌てないで。 それよりも……」
キャロの視線が、ある一部の場所を凝視したまま凍りついたように見つめている。 その視線の先に目をやると、黒く脂ぎったような黒い塊がいつの間にかいて、まるでこちらを伺っているかのように見えた。
大きさにして50㎝ぐらいだろうか? ゴキブリだった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
キャロが悲鳴をあげて必死に僕にしがみついてくる。 そんなキャロを見て、孤児院にいたときも一緒に暮らしていた女の子やシスターテレサが嫌がっていたのを思い出した。
キャロの悲鳴が合図となったように巨大なゴキブリ、ジャイアントコックローチがこちらにものすごい速さで向かってきだす。 それを見て僕は……
ドバンッ!
とっさに背負袋を使って叩き潰した。
「ゴキブリは苦手? やっぱりキャロも女の子なんだね」
何事もなかったように背負袋を背負い直す。
ブチッと潰れて動かなくなったジャイアントコックローチに満足しながら聞くと、僕の腕を掴むキャロの手が離れて、今度は僕のことを信じられないものを見たような顔で見てきた。
「孤児院にもここまで大きくないけど、よく出てきて退治するのは僕の役目だったから慣れてるんだ」
「な、慣れているっていってもそれ、一応魔物の扱いで襲ってくるのに……」
へぇゴキブリの癖に襲ってくるんだ。 っていうかアレスさんもジャイアントコックローチがどうの言っていたけど、本当は強い奴だったのかな?
「ちょっとその背負袋、絶対に私にくっつけないでよね」
無情なキャロの言葉に気を落としながら、今度来るときには虫叩き用に使えそうなものを持ってこようと心に誓う。
「もしかしてマイセンって昆虫相手に苦手意識ない?」
「うん、ゴキブリ、ムカデ、ヤスデにハチ。 たいていの奴は毒とかなければ手でもいけるよ?」
「ひぃっ!」
今度はまるで汚いものを見るような目でキャロが僕を見てくる。
「手はちゃんと洗ってるから……」
言い訳はしたけど、それ以降キャロが僕の後をついてくる距離が少し離れた気がする。
そうなこんなで、さらに奥へ進んでいくと目の前に真っ暗な空間がある。
手を入れても見えないだけで空間が広がっているのは間違いない。
「キャロ、これってなんだろう?」
「たぶん……闇化する魔法の永久化あたりかしら? 特に害はないけど、視力は頼れそうにないと思うの」
問題はこういう場所は視力を必要としない魔物との遭遇や罠があるといけないから、よっぽどの理由がない限り進まない方がいいらしい。
「なら止めておこう。 それにそろそろ夜も近いんじゃないかな?」
「その方が賢い選択だと私も思う」
2人の意見も一致したところで戻ることにする。 その際、もし魔物と出会うことがあったら気配を絶つ斬り方を試すようにキャロに言われた。
次話更新はお昼頃を予定しています。




